従業員の働きやすさを決める要因はいくつかある中で、最も基本的で事業者側が気を配らなければならないのが職場環境です。
もちろん、どのような職場環境が適切かどうかは、「職場における労働衛生基準(事務所衛生基準規則+労働安全衛生規則)」に定められています。
こちらの基準は2021年に改正されているため、基準を満たす職場を維持するためにも、変更点を把握しておきましょう。
当記事では、職場における労働衛生基準を4つの項目に分けて解説します。
従業員の働きやすさを決める要因はいくつかある中で、最も基本的で事業者側が気を配らなければならないのが職場環境です。
もちろん、どのような職場環境が適切かどうかは、「職場における労働衛生基準(事務所衛生基準規則+労働安全衛生規則)」に定められています。
こちらの基準は2021年に改正されているため、基準を満たす職場を維持するためにも、変更点を把握しておきましょう。
当記事では、職場における労働衛生基準を4つの項目に分けて解説します。
職場における労働衛生基準は、労働安全衛生法に基づく以下2つの厚生労働省令を表します。
・事務所衛生基準規則(以下、「事務所則」)
・労働安全衛生規則(以下、「安衛則」)
「事務所則」は事務作業を主に行うオフィスの衛生基準について、「安衛則」はオフィスだけでなく事務作業を伴わない事業場(生産工場や建設現場など)を含めた職場での安全・衛生基準について定めています。
これら省令が2021年12月に改正され、すべての規定がすでに施行されました。
労働関連法規は、社会や働き方の変化に合わせて、これまで多くの改正を繰り返しています。
職場における労働衛生基準も例外ではなく、近年では女性活躍の推進、高齢労働者や障害のある労働者といった多様な人材の労働参加、テレワークの普及など社会状況の変化が目立つようになりました。
こうした背景を受け、新たな社会における働きやすい環境整備への関心が高まり、今回の改正が行われることになったのです。
ここからは、「1.照基準度」「2.トイレ設備」「3.休養室や休憩の設備、更衣室」「4.その他」の4つに分けて、職場における労働衛生基準の変更点をご紹介していきます。
照度(単位:ルクス)とは、机の上などの面に達している光の度合いのことを指します。照明自体の明るさではないことに注意が必要です。作業場所の照度の基準は、作業内容に応じて区分けされています。
この区分けについて、改正前の3区分が2区分に整備されました。(事務所則第10条第1項)
【改正前】
作業の区分 | 基準 |
精密な作業 | 300ルクス以上 |
普通の作業 | 150ルクス以上 |
粗な作業 | 70ルクス以上 |
【改正後】
作業の区分 | 基準 |
一般的な事務作業 | 300ルクス以上 |
付随的な事務作業 | 150ルクス以上 |
「付随的な事務作業」とは、資料の袋詰めやクリップ留めといった文字を細かく読む必要のない作業であり、これに該当しなければ「一般的な事務作業」に分類されます。
照度が不足していると、眼精疲労の原因となったり、前かがみの姿勢になってしまうことで腰痛や背部痛、上肢障害といった健康障害を引き起こしたりします。
今回の改正はこれら健康障害を防止する観点から、すべての事務所に対して適用されます。
照度については照らされた箇所を基準とするため、照度計を使って作業スペースの照度が上記基準を満たしているか確認しましょう。
また、基準を満たしたうえで個々の事務作業に応じた適切な照度も定められています。
これについては、日本産業規格「JIS Z9110:2011(照明基準総則)」の『表9ー事務所』に規定する各種作業における推奨照度を参照してください。
▼参考資料はコチラ
日本産業規格「JISZ9110:2011 (照明基準総則)」
トイレの設置については、改正によって新たに「独立個室型の便所」が定義されました。(事務所則第17条の2、安衛則第628条の2)
「独立個室型の便所」とは、男女で区別しない代わりに、全方向を壁や扉で囲んで内側から施錠できるようにして、しっかりとプライバシーを確保した、いわゆる男女兼用の個室トイレです。
・男性用と女性用に区別せず、単独でプライバシーが確保されている。
・便所の全方向が壁等で囲まれ、扉を内側から施錠できる構造である。
・1個の便房により構成されている。
という条件を満たしていれば、バリアフリートイレも「独立個室型の便所」と見なされます。
また、手洗い設備はトイレ内に設けるのが原則ですが、「独立個室型の便所」では構造上難しい場合もあります。その場合は、トイレのすぐ近くに手洗い設備があれば問題ないとされます。
「独立個室型の便所」が定義された背景として、「小規模事業所に対する規制緩和」があげられます。
改正前は男女別にトイレを設置しなければ事務所則を満たせず、建物の構造や配管の敷設に制約があり、1つしかトイレを設置できないような場所が取り残されていました。
そこで今回の改正によって、常時働く従業員が10名以内の小規模事業所であれば、「独立個室型の便所」を設置するだけで事務所則の基準を満たせるようになったのです。
ただし厚生労働省は、「可能な限りトイレは男女で区別して設置するのが望ましい」という見解を出しています。
やむを得ない事情が無ければ原則の男女区別規定を守るようにしましょう。
職場の従業員が心身の疲れを回復させる場所となる「休養室・休養所」「休憩の設備」「更衣室・シャワー設備」については、それぞれ異なる条項で規定があります。
今回の改正でこれら規定の変更はありませんでしたが、厚生労働省からは新たな留意点が示されたためご紹介します。
休養室・休養所は、職場で体調不良者が出た場合に一時的に休ませるための設備です。
常時50人以上、または常時女性30人以上の従業員が働く場所では設置義務があります。
長時間の休養等が必要な場合、速やかに医療機関に搬送または家に帰宅させることが基本であるため、スペースが男女で区別されていたり、横になって休むためのベッドや布団の用意があったりなど、必要な機能を備えていれば専用の部屋を作る必要まではありません。
とくに留意すべきは、利用者のプライバシーと安全の確保です。
外部から見えないように休養スペースを設けたり、緊急時に搬送しやすい導線を確保したり、設置場所に応じた対策を講じましょう。
休憩の設備は、従業員が仕事の合間にひと息つけるようなスペース全般です。
休憩スペースの広さや椅子の個数、自販機の台数といった設備内容については、職場の人数や休憩設備へのニーズなどの実情に応じて決定しましょう。
実情の調査・審議、および設置に関する検討は主に衛生委員会で実施します。
従業員の服や体が汚れたり、濡れたりするような職場では、更衣室やシャワー設備の設置が必要となります。
休養室・休養所の留意点と同じく、性別を問わず安全・安心に利用できるよう、職場のニーズに応じた設備を設けましょう。
省令に規定される最低限の内容だけでなく、実際に使う人たちに配慮し、彼らの声をしっかりと取り入れる姿勢が大切です。
最後に、ここまでにご紹介したテーマ以外の細かな変更点に触れていきます。
空調設備のあるオフィスで維持すべき温度の努力目標値は、改正前と改正後でわずかに異なるため注意しましょう。
【改正前】
17度~28度
【改正後】
18度~28度
上記の範囲内において、実際に働く従業員が快適に作業できるように適宜調整すると良いでしょう。
職場の空気環境を適切に保つために必要な作業環境測定(事務所則第7条)について、一酸化炭素・二酸化炭素の測定に関する変更がありました。
従来から規定される検知管方式(ガラス管へ気体を採取して濃度を測定する方式)のほか、次の方式を用いる測定器の有効性が認められています。
・一酸化炭素:定電位電解法
・二酸化炭素:非分散型赤外線吸収法(NDIR)
教急用具(「負傷者の手当に必要な救急用具及び材料」)の内容については、安衛則第634条で具体的な品目(※)が指定されていましたが、今回の改正によって条項自体が削除されました。
※包帯材料、ピンセットや消毒薬など
削除の理由として、その場で応急手当を行うことよりも速やかに医療機関に搬送することが基本であること、事業場ごとに負傷や疾病の発生状況が異なることなどがあげられます。
これによって、各職場にはどの救急用具が必要となるのか、産業医の意見や衛生委員会での調査審議の結果などを踏まえ、柔軟に備え付ける取り組みが望まれます。
職場における労働衛生基準は、従業員の生産性やモチベーションにつながる重要な決まりごとです。
事業者や衛生管理の担当者が規則の内容を把握するのはもちろん、産業医の職場巡視を活用し、規定に沿った事務所の運用が行われているか見てもらっても良いでしょう。
ただし厚生労働省も見解を出しているように、省令を守るだけでなく、職場で働く人たちの血の通った意見・ニーズを重視した職場環境を構築するのが一番です。
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