元気に働き続けるためには健康寿命の延伸が必須であり、近年は「健康経営」の効果がクローズアップされています。
そんな中で、従業員はもちろん企業側の生産性にも大きな影響を与える「ヘルスリテラシー」をご存知でしょうか?
この記事では、ヘルスリテラシーの概要や健康経営への影響、測定方法や改善方法などについて解説します。
元気に働き続けるためには健康寿命の延伸が必須であり、近年は「健康経営」の効果がクローズアップされています。
そんな中で、従業員はもちろん企業側の生産性にも大きな影響を与える「ヘルスリテラシー」をご存知でしょうか?
この記事では、ヘルスリテラシーの概要や健康経営への影響、測定方法や改善方法などについて解説します。
ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手、理解し、自分に合った信頼できる情報だけを取り出して上手に活用する能力です。
情報リテラシーを健康・医療の領域に限定した考え方とも言えます。
ヘルスリテラシーを身につけ、日常生活におけるヘルスケアや疾病予防、ヘルスプロモーションについての判断や意思決定ができるようになれば、QOL(生活の質)の維持・向上が期待できます。
公衆衛生研究の第一人者で著名なナットビーム氏によれば、ヘルスリテラシーは次の3つのレベルに分けられるとのことです。
レベル1:機能的ヘルスリテラシー
機能的ヘルスリテラシーは、健康リスクや保健医療の利用に関する情報を理解できる能力です。
情報に対して受け身の立場をとるため、ヘルスリテラシーの中では最も基本となる段階にあたります。
レベル2:相互作用的ヘルスリテラシー
相互作用的ヘルスリテラシーは、他人とのコミュニケーションや日々の活動に積極的に参加し、そこで得た情報をもとに自立して行動できる能力です。
周囲のサポートを得ながら情報をうまく活用する立ち回りが求められるため、機能的ヘルスリテラシーより高度な段階となります。
レベル3:批判的ヘルスリテラシー
批判的ヘルスリテラシーは、健康情報だけでなく、健康を決定している社会経済的な要因などの高次的な情報を批判的に分析でき、社会的・政治的な活動ができる能力です。
周囲を巻き込んで主体的に状況を変えられるため、個人の域を出て集団やコミュニティに影響する最上級の段階となります。
ナットビーム氏同様にヘルスリテラシーの啓発活動で著名なザーカドゥーラス氏は、ヘルスリテラシーを4つの異なる次元からモデル化しています。
次に紹介する4つのヘルスリテラシーは、段階的に身につけるのではなく、相互に高めあったり補完しあったりするものと考えられています。
1. 基本的リテラシー
基本的リテラシーは、情報を得るために必要な「読み書き」「話すこと」「計算能力」の3つを総称した基礎能力です。
基礎能力とは言え、健康関連の用語は専門用語や特殊な表現が含まれるため、積極的な情報収集や専門的な教育が必要とされます。
2. 科学的リテラシー
科学的リテラシーは、からだや病気についての基本的知識や、健康・医療領域で使われる技術、確率やリスクについて理解する能力です。
日々進歩を続ける科学や技術の発展を意識し、好奇心や探求心を持つことが能力向上につながると考えられています。
3. 市民リテラシー
市民リテラシーは、市民が社会的な問題を意識し、社会の意思決定過程に参加する能力です。
保健医療福祉の制度や法律、その決定の方法について関心を持ち判断し、政策決定過程に関わっていく姿勢が求められます。
市民リテラシーは、ナットビーム氏の提唱する批判的ヘルスリテラシーを身に付けるためには不可欠です。
4. 文化的リテラシー
文化的リテラシーは、自分が所属している文化を踏まえて情報を活用できる能力です。
健康に関する決定や情報の受け取り方は、人種・年齢・ジェンダー・民族・宗教によって異なる場合があることがわかっています。
つまり、他の文化との違いを認識し、情報源や伝達内容、伝達方法、受け手に配慮した情報の扱いが求められるのです。
ヘルスリテラシーは、人々の健康へもたらす影響はもちろん、企業の健康経営との関係という観点からも注目されています。
ヘルスリテラシーが低いと健康へどう影響するか、企業の健康経営にどう関わるのか、それぞれについて詳細を解説します。
ヘルスリテラシーが高ければ、QOLを高く維持でき、健康問題も防止しやすくなります。
一方で、ヘルスリテラシーが低いと起こり得る影響について、以下に事例を列挙します。
このように、知識不足によって誤った行動をとったり、何も行動を起こさなかったりして、健康リスクを高めてしまうのです。
ヨーロッパ8カ国と日本を比較した「ヘルスリテラシー測定尺度(HLS-EU-Q47)」によると、日本のヘルスリテラシーの点数は著しく低いという結果が出ています。
また、東京都医師会は日本のがん検診受診が欧米の約半分である現状を指摘しており、日本のヘルスリテラシーの低さはデータに表れています。
まずは個々人が自身のヘルスリテラシーに問題がないかを認識する必要があるでしょう。
「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する経営手法です。
従業員の健康はプレゼンティーズム・アブセンティーズムといった生産性指標の改善や、仕事のパフォーマンス向上、医療費・社会保険料の削減など企業側のメリットにつながります。
従業員のヘルスリテラシーを高めることは、健康経営のために重要な要素と言えるでしょう。
健康経営やプレゼンティーズム、アブセンティーズムについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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ヘルスリテラシーを測定するためには、テストや質問用紙などの尺度測定ツールを使用しましょう。
こうしたツールは現在に至るまで各国で開発が進んでおり、その数は200以上とされます。
ツールによって測定内容や質問数、測定方法、入手方法、言語が異なり、基本的なリテラシーに対応するものから、包括的・専門的なものまでさまざまです。
どのツールを使うべきか決める際は、アメリカの国立医学図書館とボストン大学医学部が作成したデータベースである「Health Literacy Tool Shed」を活用すると良いでしょう。
データベースは公開されており、詳細な測定条件を絞って検索できます。
会社全体のヘルスリテラシーを向上させ健康経営を目指すためには、現在の従業員のヘルスリテラシーを測定・把握したうえで、以下のようなアプローチを行うのが効果的です。
会社にできるアプローチの代表例は、年に一度の定期健診と、それに基づいた健康指導です。
健診の結果は収集・分析して予防策に活用し、運動や生活、栄養、メンタルヘルスケアに関する指導ができる仕組みがあると理想的です。
また、指導に基づいた実践をフィードバックし、PDCAを推進する構造が望ましいと言えます。
健康づくりに関する専門家である産業医を起用することで、個人面談やストレスチェックを通し、個人に向けた具体的な助言が見込めます。
とりわけ、健診の中心人物となる産業医は、その後の指導の方向性を決める存在となるため、非常に重要なポジションとなります。
産業医の導入について検討している企業は、以下の記事も参考にしてみてください。
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産業医とは?役割や業務内容をわかりやすく解説
ヘルスリテラシーは個人の健康リスクに直結する重要な尺度であり、日本では深く浸透していないのが現状です。
企業の人事労務担当者は、産業医などとも連携しながら健康経営を目指し、ヘルスリテラシーの向上に取り組む姿勢が求められます。
まずは自社の従業員のヘルスリテラシーを測定し、結果に応じた対策を講じる必要があるでしょう。