企業にとって生産性をあげる労働者は、必ずしも出勤していれば良いという単純なものではありません。
体調不良を抱えていれば集中力は下がりがちになり、その分生産性は落ち込むでしょう。
すなわち従業員の健康は生産性に影響するため、企業は経営的な視点で健康管理について考え、評価し、そして実施しなければなりません。
そこで、従業員の健康状態と生産性について分析するために役立つ指標である「プレゼンティーズム」に着目してみましょう。
当記事では、プレゼンティーズムの基礎知識や、体調不良を抱えながら働くことが企業にとって深刻な理由、プレゼンティーイズムの測定方法、解消するためにすべき健康投資について解説します。
プレゼンティーイズムとは?アブセンティーイズムもあわせて理解
プレゼンティーイズム(presenteeism:疾病就業)とは、何らかの病気や症状を抱えながら働き、集中力や意欲といったパフォーマンスや生産性が低下している状態です。
世界保健機関(WHO)が提唱した概念であり、企業が知っておくべき健康経営に関する重要な指標でもあります。
すなわちプレゼンティーイズムは、従業員の健康状態と労働生産性の損失を結びつけ、健康投資効果を測定するために役立つ指標です。
アブセンティーイズムとは
このような指標でもうひとつ知っておきたいのが、アブセンティーイズム(absenteeism:長期欠席)です。
アブセンティーイズムは病気や怪我などによって仕事を休業しており、生産性がゼロの状態を指します。
健康経営を評価するうえで、上記2つの指標は必ず覚えておきましょう。
プレゼンティーズムによる損失が深刻とされる理由
少し無理をしてでも働いている状態のプレゼンティーイズムと、完全に仕事をストップしている状態のアブセンティーイズムでは、一見して後者の方が生産性に与える影響が大きいと感じられるかもしれません。
しかし、アメリカを中心とした多くの研究では、生産性の損失が生じている多くのケースがプレゼンティーズムに起因しているという結果が出ています。
経済産業省によると、従業員の健康関連総コストの割合で見たとき、アブセンティーイズムによる損失はわずか4.4%で、その他医療費や傷病手当金などを除いてプレゼンディーズムによる損失が77.9%と言われています。
なぜここまで損失の差が生じるのでしょうか。
プレゼンティーズムが深刻な損失である理由として、以下のような要素があげられます。
- ・会社には出勤できているため周囲が症状に気づきにくい
- ・生産性の低下が長期に及ぶ可能性が高い
- ・放置すると深刻な症状に発展して医療コストがかさむ
- ・感染する性質の疾患の場合は周囲にも影響を与える
仮に風邪や花粉症、睡眠不足のような軽度な症状である場合でも、万全な体調でないと人間の集中力は下がってしまいます。
労働生産性に大きな影響を与えかねないプレゼンティーズムの問題を軽視すると、企業にとって業績の大幅低下へと導いてしまう場合もあるのです。
▼参考資料はコチラ
経済産業省「企業の「健康経営」ガイドブック (改訂第1版) 経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課」
プレゼンティーイズムの測定方法
プレゼンティーズムを測定する評価手法はいくつか存在しますが、WHOが定義した「WHO-HPQ」が代表的です。
WHO-HPQは世界中の企業で使用されており、海外でのエビデンスが豊富です。日本語訳版の作成や妥当性検証も行われているため、日本では健康経営銘柄を取得するための項目としてもあげられます。
測定は従業員へのアンケート形式で実施され、プレゼンティーズムは質問の一部にある「本人の考えるパフォーマンス」の回答結果から算出します。
パフォーマンスについては0から10までの尺度で表され、0が「回答者の仕事において誰でも達成できるような仕事のパフォーマンス」、10が「もっとも優れた勤務者のパフォーマンス」です。
以上を踏まえると、質問内容は以下(※)のようになっています。
- 1.あなたの仕事と似た仕事において多くの勤務者の普段のパフォーマンスをどのように評価しますか?
- 2.過去4週間(28日間)のあなたの勤務日における総合的なパフォーマンスをどのように評価しますか?
※実際の設問番号は異なります。
問1は自分以外の従業員のパフォーマンスを、問2は本人のパフォーマンスを主観的に評価する趣旨です。
得点結果は「絶対的プレゼンティーズム」と「相対的プレゼンティーズム」に分かれ、それぞれ次のように算出します。
- ・絶対的プレゼンティーズム = 問2 × 10
- ・相対的プレゼンティーズム = 問2 ÷ 問1
健康リスクとの相関分析においては絶対的プレゼンティーズムを、損失コストを計算する場合には相対的プレゼンティーズムを使用するのが通例です。
このような調査を定期的に実施すれば、個々の結果の推移を時系列で管理できるため、健康経営の方針を決めるために重要な情報となるでしょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業 主のコラボヘルスによる健康課題の可視化」
WHO-HPQ日本語版
プレゼンティーイズムの因子と解消するためにすべき健康投資
プレゼンティーズムに対処するためには、体調不良を抱える従業員が各自で健康管理を行うだけでは不十分です。
企業が何らかの形で従業員の健康を向上させ、健康障害を未然に防ぐための投資が必要となります。
まず、プレゼンティーズムの因子となり得る健康障害は、主に次の5つといわれています。
- ・運動器・感覚器障害
- ・メンタルヘルス不調
- ・心身症(ストレス性内科疾患)
- ・生活習慣病
- ・感染症・アレルギー
つまりこれら因子を改善することで、プレゼンティーズムによる損失を抑制できるといえるでしょう。
経済産業省は、オフィス環境の整備によって次にあげる7つの行動を誘発すれば、最終的にプレゼンティーイズムやアブセンティーイズムの解消に結び付くと提言しています。
- ・快適性を感じる
- ・コミュニケーションする
- ・休憩・気分転換する
- ・体を動かす
- ・適切な食行動をとる
- ・清潔にする
- ・健康意識を高める
たとえば、室内環境の緑化や姿勢をただすクッションの配布などで快適性を高めたり、社員食堂でヘルシーメニューを提供して食生活改善のサポートをしたりと、健康投資のアプローチはさまざまです。
とくに現代社会で増加するメンタルヘルス不調については、産業医による相談窓口を設置すると効果的でしょう。
▼参考資料はコチラ
経済産業省「健康経営 オフィス レポート」
まとめ
従業員が常に100%のパフォーマンスを発揮できるのが理想ですが、現実はそう簡単ではありません。
今や労働者の3人に1人が病を抱える日本において、程度は異なれどプレゼンティーズムに陥る人は今後も増えていくでしょう。
すべての健康管理を個人に委ねるだけでは、気づかないうちに企業は大きな損失を抱えることになるかもしれません。
個人の働きやすさや企業の業績を損なわないためにも、従業員の健康を重要な経営指標と捉え、健康増進に役立つ取り組みは積極的に行っていきましょう。
併せて読みたい記事はこちら
健康経営とESG。従業員の健康が企業価値となる時代
職場環境改善で従業員の生産性が向上するアイデアを紹介