職場復帰支援プログラムとは
職場復帰支援プログラムは、休業中の職場復帰支援の方向性やプロセスなどを定めた企業全体のルールです。
この職場復帰支援プログラムをもとに作成する、職場環境を考慮し従業員個別の事情に即した具体的なプランを「職場復帰支援プラン」といいます。
厚生労働省では「心の健康問題により休業した従業員の職場復帰支援の手引き〜メンタルヘルス対策における職場復帰支援〜」を公開していることをご存知でしょうか。
手引きでは、以下を実施事項として定めています。
●職場復帰支援プログラムの策定
●職場復帰支援プランの作成
●主治医との連携
休職から職場復帰までのプロセスを問題なく実施できるよう内規を整備する、該当者に対し一連の流れを説明する、内規を全体周知することを強調しています。
職場復帰に伴うサポート体制はその場しのぎのものでなく、事前に対応方法を検討したうえで職場の実情を反映したものが望ましいため、プランとプログラムの詳細設計は各企業の裁量に任されているのが実情です。
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厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き メンタルヘルス対策における職場復帰支援」
職場復帰支援プログラムの重要性
職場復帰支援プログラムと職場復帰支援プランを事前に作成することは、従業員と企業の双方にメリットがあります。心の病を有する人の増加に伴い、メンタルヘルスが原因の休職は増加傾向にあります。
とくにメンタルヘルスに起因する休職は長期化する傾向もあるため、職場復帰を目指す従業員への配慮や対応を取り違えると、せっかく職場復帰しても心身のバランスを崩し再度休職する原因にもなりかねません。
企業の実情に即した職場復帰支援プログラムがあることで、企業は休職中の従業員の健康状態を把握したうえで適切な対応やサポートを提供しやすくなります。
また、職場復帰後に一緒に働く従業員も適切な判断をしやすくなるため、負担や不満をいたずらに増やさずに済むでしょう。
「職場復帰できる自信がない」「職場復帰しても以前のように働けるかわからない」と心配を打ち明ける従業員には、リワーク支援を挟んでから職場復帰を判断する選択肢もあります。
リワーク支援は、決まった日時に所定の施設に通いストレスに関する教育やワークショップを実施するプログラムで、病院で実施する医療リワーク、地域障害者職業センターで実施する職リハリワーク、企業で実施する職場リワークなどがあります。
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復職復帰支援における産業医の役割
職場復帰支援には複数の担当者が関わるため、それぞれの役割を明確にしておく必要があります。復帰支援プログラムの計画・実施から評価・改善まで、適宜フォローし合えるような環境を築くことが大切です。主な関係者は以下の通りです。
管理監督者
上司または責任者など、労働者の職場環境を把握する立場の人です。労働者の復帰後の状態の把握や職場環境の改善などのサポートを行います。
人事労務管理スタッフ
休業・復帰の際に必要な手続きを進める立場で、人事課などが該当します。給与や給付金の案内、休職期間や休職中の連絡方法の確認なども必要になるでしょう。人事/労務管理の立場から労働者の労働環境について問題点を把握し、改善策の提案を行います。
産業医など
復帰の判断や意見書の作成、復帰後の健康状態に関する支援を行います。主治医との連携や管理監督者や人事労務管理スタッフ、事業者への助言も必要です。50人未満の事業場で産業医がいない場合は地域窓口(地域産業保健センター)に相談することで医師のサポートを無料で受けることができます。
衛生管理者(衛生推進者)など
労働者に対するケア、管理監督者のサポートなどを行います。メンタルヘルス推進担当者を選任している場合は、その担当者がこれらの業務を担います。
保健師など
産業保健師などがいる場合は労働者の不安、不調の支援、管理監督者のサポートを行います。
心の健康づくり専門スタッフ
精神科・心療内科などの医師、精神保健福祉士、心理職などを指し、専門的な立場から労働者や管理監督者の支援をします。
産業医は復職の判断をする際、労働者の健康状態や休職に至った原因が現在解決されているのかを見極め、再度の休職を防がなくてはなりません。復帰後も労働者が職場環境に適応できるよう、労働環境や通院状況などに対するフォローを行います。
▼参考資料
厚生労働省「職場復帰支援の手引き」
休職していた従業員の職場復帰の流れ
職場復帰支援プログラムでは、職場復帰支援を5ステップに分け段階的に実施することと、各ステップの実施事項を解説していますので、ここでは全体の流れを確認しましょう。
1. 病気休業開始及び休業中のケア
従業員の主治医が作成した診断書(病気休業診断書)が提出されると、従業員の休職がスタートします。
診断書を受理次第、管理監督者は人事労務管理に展開します。従業員が休職に専念できるよう、事務手続きと休職に関連する情報提供も忘れずに実施しましょう。
休職に関連する情報としては、以下が挙げられます。
●傷病手当などによる経済的な保障の説明
●休職中に生じた不安や悩みごとの相談先の紹介
●公的機関もしくは民間組織が提供する職場復帰支援サービスの紹介
●休職の最長(保証)期間 など
休職期間中も従業員と定期的に連絡を取り合い、職場復帰の判断材料にしましょう。
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2. 主治医による職場復帰可能の判断
休職中の従業員から職場復帰の希望が伝えられると、企業の担当者は、主治医による「職場復帰可能」という判断が記載された診断書の提出を休職中の従業員に依頼します。
診断書には、休職中の従業員が職場復帰するにあたって配慮してもらいたい事項も具体的に記入してもらいましょう。
なお、主治医が作成する診断書は日常生活への支障を基準に回復の程度と職場復帰を判断していることが多いため、休職中の従業員の業務遂行能力が企業の求める基準まで回復していない可能性にも注意が必要です。
そのため診断書作成依頼時には、復帰予定の職場で求められる業務遂行能力と詳細を主治医に共有し、休職中の従業員が就業可能レベルまで回復している旨を記載した意見書の提出も一緒に依頼しておくとそのあとの手続きがスムーズです。
主治医が作成した診断書と意見書を受理したら産業医に内容の精査を依頼し、企業が取るべき対応について意見を求めます。
3. 職場復帰の可否判断及び職場復帰支援プランの作成
休職中の従業員が安全かつ円滑に職場復帰するため、最終的な決定を下す前のステップとして、情報収集と評価を行い職場復帰の可否を判断し、職場復帰支援プラン作成を開始します。
職場復帰支援プランは、企業の産業保健スタッフを中心に、管理監督者、休職中の従業員が連携して作成するものです。
ア 情報の収集と評価
(ア)従業員の職場時復帰に対する意思の確認
(イ)産業医等による主治医からの意見収集
(ウ)従業員の状態等の評価
(エ)職場環境等の評価
(オ)その他
イ 職場復帰の可否についての判断
ウ 職場復帰支援プランの作成
(ア)職場復帰日
(イ)管理監督者による就業上の配慮
(ウ)人事労務管理上の対応等
(エ)産業医等による医学的見地からみた意見
(オ)フォローアップ
(カ)その他
4. 最終的な職場復帰の決定
『3. 職場復帰の可否判断及び職場復帰支援プランの作成』で収集した情報と職場復帰支援プランの内容を基に、休職中の従業員の職場復帰可否を最終決定します。
ア 従業員の状態の最終確認
イ 就業上の配慮等に関する意見書の作成
ウ 事業者による最終的な職場復帰の決定
エ その他
5. 職場復帰後のフォローアップ
従業員が職場復帰を果たしたあとも、フォローアップは続きます。
管理監督者による監督と支援、産業保健スタッフなどによるフォローアップを継続し、実情に応じて職場復帰支援プランの評価及び見直しを実施しましょう。
ア 疾患の再燃・再発、新しい問題の発生等の有無の確認
イ 勤務状況及び業務遂行能力の評価
ウ 職場復帰支援プランの実施状況の確認
エ 治療状況の確認
オ 職場復帰支援プランの評価と見直し
カ 職場環境等の改善等
キ 管理監督者、同僚等の配慮
職場復帰支援の際の注意点
従業員が再度休職しないためにも、職場の環境整備はもちろん、メンタルヘルスに対する教育、面談や状況確認の定期的な実施が求められます。
とくにメンタルヘルスにまつわる問題は健康問題以外の観点による評価がなされがちなことに加え、メンタルヘルス自体に誤解や偏見などの課題もあるため、メンタルヘルスの正しい理解を広げるためにも従業員に対する教育研修や情報提供体制の整備が必要です。
健康状態や業務遂行能力が完全に回復していないまま、職場復帰を果たす従業員もいます。
従業員によっては、注意力散漫な状態が続く、疲労が蓄積しやすく倦怠感が消えにくいなどの不調を抱えたまま職場復帰する場合もあるでしょう。
反対に、休職したことによる遅れや周囲からの信頼を取り戻そうと気持ちがはやって、無理をしてしまうケースもあります。
そのため職場復帰後は、従業員本人や主治医の意見を取り入れつつ、従業員が自分のペースで取り組める比較的軽微な業務を担当させ、面談をはじめとした状況確認を定期的に実施することが望ましいでしょう。
また、正式な復帰の前に不調に気づけるよう、模擬出勤や試し出勤制度などを設ける企業もあります。段階的な復帰を行うことで、心理的、身体的な負担を減らせるため、導入を検討するのも良いでしょう。
職場復帰支援における産業医の重要性
主治医が下す復職可能の診断は、休職中の従業員の日常生活の回復度合を見て下されているため、業務遂行能力が企業の求める水準まで回復していないケースも見受けられます。
そのため産業医には、主治医の診断書の内容を精査することと、従業員自身の状態を確認したうえでの判断と意見が求められ、企業はその内容を重視すべきものとされています。
産業医は労働者と会社の双方の状況を把握できる立場として、両者と密接な関係を築けていることが大切です。
また、コロナ禍以降「従業員の状態を考慮し、在宅勤務であれば復職可能」とする診断書や意見書を提出する従業員が増えていることはご存じでしょうか。
こうしたケースは、
●職場復帰を打診した時点で、復職可能な基準をクリアしているか
●在宅勤務でも、従業員の特性を把握し適切な対応をとれるか
●職場復帰後、適切な安全配慮を行えるか
にフォーカスした判断と適切な対応が産業医に求められます。
数か月後には以前と同様の勤務形態に復帰可能という主治医の判断なら、復職検討の余地は残されていると言えるでしょう。
しかし、オフィスへの出勤は難しいものの在宅勤務なら復職可能とするものだった場合は慎重な対応をとらざるをえないため、産業医は必要に応じて主治医に内容を確認したり情報提供を求めたりする対応が求められます。
また、一人だと孤独を感じやすいタイプのように、従業員の性格や特性次第では在宅勤務がかえってストレスになることもありえるため、従業員の特性を把握したうえでの判断が望ましいです。
安全配慮の観点では、上司や労務管理担当とオンライン面談を定期的に実施する、職場復帰後は生活リズムの記録と提出を求めるなど、オフィスにいなくても職場復帰した従業員を見守る「目」を補う工夫も必要です。
まとめ|産業医と連携し、職場復帰支援を推進しましょう
休職前のポジションと労働環境、休職に至った経緯と原因、職場復帰にあたって求められる配慮と対応は、従業員ごとに異なります。
休職者の職場復帰を支援し、再度休職するような事態にしないためには、職場環境と実情を考慮しつつ従業員個別の事情に柔軟に対応した支援プランの立案と実施が欠かせません。
職場復帰支援において、専門的な立場からの事業者に意見を出したり、主治医と連携をとったりなど、産業医は大きな役割を担っています。
従業員の心の健康、企業の労働力を守るためにも、信頼のおける産業医との密な連携を行える環境づくりを心がけましょう。