従業員の健康問題は管轄部署の担当者のみで決定するわけではありません。医師の意見を取り入れ、総合的に判断する必要があります。そこで用いられるのが「医師意見書」です。
当記事では、企業の人事部門の方が知っておきたい医師意見書にフォーカスし、概要について解説します。
従業員の健康問題は管轄部署の担当者のみで決定するわけではありません。医師の意見を取り入れ、総合的に判断する必要があります。そこで用いられるのが「医師意見書」です。
当記事では、企業の人事部門の方が知っておきたい医師意見書にフォーカスし、概要について解説します。
医師意見書とは、病気や怪我、これらに付随する症状などについて医学的観点に基づいて医師の意見を記載した書類です。
もともと医師意見書は、障害者自立支援法に基づき障害者が適切な障害福祉サービスを受けるため必要な「障害程度区分認定」を決定する際に、主治医の意見を伝えるための必要書類として知られています。
企業の人事部門が主に取り扱う医師意見書としては、労働安全衛生法第66条で以下の3つが定められています。
●健康診断結果の措置についての医師意見
●長時間労働者面接指導後の医師意見
●高ストレス者面接指導後の医師意見
このほか、休職・復職や就業継続の可否などについての医師意見書があります。
それぞれの医師意見書について詳しく見ていきましょう。
労働安全衛生法第66条の10により、従業員が50人以上いる事業所では年1回のストレスチェックの実施が義務付けられています。ストレスチェックの結果、高ストレス者と診断された労働者は、医師の面接指導を希望する場合に面接指導を受けることができます。
面接指導後に、産業医が従業員のストレスの状態や健康について、報告書・意見書を作成します。
意見書の内容としては、就業上の措置として労働時間の短縮や就業場所の変更、作業の転換を意見したり、職場環境の改善や医療機関への受診配慮を記入したりします。
労働契約法第5条より、事業主が従業員に対して安全配慮義務を負うことが定められているため、休職中の従業員が職場に復帰する際には慎重にその可否を判断する必要があります。
そのため、職場復帰の際には主治医の診断書を踏まえて産業医面談を行い、復帰の可否を判断することをお勧めします。
意見書の内容としては、復職の可否、復職する場合は職場で配慮する内容を記入します。復職にあたって職場で配慮したほうがよいことなどが挙げられます。
労働安全衛生法第66条の8、9により、一般労働者であれば月80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者には、医師による面接指導を行うことが義務付けられています。
また、面接指導の対象とならない労働者についても、脳・心臓疾患発症予防の観点から必要に応じて面接指導を行うべきです。
意見書の内容としては、就業上の措置として労働時間の短縮や就業場所の変更、作業の転換を意見したり、医療機関への受診配慮などを記入したりします。
体調不良やメンタルヘルス不調時などに通常通りの就労が難しくなった際も、産業医が面接指導を行ったり意見書を作成したりするケースがあります。
面接の内容によって産業医は適切なアドバイスを行い、意見書を作成します。
意見書の内容としては、上記と同じように就業の制限や職場環境改善の意見を含みます。
産業医意見書の役割は事業者に労働者の就業の制限や職場環境改善を促すことや、職場復帰の可否を判断することにあります。
では、医師意見書や主治医の診断書とは何が違うのでしょうか?
医師意見書は一般的に従業員が50名以上であり、産業医の選任義務がある企業の場合「産業医意見書」、従業員が50名未満の企業の場合は産業医の選任義務がないため、「医師意見書」と呼ばれます。
産業医とは、労働者が心身の健康を損なうことのないよう、専門的な立場から労働者と企業に対し助言や指導をする医師です。
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産業医とは?役割や業務内容をわかりやすく解説
労働安全衛生法に「医師」による意見と記載があるため、意見を聴取するのは産業医と限定はされていません。しかし、産業医がいる場合は、産業医による意見が望ましいとされています。
業務上の措置やアドバイスが記入された産業医意見書ですが、法的強制力はありません。
ただし、産業医意見書を無視し、従業員に健康被害や労災が発生した場合、事業者は安全配慮義務違反に問われる可能性があります。違反すると損害賠償請求を受けることもあるため、専門家である産業医の意見を尊重して従業員の健康を確保するために対策を講じましょう。
従業員の復職を例に考えてみます。
従業員の復職を判断する際、企業の人事部門は以下の内容に鑑み、就業の可否を決定します。
1. 主治医による復職可の診断書
2. 産業医面談
3. 産業医による就業可否についての意見書
まず、産業医の意見書は従業員との面談を通じて、実際の職場の環境と従業員の健康状態を考慮して業務上復帰しても問題ない状況かどうかを判断し、安全配慮義務に関する助言や職場復帰に関して意見します。
それに対して主治医の診断書は医学的観点に基づいて従業員の病状を診断したうえで、復職が出来るかどうかを判断しますが、あくまでも「健康上日常生活に異常をきたさないか」という観点で判断する場合が多いです。
そのため、産業医は主治医に比べて「業務」という点を重視し、職場環境なども加味して判断できる点が異なります。
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安全配慮義務とは?社員のために労働環境を整備
復職に関する産業医意見書には、就業区分(可・条件付き可・不可)、復職に関する意見、就業上の配慮の内容、措置期限を記載します。
就業上の配慮の内容とは、復職可もしくは条件付きの復職が可能な場合の就業条件に関する項目で、時間外勤務、休日勤務、出張、配置転換・異動など、より細かい制限を設けることが可能です。
復職における意見書のフォーマットは、厚生労働省のホームページからダウンロードすることができます。
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厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル」
厚生労働省『様式例3(本文3の(4)関係) 職場復帰に関する意見書』
同じ医師でも産業医と主治医では立場が異なるため、労働者の休職もしくは復職に際し産業医意見書と主治医による診断書で見解が分かれる場合があります。
その場合、企業は産業医の意見をもとに判断するのが一般的です。ただし、労働者が休職に至る原因となった病気が産業医の専門外の内容だった場合には、主治医の意見を十分考慮する必要があるとされています。
主治医は労働者の病状と回復の程度を診て、労働者から聞く職場環境像をイメージしながら、復職の可能性を判断します。
対して産業医は、労働者の回復の程度と復帰後の業務遂行能力を評価し、実際の職場環境を考慮したうえで復職の可否を総合的に判断し意見としてまとめます。
また、主治医は患者である労働者の希望を汲んで、早期復職を意見してしまう可能性もあります。
つまり、主治医と産業医では意見を述べる際の判断軸が異なること、実際の職場環境を想定した環境下での業務遂行能力の回復を判定できることなどから、休職の原因となった病気の再発や増悪を防ぐために産業医意見書の記載内容を、企業は優先して判断します。
たとえ主治医が職場復帰可能と診断しても、労働者本人の状態や職場環境を考慮し産業医がすぐの復帰を認めないことがあるのは、こうした背景もあります。
労働者が心身の不調を得て休職することは、労働者はもちろん企業にとっても不利益なことです。
長時間労働や業務内容によるストレスから、心身の健康に不調をきたすことはぜひとも避けたいところです。
産業医意見書は、労働者の抱えている問題点とそれに対する解決策、休職あるいは復職を検討する労働者の状態と必要な対応を把握するための手がかりとして不可欠な書類と言えるでしょう。