企業は労働者の安全や健康に配慮し、働きやすい環境を整備する責任があります。
数あるなかでも今回は「オフィス衛生」について注目してみましょう。
労働者の安全衛生について規定する労働安全衛生法には、いわゆるオフィス衛生に関する規定をまとめた「事務所衛生基準規則」という法令が紐づいています。
当記事では、事務所衛生基準規則の基礎知識や、大きく4つに分けられる管理項目、そして2021年12月に施行された改正のポイントについて解説します。
企業は労働者の安全や健康に配慮し、働きやすい環境を整備する責任があります。
数あるなかでも今回は「オフィス衛生」について注目してみましょう。
労働者の安全衛生について規定する労働安全衛生法には、いわゆるオフィス衛生に関する規定をまとめた「事務所衛生基準規則」という法令が紐づいています。
当記事では、事務所衛生基準規則の基礎知識や、大きく4つに分けられる管理項目、そして2021年12月に施行された改正のポイントについて解説します。
事務所衛生基準規則(以下、「事務所則)とは、事務所の衛生基準について定めた、労働安全衛生法に基づく厚生労働省令です。
まず「事務所」の定義を整理すると、次の条件が当てはまります。
工場、小売店など、商品を製造したり販売したりする場所は事務所には該当せず、労働安全衛生規則が適用されます。
ただし事務所でない建築物であっても、その一部に事務作業用のスペースを設けることは可能です。その場合は、事務所用のスペースにのみ事務所則が適用されます。
一般的に事務所は、工場などの現場作業が生じる作業場と比較した場合、有害物や危険物の取り扱いや、危険の生じやすい場所はほとんどないといえます。
しかし、企業が課される労働者への安全配慮義務には、労働災害を防止するだけでなく、快適な職場環境の確保も重要なテーマとして設定されています。
したがって、事務所の衛生は一定の水準で確保しなければなりません。
事務所則の規定が守られているかどうかは、産業医の職場巡視における観察対象の一部に含まれるため、正しく内容を把握し、遵守するよう心がけましょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「快適職場[安全衛生キーワード]」
では、事務所は具体的に事務所内のどういった箇所にどういった観点で衛生基準を設けているのでしょうか。
事務所則は全5章から成っており、総則となる第1章を除けば、次の4つの観点が存在します。
各管理項目について、事業者が最低限備えるべき内容についておさえておきましょう。
第2章(第2条~第12条)では、最低限確保すべき環境の確保について規定されています。
規定の範囲にある環境は、空気・明るさ(照度)・騒音・振動の主に4種類の分野があり、いずれにおいても労働者が快適で作業しやすい基準を満たすよう義務付けられています。
なかでも空気環境に関する規定が多く、空気中の有害物質を少なく保ち、人が快適さを感じられるような換気や空調は重要です。
たとえば、室温は17~28度以内、湿度は40~70%以内が基準となっています。
定期的に作業環境を測定したり、測定結果の記録を3年間保存したりする義務もあるため、維持管理と記録を怠らないようにしましょう。
ただし、メンテナンス会社が入るオフィスビルに事務所を構えている場合、管理や測定のほとんどは業者が代理で担当してくれます。
事業者側は結果の確認と記録・保存だけで問題ありません。
その場合であっても、個室ごとの空調や明るさなどの簡易的な管理は、衛生管理者などの役職者に任せるのが通例です。
第3章(第13条~第18条)では、主に水回りの充実や清潔の保持、清掃などに関する内容が規定されています。
重要な義務が複数含まれているため、以下に一部を抜粋して列挙します。
【一部抜粋】
- ・労働者の飲用水やその他飲料を十分に供給できる給水設備の設置義務(第13条)
- ・汚水の漏出などが起きないよう排水設備を補修・掃除する義務(第14条)
- ・日常的な清掃のほか、半年に1回程度の大掃除を実施する義務(第15条の1)
- ・ねずみ、昆虫等の調査や発生防止の措置を講じる義務(第15条の2)
- ・労働者が事務所の清潔に注意し、廃棄物を定められた場所以外に捨てないようにする義務(第16条)
- ・トイレは男性用と女性用に区別する義務(第17条の1)
- ・洗面設備を設置する義務(第18条)
とりわけ給水・排水の管理、清掃や害獣・害虫駆除については、ビルメンテナンス会社をはじめとした専門業者に委託することも可能です。
第4章(第19条~第22条)では、労働者が睡眠(仮眠)休養休憩をとれる設備について規定されています。
まず、業務の性質上長時間または夜間の拘束が生じる可能性がある場合、睡眠(仮眠)用の設備を事業場に必ず設置しなければなりません。
部屋を男女で分ける配慮や、横になって休むためのベッドや布団の用意も必須です。(第20条)
また、常時働く従業員が50人以上(または女性従業員が30人以上)の事業場では、横になれる設備のある休養室を男女別に設置する義務があります。(第21条)
労働者が一息つけるような休憩室は、横になるための設備は必要なく、設置自体も努力義務にとどまります。(第19条)
ただし、常に立ちながら仕事に従事する労働者に対しては、休憩用の椅子を必ず設置しなければならないため注意しましょう。(第22条)
事業者は、負傷者の手当てに必要な救急用具を備え、清潔に保ち、備え付け場所や使用方法を労働者に周知させる義務があります。
備え付けるべき救急用具の内容については安衛則の方で詳細が規定されますが、2021年12月の法改正で具体的な指定がなくなっています。
詳細についてはこの後の改正に関する解説で言及するので、そちらもご覧ください。
▼参考資料はコチラ
事務所衛生基準規則 | e-Gov法令検索
労働関連法規は、社会や働き方の変化に合わせて、これまで多くの改正を繰り返してきました。
事務所則は1972年に制定されましたが、約50年ぶりとなる改正が2021年12月に施行されました。
事務所則における最新の改正ポイントは次の3点となります。
作業場所を照らす光の明るさ(照度:ルクス)の基準は、従来は「精密な作業(300ルクス以上)」、「普通の作業(150ルクス以上)」、「粗な作業(70ルクス以上)」の3区分となっていました。
この基準が改正によって「一般的な事務作業(300ルクス以上)」と「付随的な事務作業(150ルクス以上)」の2区分に整備されました。
付随的な事務作業とは、資料の袋詰めやクリップ留めといった文字を読み込む必要のない作業であり、これに該当しなければ、一般的な事務作業に分類されます。
照度(ルクス)については照らされた箇所を基準とするため、オフィス全体の雰囲気ではなく、デスク上の作業スペースを明確に照らせるような照明設定が大切です。
トイレの設置については、男女の区別や、人数に応じて設置すべき個数などがすでに定められています。今回の改正によって新たに「独立個室型の便所」に関する例外規定が第17条の2に設けられました。
「独立個室型の便所」とは、法令上「男女で区別しない、四方を壁などで囲まれた一個の便所により構成される場所」と定義しています。
いわゆる、男女兼用の個室トイレと考えればわかりやすいでしょう。
今回新設された例外規定は、常時働く従業員が10名以内の場合、「独立個室型の便所」を設置すれば、男女でトイレを分けて設置せずとも基準を満たせる、という内容です。
この規定によって、建物の構造や配管の敷設に制約があり、男女別にトイレを設置できなかった場合でも、事務所則の基準を満たしやすくなりました。
ただし厚生労働省は、「可能な限りトイレは男女で区別して設置するのが望ましい」という見解を出しています。
やむを得ない事情が無ければ原則の男女区別規定を守るようにしましょう。
事務所則の改正ではありませんが、安衛則にも重要な改正が施されているため、あわせてお伝えします。
事務所則の第23条には、負傷者の手当に必要な救急用具などを備え、これを清潔に保つ義務が規定されます。
教急用具の内容については、安衛則第634条で具体的な内容(※)が指定されていました。しかし、今回の改正によって条項自体が削除されました。
※包帯材料、ピンセットや消毒薬など
これによって、各事務所にはどの救急用具が必要となるのか、産業医の意見や衛生委員会での調査審議の結果などを踏まえ、柔軟に備え付ける取り組みが望まれます。
同時に、第633条では「その場で応急手当を行うことよりも速やかに医療機関に搬送することが基本である」という文言に改正されています。
つまり、迅速に専門の医療行為を受けさせる意識付けの方が重要となりました。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「事務所衛生基準のあり方に関する検討会 報告書の概要」
厚生労働省「職場における労働衛生基準が変わりました」
事務所則が規定する衛生基準は、労働者の立場になって考えれば当たり前に守るべき内容ばかりです。
空気が淀んでいるオフィスや、長い間掃除が行き届いていないトイレのある職場では、労働者のモチベーションも低下し、果てには健康被害に発展するおそれがあります。
事業者や衛生管理の担当者は必ず事務所則の内容を把握し、ビルメンなど外部の業者がカバーできる管理項目は委託しながら、すべての義務を果たせるよう定期的なチェックを欠かさないようにしましょう。
産業医の職場巡視を活用し、規定に沿った事務所の運用が行われているかをプロの目線で見てもらうのも効果的です。
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