企業にとって職場環境の改善は、労働生産性や従業員満足度の向上、働き甲斐の創出など持続可能で強固な経営体質をつくるために必要不可欠な取り組みです。特に日本では、労働生産人口の減少に伴い、慢性的な長時間労働や生産性の低さが浮き彫りになっています。
そのため企業では、一人ひとりの従業員が健康的で高いパフォーマンスを発揮しつづけるために「健康経営」を目指す動きが出ています。また、厚生労働省も企業に職場環境改善のための助成金を給付したり、職場環境改善ツールを提供するなど、国をあげて職場環境の改善を推進している真っただ中です。
ただし、職場環境における課題や改善に向けた取り組み方法は、企業規模や業種・業態によって多岐にわたります。この記事では、企業が職場環境改善を行うメリットを改めて解説し、その具体的なアイデアとともに詳しく紹介します。
職場環境改善とは?定義を改めておさらい
職場環境の改善は、読んで字のごとくではありますが、その定義から解説します。厚生労働省による「職場環境改善ツール -こころの耳-」では下記のように定義しています。
“職場の物理的レイアウト、労働時間、作業方法、組織、人間関係などの職場環境を改善することで、労働者のストレスを軽減しメンタルヘルス不調を予防しようとする方法”
引用:職場環境改善ツール|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
つまり職場環境改善とは、物理的な環境だけにとどまらず、業務構造や制度、コミュニケーション、カルチャー、風土など企業のあり方そのものを改善していくこととも捉えることができます。
職場環境の改善は必要?見極めポイントを紹介
ここまで職場環境改善の定義を解説してきましたが、では環境の改善が必要な職場とはどのような職場なのでしょうか。ここでは、職場環境改善が必要な職場の見極めポイントをご紹介しますので、ご自身の職場が当てはまるかどうか確認してみてください。
生産性が低い職場
生産性とは、産出量(アウトプット)を投入量(インプット)で割ることで計算され、「どれほど効率よく成果を上げたか」を表す指標です。
生産性は職場環境に大きく左右され、以下のようなことが当てはまる場合、職場環境によって生産性が下がっていると言えます。
長時間労働が風土として定着している
コミュニケーションが不活発である
デジタル化が進んでいない
ノウハウ・ナレッジがチームで共有されていない
無駄な業務が残っている
オフィスの設備が古い
デジタル化が進んでいない職場
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した、2022年の世界デジタル競争力ランキングによると日本は29位で、デジタル化においては世界に遅れをとっており、未だに紙を使った作業に時間を費やしている企業が多いのが現状です。
企業がデジタル化することは、作業時間の短縮、コストダウン、データの活用などメリットは大きく、快適な職場環境にも繋がります。
▼参考資料はコチラ
国際経営開発研究所「世界デジタル競争力ランキング2022」
企業が職場環境改善を行うメリット
職場環境改善が企業や従業員にとって具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
従業員の労働生産性の向上
企業が働きやすい職場環境を提供することで、従業員の労働生産性の向上が期待できます。例えば、座り心地の良い椅子や快適なインターネット環境やITツールの導入といった設備面やテレワークやフレックス制度など多様な働き方を認めることによって、仕事への集中力やパフォーマンスの向上が期待できます。
従業員満足度の向上と離職率改善
快適で働きやすい職場環境改善は、従業員満足度の向上と離職防止にも効果的です。労働人口が減少する現代において、従業員一人ひとりにいかに長期間、高いパフォーマンスで働いてもらえるかが肝心です。そのため企業の状態に合わせて、常に職場環境を改善していく必要があります。
企業ブランドと入職率の向上
今後、企業は慢性的な人材確保の課題を抱えることが予想されます。人材の売り手市場がつづき、企業は選ぶ側から選ばれる側になるため、職場環境は常に重要視されます。働き手の立場の環境や制度が整っていることで、企業ブランドの向上や入職率の向上が期待できます。
コミュニケーションの活発化
職場環境改善によって、職場のコミュニケーションを活発にすることもできます。
ランチ会などのコミュニケーションを伴うイベントの開催や、意見を交わしやすいような雰囲気づくり、オフィスや食堂のレイアウトを変えるなどコミュニケーションしやすい環境にすることによってコミュニケーションの改善が期待できます。
職場環境改善の具体的なアイデア19選
職場環境の改善により得られるメリットは理解した上で、自社にフィットした施策を実施していく必要がありますが、経営層が実現したい企業のビジョンも加味するのが良いでしょう。ここでは、実践しやすい職場環境改善のアイデアをご紹介します。
1. 勤務形態改善の具体的なアイデア3例
長時間労働の対策として従業員の勤務形態について見直すことも職場環境の改善に効果的です。例えば、総労働時間を設けて、その範囲内で従業員が始業や終業の時間を自由に決められるフレックス制度や年次有給休暇をはじめとする法定休暇とは別に休暇を付与するリフレッシュ休暇などの導入は、従業員満足度を向上させます。定期的に従業員の勤務状況を確認し、改善を試みて、従業員の心身の負担を軽減するようにしましょう。
勤務形態改善の具体的なアイデア3例
ノー残業デーの導入
フレックス制度
時間単位の有給休暇取得制度
2. コミュニケーションの改善
新型コロナウイルスの感染拡大により、テレワークを導入する企業も増えた一方で、社内コミュニケーションの希薄さが問題視されています。コミュニケーションを活性化させる施策として、一定の頻度でチームや全社が顔を合わせる場をつくるなどが主流になっていますが、従業員同士で実施する「ランチ会」などがおすすめの方法です。飲み会に比べて気軽に参加でき、費用も安価で済むため、導入する企業も増加しています。ランチ会の方法としては、社内メンバーをシャッフルして作成したグループごとにランチに行く「シャッフルランチ」が有効。シャッフルランチは、ランチに参加するメンバーが固定にならないため、社員間のコミュニケーションも促進できます。また普段話せない仕事の悩みやキャリアの相談ができる1on1ミーティングなども取り入れている企業が増えています。
コミュニケーション改善の具体的なアイデア3例
ビジネスチャットでの雑談可能なルールの設置
1on1ミーティングの実施
ランチミーティングの実施
3. オフィスの改善
業種・業態によってテレワーク制度の詳細は異なりますが、テレワークが前提となりつつある現在はオフィスの在り方も従来とは大きく変化しています。これまでのオフィスの機能や目的は、「効率よく業務をする」「全体感・統一感の醸成」にフォーカスされており、いわゆる執務エリアは島型のレイアウトが常識とされていました。しかし、テレワークの浸透とともにオフィスも、従業員が一堂に会せる、より良いICT環境がある、ミーティングが効率よく行える、などテレワークでは実現できない機能に特化させる動きが見られています。このような物理的な改善も、働きやすさ、業務効率、モチベーションに有効的な手段です。
オフィス改善の具体的なアイデア6例
フリーアドレス制の導入
集中エリアや雑談エリアなど機能別のスペースの確保
ドリンクコーナーやお菓子の設置
観葉植物の設置やBGMを流す
空気清浄機や加湿器の設置
インテリアやレイアウトを変える
4. デジタル化
上でも述べた通り、デジタル化は作業時間の短縮やコストダウン、データの活用などを可能にし、結果的に職場環境の改善にも繋がります。
また、事務業務のクラウド化はリモートワークの推進にも大きく寄与するので、勤務形態の改善との相乗効果も狙えるでしょう。
デジタル化の具体的なアイデア7例
ChatworkやSlackなどのビジネスチャットツールの導入
クラウドカレンダーアプリの導入
情報共有アプリの導入
行政手続きの電子化
電子請求書の導入
電子契約サービスの導入
ペーパーレス化
職場環境改善を進めるうえでの注意点
職場環境の改善には、小さな改善から大きな改善までさまざまな施策があります。経営層、担当者は、企業や従業員に不利益(副作用)を生じさせないように努めなければなりません。
不公平さが生じていないか確認する
職場環境を改善する際には、特定の誰かに利益不利益がないような施策を考える必要があります。従業員に不公平が生じた場合、労働意欲が低下して離職するという可能性も考えられます。「誰のために行う職場環境の改善なのか」を客観的に見つめて、施策を検討しましょう。
従業員の声を施策に反映させる
職場環境改善の目的は、持続可能な労働環境を構築することです。最終的には、業務効率や売上の向上にも直結します。そのため問題を解決するためには、現場で働く従業員のリアルな声を拾い上げて施策を講じる必要があります。「こうしたら良いだろう」と企業の独断で施策を行っても、従業員の求めるものでなかった場合、従業員満足度には寄与しません。
職場環境の改善を時間と労力の無駄にしないために、社内アンケートの実施がおすすめです。近年では、従業員サーベイ(調査)用のツールも多く提供されています。アンケートを行い、従業員が抱える悩みや問題点を抽出し、問題解決に適した改善策を考えましょう。
経営のビジョンやミッションも加味する
従業員のリクエストも大事ですが、経営層が旗振り役にならなければ、ただただ従業員の要求に応えていくだけとなっており、経営課題の解決にはなりません。従業員の要求にしっかりと耳を傾けつつも、経営が成し遂げたいビジョンや働き方と一致するかどうかを慎重に判断しましょう。職場環境改善策を実施する際には経営からの「なぜやるのか?」「何を目指しているのか?」とメッセージングすることが大切です。
優先順位をつける
すべての施策を実行しようとすると時間やコストが莫大なものとなります。優先順位をつけ、実現可能な施策から始めましょう。
優先順位は、「緊急性が高い課題」「○ヶ月以内に解決する課題」など、期限をベースにして設定します。従業員にとって、一度にさまざまな側面で職場環境に変化が生じると、精神的負担になります。仕事の生産性や企業への満足度を向上させるための施策が逆効果になっては本末転倒なため、慎重かつ客観的な視点で実行する必要があります。
職場環境改善に活用できる助成金制度
職場環境改善活動については、「職場環境改善計画助成金」があります。厚生労働省の産業保健活動総合支援事業の一環として労働者健康安全機構が実施しており、従業員の健康確保の推進を目的とする制度です。
具体的には、下記の施策を行うと、専門家(産業医や医師など)による指導費用の助成金(上限10万円/1回限り)を受け取れます。
ストレスチェック後の分析結果を踏まえ、「専門家による指導」に基づいた職場環境改善計画を作成
計画に則り職場環境の改善を実施
職場環境改善計画助成金制度は、企業全体ではなく事業場単位での申請、労働保険が適用されている事業場に限定されています。また、職場環境の改善が契約した産業医や労働衛生コンサルタント等から認められなければ、助成金は受給出来ないため注意が必要です。
▼参考資料はコチラ
令和3年度職場環境改善計画助成金(事業場コース)
まとめ
職場環境の改善は、従業員だけでなく、企業にとっても大きなメリットがあります。企業は積極的に職場環境の改善に努め、従業員が働きやすい環境を整備することが重要な課題であり責務です。
なお、職場環境の改善の方向性を誤ると、企業だけでなく従業員にもデメリットが生じます。従業員の声に寄り添いながら、一つひとつ優先順位をつけて施策に取り組むことが重要です。
助成金制度なども利用しながら、従業員が働きやすい職場づくりに努めましょう。
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