勤怠管理が義務付けられたのは2019年4月の労働安全衛生法の改定のためです。
今回は、勤怠管理が義務とされた背景や目的の他、2023年4月に中小企業に施行されることで関心の高い「割増賃金率の引き上げ」について解説します。
勤怠管理が義務付けられたのは2019年4月の労働安全衛生法の改定のためです。
今回は、勤怠管理が義務とされた背景や目的の他、2023年4月に中小企業に施行されることで関心の高い「割増賃金率の引き上げ」について解説します。
勤怠管理とは、使用者である企業が、そこに従事する労働者の出退勤時間や、労働時間・休憩時間、早退・遅刻・欠勤の回数、出勤日数などの情報を記録し、管理することを指します。現在、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者に法律で義務付けられています。
これまでも労働基準法が定める事項を満たす上で「事実上必須」と解釈はされていましたが、法的な義務はありませんでした。
そこで、2019年4月施行の働き方改革関連法の一つである改正労働安全衛生法で「客観的方法による労働時間の把握(第66条の8の3)」、すなわち勤怠管理が義務づけられたのです。
2019年4月施行の改正労働安全衛生法では、以下の3つが改正点としてあげられます。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の 労働安全衛生法及びじん肺法の施行等について
勤怠管理の目的は主に以下の3つがあげられます。
勤怠管理が必要になった理由の一つに、見直された労働基準法や労働安全衛生法などへの対応があげられます。
2019年4月の働き方改革関連法では、36協定(※)における時間外労働の上限規制が示されたり、有給休暇について年5日以上の取得が義務化されたりと、勤怠管理を基準に企業が配慮すべき点が増えています。
※労働基準法第36条に基づき法定労働時間を超えての勤務を命じるために必要な労働協定
こうした法律を遵守できる体制を各社が整え、勤怠管理によってコンプライアンスを徹底することで、社員の健康や対等な労使関係を維持できるでしょう。
不適切な勤怠管理は、度を超えた長時間労働につながる恐れがあります。
過度な長時間労働は、従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えたり、脳や心臓の疾患による過労死を招いたりと、重大な労働災害を引き起こす可能性も考えられます。
安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たすため、企業には勤怠管理により長時間労働を是正して、労働災害を未然に防ぐ必要があるのです。
給与計算を行うために、勤怠管理は不可欠です。
従業員の残業時間を把握して、給与や保険料、税金を計算する必要があります。勤怠管理が不十分だと、正確な給与計算ができません。
また、労働生産性の把握にも役立ちます。経営状況を分析したり、適切な人事評価を実施したりする際に必要になってくるでしょう。
2019年4月の労働安全衛生法の改正で、勤怠管理は「客観的方法」によって実施することが義務づけられました。
客観的方法については、「タイムカードやパソコンのログイン・ログアウトの記録で実施するよう定められています。(改正労働安全衛生法第66条の8の3・第52条の7の3)
また、記録した勤怠管理に関するデータは5年間保存しなければなりません。(改正労働基準法第109条)
タイムカードやICカード、指紋認証などによる打刻システム、PCやタブレットの使用記録を残すシステムなど、勤怠を記録して保管できるような仕組みの整備が必要です。
タイムカードなどを用いた客観的な勤怠管理が難しい場合、「自己申告」による勤怠管理が認められるケースがあります。
たとえば、オフィスを経由しない客先への直行直帰やテレワークでの出退勤などです。
自己申告での勤怠管理は、適正に記録を行うことを社員に周知した上で、必要に応じて申告内容と実状が合致しているか調査を行うなど、指定の条件を満たす場合のみに認められます。
自己申告制を採用する場合は、社員が申請した情報を上長が承認するといった仕組みを適切に運用し、あいまいな勤怠管理を避けるよう体制を整えましょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準
厚生労働省|在宅勤務での 適正な労働時間管理の手引
勤怠管理の義務化がされた他にも2019年4月に働き方改革関連法ではいくつかの改正内容があります。
改正内容のうち、勤怠管理と大きく関わる項目は以下の3つです。
働き方改革関連法の改正内容は企業規模によって施行時期に猶予があります。
残業時間の上限規制は以下のように定められています。
2019年の法改正によって告示にとどまっていた時間外労働の上限が、罰則付きで法律に規定されました。勤怠管理について、より注意を払うようにしないといけません。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|時間外労働の上限規制 わかりやすい解説
2019年の法改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務になりました。
年次有給の取得義務は企業規模を問いません。また、対象労働者には管理監督者や有期雇用労働者(パートタイム、アルバイトなど)も含みます。
そして、使用者は時季指定について労働者の意見を聴取しなければなりません。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省|年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説
2023年4月1日より中小企業も大企業と同様に残業が60時間を超えた場合の賃金は、50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられます。
これまで大企業が対象とされていた割増賃金の法改正。中小企業については2023年3月まで猶予期間が設けられており、60時間を超える分の時間外労働の法定割増賃金率は25%以上と設定されています。特に中小企業の方は今回の施行を機に、残業時間が多くならないように業務と勤怠の管理に注意したいところです。
働き方改革関連法によって、企業の適切な勤怠管理が義務化されました。
勤怠管理は、企業のコンプライアンスや安全配慮義務を満たすために必要不可欠であり、従業員の働きやすさ企業イメージにもつながってくるものです。
勤怠管理を徹底するためには、労務のアウトソーシングや勤怠管理システム導入なども検討の上、運用体制を整えることが求められるでしょう。
また、2023年4月に中小企業も対象となった割増賃金の引き上げは従業員の心身のケアのきっかけとも考えられます。一般に残業時間が45時間を超えると心身への負担が増します。業務と勤怠管理の見直しとともに、産業保険機能の強化も検討したいです。
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