近年、自宅やサテライトオフィスなどで働く新しい労働形態である「テレワーク」は、感染症予防に効果があると期待され、各企業で急速に推進されています。
オフィスコストの削減や生産性向上などメリットもある一方、「テレワーク下の従業員の健康管理をどうするか?」と言う議題に悩む企業も多いでしょう。
この記事では、テレワーク下の健康管理に関する法的義務や健康リスクなどの課題、それに対する有効なアプローチについて解説します。
近年、自宅やサテライトオフィスなどで働く新しい労働形態である「テレワーク」は、感染症予防に効果があると期待され、各企業で急速に推進されています。
オフィスコストの削減や生産性向上などメリットもある一方、「テレワーク下の従業員の健康管理をどうするか?」と言う議題に悩む企業も多いでしょう。
この記事では、テレワーク下の健康管理に関する法的義務や健康リスクなどの課題、それに対する有効なアプローチについて解説します。
自宅やサテライトオフィス、コワーキングスペースなど、「オフィスではない場所」で行うテレワークは、従来とは異なる労働形態です。
一方、テレワークを行う場合においても、労働に関する権利や義務、規則などを定める労働基準関係法令(労働基準法や労働安全衛生法など)は従来通りに適用されます。
そのため従業員の健康管理を実施する事業者としての義務は、テレワーク下においても課せられ、これを遵守する必要があるのです。
例えば、以下のような安全配慮義務は例外なくあらゆる企業に求められます。
あらゆる企業に求められる安全配慮義務の一例
また、50人以上の労働者を抱える企業は以下のような法令を遵守しなければなりません。
50人以上の労働者を抱える企業に求められる安全配慮義務の一例
オフィスに従業員が出社しないテレワークにおいても、これら労働安全衛生法上の健康管理を徹底するため、新しい安全衛生管理の環境を整える必要性があるでしょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|テレワークにおける 適切な労務管理のための ガイドライン
テレワークは、感染症予防の効果やオフィスコストの削減、業務効率化による生産性向上などのメリットがあるとされる一方、デメリットもあります。
その一部が、テレワーク下ならではの健康リスクや、それにともなう労務上のリスクといった新たな課題です。
ここでは、健康リスクについて身体面と精神面それぞれの詳細と、企業側の管理にともなう課題について解説します。
とりわけ在宅勤務の場合、従業員の数だけ労働環境が分かれてしまうとも言えます。
そのため、たとえば照明が不十分であったり、デスクとチェアがなく地べたに座って悪い姿勢で仕事をしてしまったりと、人によっては作業空間がオフィスよりも悪くなるケースがあり得ます。
その場合、腰痛、肩こり、眼精疲労、腱鞘炎などのリスクがあるでしょう。
また、外出の機会減少による運動不足や、気の緩みから間食やたばこの量が増え、不摂生による生活習慣病(肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病)リスクが高まる可能性も考えられます。
テレワークを採用する企業が増加して以降聞くようになった言葉が「テレワークうつ」です。
テレワークうつは、テレワークにおけるストレスに伴って、社員の心身に不調が生じた状態を指します。
大学イノベーション研究センターやHR総研らによって2020年4月に行われた「新型コロナウィルス感染症への組織対応に関する緊急調査:第一報」では、テレワークと言う新しい働き方への問題点として「仕事上のストレスが増えた」と約6割の企業が回答しています。
原因となるストレスとして、以下のような例が挙げられます。
テレワークうつの原因となるストレス
様々なストレスからうつ病が引き起こされ、これが業務に起因すると判断されれば、労働災害と認定される可能性もあります。
また、チャットやメールへの対応を早朝深夜にも対応してしまうなど、業務に従事する時間が自然と伸びてしまい、上記リスクが起こる可能性はさらに高まってしまうのです。
▼参考資料はコチラ
一橋大学イノベーション研究センター|新型コロナウィルス感染症への組織対応に関する緊急調査 : 第一報
テレワーク下では、独自の健康リスクだけでなく、企業側の管理が難しい点でも課題があります。
通常、職場の健康管理は上司にあたる管理監督者が「いつもと違う」部下にいち早く気づき、個人的に話を聞いたり産業医などへの相談を勧めたりと、適切な対応を行う「ラインケア」が重要となります。
しかし、オフィスワークであれば自然と見えていた部下の様子が、テレワークだと目の届かないところに隠れてしまいます。
各自の業務とプライベートの区別もしにくく、ふとした声がけも難しくなる傾向にあります。
そのため企業側が介入すべき範囲があいまいになってしまい、身体面でも精神面でも不調者を未然に発見しづらく、対応が後手に回りやすくなります。
重症になってから会社に報告が入る可能性も考えられるでしょう。
企業側は、従業員の健康を積極的にサポートする姿勢を見せ、理解を深めたうえで、健康状態の把握などへの協力を求めていく必要があります。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|15分でわかるラインによるケア
テレワークの導入が進むなか、新たに出現する課題がある一方で、それと対になる解決策もあります。
ここでは、テレワークでの健康管理に有効なアプローチを4つピックアップし、それぞれについて解説します。
まず、テレワークを実施させる事業者が安全衛生上留意すべき事項を確認するため、厚生労働省などが用意するチェックリストやツールを活用し、就労環境の見直しが有効です。
安全衛生管理体制や安全衛生教育、メンタルヘルス対策など複数のカテゴリーで必須となる法定項目や配慮が必要な項目について網羅し、可能な限りチェックを増やせるような取り組みを継続しましょう。
とくにテレワーク用の作業環境は、事務所衛生基準規則や労働安全衛生規則などが定める基準を満たしている必要があります。
厚生労働省が公開する作業環境整備のガイドラインを参考に、従業員への周知・教育・助言を行ったり、自宅以外の場所(サテライトオフィスなど)の活用を検討したりするとよいでしょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|テレワークを行う労働者の安全衛生を確保するためのチェックリスト(事業者用)
厚生労働省|自宅等でテレワークを行う際の作業環境整備
テレワーク下での健康管理は実質的に従業員自身に委ねられる部分が多く、企業側に直接干渉する余地が少ないのはやむを得ません。
そのため、対象の従業員にはテレワーク特有の健康情報を積極的に発信すると有効です。
不調となる従業員には自覚症状がない場合もあるため、企業から情報を発信すると、健康状態の異常に気づいてもらえる可能性があります。
発信内容の例としては以下の通りです。
発信すると有効なテレワーク特有の健康情報
従業員の健康に対する意識を高いレベルで維持するためにも、こうした発信は継続的な実施が大切です。
2020年、厚生労働省により面接指導の実施条件が改正され、オンラインによる産業医面接が認められるようになりました。
そのため、テレワーク下で心身に不調をきたした従業員に対しての面接指導がしやすくなっています。
体調に関する不安や悩みを自宅に居ながら相談できるのは大きなメリットとなるため、面接指導をオンラインへ切り替えるのは有効です。
ただし、オンライン面接の実施方法は、あらかじめ衛生委員会などで審議をし、決定事項を従業員へ周知するよう定められています。
また、面談実施によって人事評価には影響を及ぼさない、本人の同意なく面談内容が企業側に知られることはない、などの基本的な事項を適切に伝えることも非常に重要です。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|オンラインによる医師の面接指導を実施するにあたって
企業が間接的にテレワーク下の従業員の健康管理を行うため、社給のデバイスに健康管理アプリを導入する方法もあります。
民間の企業向けサービスを活用し、日々の体重や食事などの記録を従業員に自主的につけさせることで、各自の状態をリアルタイムでチェックできるような仕組みが構築可能です。
こうしたしくみは健康管理の効率化だけでなく、従業員満足度の向上や人材採用活動におけるアピールポイントにもなるため、多角的な視点で有効な手段と言えるでしょう。
テレワークには従業員の働きやすさに配慮する目的が含まれるため、健康管理もオフィスワーク時と変わらず実施すべきでしょう。
一方、「自宅やコワーキングスペースで働く」と言う従来には少なかった働き方の登場によって、新たな健康リスクや管理の難しさといった課題も立ちはだかります。
企業としては、まずは課題を理解したうえで留意すべき事項を把握し、迅速にテレワークを前提とした安全衛生体制を構築していきましょう。
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