業務中の労働災害や過剰な長時間労働による過労死など、働くことに関する社会問題は長年にわたる課題となっています。
しかし、年月を経て法改正が進み、従業員の安全、健康、働きやすさを改善する制度も少しずつ整備されています。
そのうちの1つとして着目すべきなのが、企業に課せられる「安全配慮義務」です。
今回の記事では、「安全配慮義務とは何か?」「義務に違反した場合どうなるのか?」といった基本的な知識から、安全配慮義務を果たすために企業が講じるべき対策のポイントまでを解説します。
業務中の労働災害や過剰な長時間労働による過労死など、働くことに関する社会問題は長年にわたる課題となっています。
しかし、年月を経て法改正が進み、従業員の安全、健康、働きやすさを改善する制度も少しずつ整備されています。
そのうちの1つとして着目すべきなのが、企業に課せられる「安全配慮義務」です。
今回の記事では、「安全配慮義務とは何か?」「義務に違反した場合どうなるのか?」といった基本的な知識から、安全配慮義務を果たすために企業が講じるべき対策のポイントまでを解説します。
安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に労働できるように配慮する企業の義務です。
もともとは裁判所の判断により認められた考え方でしたが、2008年に労働契約法第5条によって明文化され、使用者の当然の義務として定められました。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
「生命、身体等の安全」には心身の健康も含まれると解釈され、「配慮」は労働安全衛生法などの法令を当然に守ったうえで、快適な職場環境をつくり、労働条件を改善するところまでを意味します。
そのため、労災によるケガや疾病だけでなく、職場のパワハラやセクハラ、過剰な長時間労働などのトラブルを防止するのも安全配慮義務の一環です。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|労働契約法第5条
労働者が安心して働ける環境に寄与する安全配慮義務ですが、企業としてはどこまでやれば義務を果たせて、どこからが違反となるのかといった線引きが難しいかもしれません。
まず、企業が安全配慮義務に違反したとみなされるまでの流れは次のようになります。
安全配慮義務違反と認められるまでの流れ
つまり、義務違反となるかならないかは裁判で決まるのです。
そして、過去に安全配慮義務違反となった判例から、判断のポイントとなる要素は次の2点と言われています。
安全配慮義務違反かどうか判断するポイント
事例として比較的多い長時間労働による労災を例として考えてみましょう。
勤怠管理などで従業員の長時間労働を把握していながら適切な措置を取らない場合、「予見可能性と結果回避性が高かったにもかかわらず何もしなかった」ことになります。
その際は、 安全配慮義務違反とみなされる可能性が高いでしょう。
近年は長時間労働による労災認定において、「脳・心臓疾患」による件数は減少傾向にある一方で、「精神障害」による件数は増加傾向にあります。
メンタルヘルスにおけるトラブルはどの業種でも発生し得るため、とりわけ注意が必要です。
ほかにも、長距離の歩行をともなう新人研修で負傷した従業員に対し、企業側が訓練の中断や病院への受診を認めなかったようなケースでも義務違反が認められています。
反対に、震災の津波で従業員を無くした家族が企業側の安全配慮義務違反を主張したケースでは、避難場所の選定に問題がなく災害の予見可能性も低かったため、義務違反が認められませんでした。
労働契約法には安全配慮義務違反による罰則についての記載がありません。
しかし、従業員からの損害賠償請求によって高額な代償を支払う可能性があります。
企業は従業員との労働契約に基づき安全配慮義務を負っており、違反がある場合にこの義務を履行していない(不履行)ことで発生した損害を賠償する責任を負います(民法第715条)。
労災によって後遺障害が認定されるようなケースや死亡したようなケース、長時間労働によるうつ病の発症というケースなど要因は様々ですが、損害賠償は数百万円から一億円を超えるような金額に上るリスクがあるのです。
それだけ従業員に対する安全配慮は社会的に重要な要請である点を覚えておきましょう。
企業が安全配慮のために気を配るべき箇所は、業種や事業場での業務内容によって異なり、講ずべき対策は多岐にわたります。
そこで、安全配慮義務を果たすために徹底すべき対策について、一般的に重要とされる4つの観点について解説します
身の危険や健康被害を及ぼす可能性のある作業では、企業側にそのリスクを防止する措置を講じる様々な義務があります(労働安全衛生法第四章)。
ただしその義務は、「高所作業では安全帯を着用すること」や「落下物の危険がある場所ではヘルメットを着用すること」といった当然果たすべきものであり、これだけでは安全配慮義務の要件を満たすとは限りません。
重要なのは、実際に現場を構成するものすべてにおける安全性の担保です。
現場を構成するのは、主に作業員、場所や地形、装置や設備などが挙げられます。
例えば、「作業員」に対しては個々の危機管理意識を高めるために安全衛生教育を定期的に実施や、特定の機械を安全に操作する方法についての指導などのアプローチがあります。
ほかにも、滑りやすい「場所」がある場合はマットの設置や、「装置」に危険を伴う不具合が起きないためのメンテナンスなどの取り組みが有効だと考えられます。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|職場における安全対策
勤怠管理は、コンプライアンスや正確な給与計算といった労務をスムーズにするほか、過剰な長時間労働を未然に防止するために必要な業務です。
現在勤怠管理は法的に義務化されているため、重要なのは勤怠管理そのものではなく、記録・管理する勤怠情報を受けての対応となります。
例えば、一定の基準を超えて残業をした従業員やその管理者への是正勧告や、上長の許可・承認制による残業などの対応が求められるでしょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準
労災などのトラブルが発生した際や、健康診断やストレスチェックで異常があった場合にすぐに対処するため、安全衛生について漏れのない管理体制の構築も重要です。
手段としては、安全衛生委員会(または安全委員会と衛生委員会のいずれか)の設置が挙げられます。
安全衛生委員会は、労働環境の改善や労働者の健康保持といった衛生や、作業中の危険に対する応急措置や防止措置といった安全に関するテーマについて議論し、組織全体ヘフィードバックする仕組みです。
とくに衛生委員会は50名以上が働く事業場においては設置する義務があるため、比較的多くの企業が必然的に設置することになります。
衛生委員会に必須の構成員である産業医は、定期巡視や医療の専門家としての意見提供、健康被害の疑いがある従業員への面接指導(労働安全衛生法第66条の8における義務)などを担当します。
従業員のメンタルヘルスケアに特化した「EAP(従業員支援プログラム)」とあわせて産業医と契約すれば、徹底した安全衛生管理体制を構築しやすくなるでしょう。
▼参考資料はコチラ
EAPとは | ジャパンEAPシステムズ(JES)
厚生労働省|安全衛生委員会を設置しましょう
厚生労働省|長時間労働者への 医師による面接指導制度について
従業員のメンタルヘルス不調は長時間労働に限らず、人間関係や職場の物理的レイアウト、作業方法といった環境によるストレスが原因になる場合もあります。
安全配慮義務にはハラスメント対策の義務(職場環境配慮義務)も含まれており、職場環境の整備も企業の責任です。
とりわけパワハラやセクハラなどの被害は、過去に義務違反と認定された判例が多く存在します。
対策としては、職場の状況や従業員のコンディションを可視化するため、厚生労働省が公開している「メンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)」や「職場の快適度チェック」などのツール導入が推奨されます。
こうしたツールを用いた集団分析によって各職場の問題点を確認し、職場改善のための取り組みを継続的かつ計画的に行うことが望ましいでしょう。
▼参考資料はコチラ
職場環境改善ツール|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
企業が負う安全配慮義務は、従業員の安全と心身の健康から快適な職場環境までを幅広くカバーします。
義務に違反した場合に課せられる代償はその裏返しであり、本質は「人々の働きやすさのため」だと言えるでしょう。
対策のアプローチは環境と人の両方に向けて行い、産業医を巻き込んで柔軟・迅速に対応できる管理体制を敷くことが重要です。
トラブルが起きたときに「間に合わなかった」「気づかなかった」という事態を防ぐためにも、徹底した取り組みを継続していきましょう。
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