組織の生産性低下対策の一つとして企業で導入が進むEAP。従業員のメンタルヘルスケアはリモートワークが増えるといった働き方が変わった近年で、より注目されるようになりました。
当記事では、EAPについて、基礎知識や導入するメリット、導入時・運用時の注意点などを解説します。
組織の生産性低下対策の一つとして企業で導入が進むEAP。従業員のメンタルヘルスケアはリモートワークが増えるといった働き方が変わった近年で、より注目されるようになりました。
当記事では、EAPについて、基礎知識や導入するメリット、導入時・運用時の注意点などを解説します。
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)とは、アメリカ発祥の職場におけるメンタルヘルス(心の健康)ケアサービスです。
1950年代にアメリカで社会問題となっていたアルコール依存従業員への対策に端を発し、仕事の生産性とメンタルケアの関係性が注目されて以降は世界中の多くの企業に利用されています。
具体的にどのような支援を行うかは、日本EAP協会の公式ホームページによると以下のように定義されています。
Employee Assistance ProgramまたはEAPは以下の2点を援助するために作られた職場を基盤としたプログラムである。
1.職場組織が生産性に関連する問題を提議する。
2.社員であるクライアントが健康、結婚、家族、家計、アルコール、ドラッグ、法律、情緒、ストレス等の仕事上のパフォーマンスに影響を与えうる個人的問題を見つけ、解決する。
引用:日本EAP協会「国際EAP学会(EAPA)によるEAPの定義」
定義が示す通り、メンタルヘルス不調だけでなく、ハラスメントの悩みや、家庭環境、経済的な不安や依存症など、健康維持に関する様々な問題を広くカバーする機能があります。
実態としてのサービス内容は、主にストレス診断・EQ(心の知能指数)診断や相談窓口の設置、セミナーの開催など企業によって様々です。
厚生労働省が定期的に実施する「労働安全衛生調査(実態調査)」では、現在の仕事や職業生活で強い不安やストレスの原因を抱える労働者の割合が82.2%(令和4年 【個人調査】)という結果が出ています。
また、過去1年間(令和3年11月1日~令和4年10月31日)にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休職または退職した労働者がいた事業場の割合は13.3%(令和4年 【事業所調査】)となっています。
個人レベルでは過半数を超える労働者がストレスを抱えていて、それが原因で休職・退職する人も決して少なくないというのが現状です。
2014年に施行された労働安全衛生法の改正では、従業員のストレスチェックやその結果を受けた面接・保健指導を義務付けるように定められました。
こうしたストレス社会の実態や法改正を受け、各企業はこれまで以上に従業員の安全と健康だけでなく、メンタルヘルスケアに対策を講じる努力も求められているのです。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」
厚生労働省「令和4年 『労働安全衛生調査(実態調査)』結果の概況」
EAPは元々アメリカ発祥でしたが、メンタルヘルスケアの重要性が高くなったことを受けて、今では厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で示されているメンタルヘルスケア「4つのケア」に含まれています。
4つのケアには、従業員自らストレス予防を行う「セルフケア」、管理監督者が従業員に対して行う「ラインによるケア」、産業医や保健師など事業場内にいる産業保健スタッフによる「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、事業場外の専門家によるケアである「事業場外資源によるケア」があります。
EAPは「4つのケア」のうち、「事業場外資源によるケア」に該当します。指針に沿い、従業員のメンタルヘルスケアを行うことは企業イメージの低下防止や向上にも役立つでしょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持促進のための指針~」
EAPはこの事業場外資源によるケアに該当し、専門家により行われるケアのことをさします。医療機関や保健所なども事業場外資源にあたります。
会社には知られたくない、あるいは社内の人間関係の悪化など、気を遣って相談ができないといった遠慮をすることなく頼ることができるため、外部に相談先があることは従業員にとって大きなメリットです。
企業がEAPを導入するメリットは主に以下の3点があげられます。
長期的なストレスによって精神面が不安定な状態が続くと、従業員は自身の能力をうまく発揮できず、生産性の低下を招く恐れがあります。個々が抱えているストレスが解消されない場合、職場全体の労働環境が悪化や従業員の休職・離職に繋がる恐れも考えられます。
EAPには医師や公認心理士、保健師など、各分野の専門家が在籍しています。
EAPは精神科とは異なるので相談へのハードルが低く、福利厚生の一つなので費用もかからないことがメリットになります。
気軽に相談ができるため、早期治療にもつながり、従業員のメンタルケアに貢献します。
社外への相談ですのでアドバイスに偏りが出ないので、適切な対策を取り入れることができるのもメリットの一つです。
職場の人間関係や業務についての悩みやストレスは、パフォーマンスの低下に影響が出てしまいます。EAPの導入で、仕事のことからプライベートの悩みまで、気軽に相談ができるようになるので、早期にストレス要因を発見し治療することができます。
メンタル不調は離職や休職の原因の一つです。
職場の人間関係や業務におけるストレスは社内に相談することは難しいと感じますが、外部に相談ができるEAPはその心理的ハードルを下げて、メンタル不調を早期改善ができることでしょう。
EAPの導入は従業員だけでなく、会社側にとってもメリットとなります。
生産性向上や離職率低下のほか、採用コストを抑えることにも寄与するため、上手に活用することをおすすめします。
メンタルヘルスケアへ積極的に取り組むことは企業イメージの向上につながります。従業員へのケアが疎かになると、労災や過労死など大きな問題へと発展することもあります。これらの問題は企業の信頼を落とす原因にもなってしまいます。
従業員が健康的に働ける環境は、顧客満足度を高め、取引先企業との良好な関係を構築することにもつながります。
さらに、従業員を大切にする会社というイメージは採用活動にも影響が現れます。就労環境が整っていることで優秀な人材が集まってくることにもつながります。
企業がEAPを導入することで、メンタルヘルス対策とリスク低減の2点が期待できます。
厚生労働省によるとメンタルヘルスへの取り組みは、次の3段階に分かれています。
一次予防:メンタルヘルス不調を未然に防止する取組
二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う取組
三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行う取組
段階が進むに連れて、職場への影響やコストが大きくなるため、早い段階で予防することが重要です。
EAPの一環で行う各種ストレス診断は、まず現状の見える化を可能にします。
個人のストレス要因や組織全体としてのストレス傾向といった情報を知ることで、問題の予防や早期解決を実現しやすくなるでしょう。
従業員がメンタル不調をきたすと、企業には次のようなリスクが生じます。
メンタルヘルス問題によるリスク
とりわけメンタルの問題はすぐに表出しにくいため、徐々に組織をむしばんでいくことも考えられます。
EAPを導入することで、問題の表出化と対策を可能にし、上記リスクを低減することが可能です。
EAPを導入する際には、すべてを自社内で行う「内部EAP」と、外部機関や企業を利用する「外部EAP」という2つのアプローチがあります。
ここでは2つの違いについて説明します。
内部EAPは、メンタルヘルスについて指導やカウンセリングができる産業医や保健師などを雇用または契約し、社内に常駐させて対応する運営方法です。
自社のニーズに合った体制を構築でき、EAPに従事するスタッフと従業員の距離が近いため、困ったときに気軽に相談できる点がメリットとなります。
ただし、スタッフを常時抱える分人材コストがかかるため、支社が多い企業や従業員の外出が多い企業では運用の仕方をよく検討する必要があるでしょう。
外部EAPは、社外のEAP機関と契約し、従業員が利用したいときに電話・メール・訪問といった手段で相談できるようにする運営方法です。
内部では相談できないようなプライベートな悩みも打ち明けやすく、従業員の利用頻度や予算によって柔軟にプラン変更が可能な点がメリットとなります。
導入のハードルは比較的低く、24時間365日対応のサービスもあるため、一般的に多くの企業が外部EAPを運用しているのが実情です。
前章のとおり、EAPには内部EAPと外部EAPがあります。EAPの選び方はメンタルヘルスケアにおける課題を考慮して選ぶようにしましょう。例えば、外部EAPの方がコストが抑えられるからという理由のみで選ぶと現状のメンタルヘルスケアの対策として乖離が生じる場合も考えられます。
EAPはメンタルヘルスケア対策の2次予防、3次予防として大切です。内部EAPは主に「4つのケア」の「事業場内産業保健スタッフによるケア」を担います。外部EAPは主に「4つのケア」の「事業場外資源によるケア」を担います。内部EAPと外部EAPどちらかを選ぶ際はそれぞれのメリットと現状のメンタルヘルスケア対策の課題を照らし合わせて選ぶようにしましょう。
また、EAP提供機関には、産業医、精神科医、臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、社会保険労務士、などの様々な有資格者がいます。医学的な連携が求められるケースもあるのでEAP提供機関先の特徴を知ることも大切です。
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EAPの導入によって高い効果を期待するのであれば、導入時あるいは運用時に注意しておきたいポイントについておさえておきましょう。
EAPは慈善事業ではなく、コストを支払って従業員のメンタルヘルスケアを維持・管理してもらうサービスであるため、費用対効果は無視できません。
そのため、サービスの利用開始時点で具体的な目標設定をしておく必要があり、契約時に明文化すると良いでしょう。
目標はKPI(Key Performance Indicator:業績評価指標)として、サービス利用中の不調者・休職者・退職者の数、離職率やEAPの利用率など数値化できるものを設定します。
運用中は定期的にその目標の達成状況を確認したり、目標未達の場合にはEAP機関へ対処を求めたりといったアクションも重要です。
自社のEAPに従事する機関を選ぶ際には、効果的なサービスを提供してもらえるような相手かどうかを十分にリサーチする必要があります。
観点として、以下のような例を意識すると良いでしょう。
KPIの成否にも関わるため、機関に所属するカウンセラーの経験や経歴、人柄まで十分に確認をしておきたいところです。
EAPの導入は企業の上層部や人事労務担当者などが携わりますが、サービスを利用するほとんどは事情を知らない従業員たちです。
そのため、EAP導入後は朝礼での説明、電子メール、社内掲示板など多数のコミュニケーション手段によって漏れがないように周知すると効果的です。
周知だけでなく、現場のマネジメント層やリーダー層といった管理者からEAPの説明を徹底させ、EAPの重要性を組織全体が理解したうえで利用できる環境づくりも不可欠でしょう。
実際にEAPを導入してみると、少しずつ社内のメンタルヘルス問題が浮き彫りになることもあるでしょう。
それが組織としての問題の自覚と、対策のための取り組みが始まるきっかけとなります。
従業員がカウンセリングを利用することで一時的に個別の問題は解決するかもしれませんが、メンタルヘルスケアは継続して行うことが重要です。
ワーカーズドクターズでは職場復帰面談、長時間労働者や高ストレス者への面接指導といったメンタルヘルス系への対応に強い産業医が多く在籍・登録しています。月1回、週2~3時間といった様々な出務形態がありますのでお気軽にご相談ください。
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