長時間労働と過重労働の違い
過重労働とは、長期間にわたる労働や、身体的・精神的に負荷の大きい労働が該当します。ただし、法令などで明確な定義がされているわけではありません。
ただ、厚生労働省では、月100時間超または2〜6か月平均で月80時間を超えると健康障害のリスクが高いとされ、これが過重労働のラインであると言えます。
過重労働による疲労の蓄積は、身体・精神ともに被害を被る可能性があります。身体的には、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いという医学的な結果が出ており、死に至る場合もあります。また、精神的には、うつ病などの精神障害の原因となり、最悪のケースでは自殺に追い込まれる可能性もあります。
長時間労働には明確な定義がありませんが、36協定で定められる時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間であり、この時間を超えると健康障害のリスクが徐々に高くなるため注意が必要です。
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なお、2021年に脳・心臓疾患に関する労災認定基準が改正され、「長期間の過重業務」の評価について、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価することが明確化されました。そのほかにも改正されているポイントがあるため、気になられる方は以下の記事をご覧ください。
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厚生労働省『過重労働による健康障害を防ぐために』
長時間労働者に対しては面接指導を
上記のような理由から、過重労働に対して企業は対策を取らなければなりません。考えられる対策の一つが「面接指導」です。労働安全衛生法66条の8では、長時間の時間外・休日労働を行った従業員(労働者)に対して、企業(事業者)は医師による面接指導を行わなければならないと定められています。
“第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。”
引用:労働安全衛生法 | e-Gov法令検索
2019年の改定で80時間の長時間労働者も対象に
近年、働き方改革によって労働者の立場を守るために法律の改正・新設が進んでいます。労働安全衛生法も2019年に改正され、面接指導の対象となる要件が拡大されました。たとえば、面接指導の義務の対象者は以下になります。
労働者(裁量労働制、管理監督者含む)
【義務】
①月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導を申出あり
【努力義務】
②事業主が自主的に定めた基準に該当する
研究開発業務従事者
【義務】
①月100時間超の時間外・休日労働を行った
②月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接指導の申出あり
【努力義務】
③事業主が自主的に定めた基準に該当する
高度プロフェッショナル制度適用者
【義務】
①1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた時間について月100時間超行った
【努力義務】
② ①の対象者以外で面接指導の申出あり
長時間労働者への面接指導までの流れ
それでは、長時間労働者が産業医による面接指導を受けるまでの流れを解説します。
労働時間の算定・把握
企業は従業員の労働時間を把握し、3年間保存する義務が定められています。また、労働時間の算定は、毎月1回以上、一定の期日で行う必要があります。
労働時間は客観的な方法で把握する必要があり、たとえばタイムカードやICカード、パソコンの起動時間の確認などがあげられます。
従業員の総労働時間、時間外労働、休日労働を取りまとめ、各従業員が確認できる状態にしておきましょう。
従業員への通知・産業医への情報提供
時間外労働と休日労働が月80時間を超えている従業員に対しては、労働時間の状況に関する通知をしなければなりません。なぜならその通知によって、医師による面接指導の対象者であるという認識をしてもらい、面接指導の申出を促せるためです。したがって、面接指導の実施方法や時期の案内などもあわせて伝えましょう。
また従業員への通知と同時に、産業医へ時間外労働と休日労働が月80時間を超えている従業員に関する情報を提供する必要があります。該当者がいない場合は、「該当者なし」という情報を提供しましょう。
面接指導の実施
面接指導は医師が実施しなければなりません。法的に医師であれば問題ありませんが、産業保健に関する医学的な知見をもつ産業医などに依頼するほうが望ましいです。
従業員が50人以上の企業では産業医の設置義務があります。従業員の人数が少なく、産業医のいない企業では地域産業保健センターなどの窓口を活用しましょう。ワーカーズドクターズでは産業医をお探しの企業へ、長年培ったノウハウを活用し、ご紹介します。
ワーカーズドクターズならではの企業サポート
面接指導では、以下の事項を確認・総合的に評価し、従業員へ指導することになります。
確認事項 |
例 |
1.勤務状況 |
労働時間、出張回数、深夜勤務、作業環境の状況など |
2.就労の蓄積の状況 |
仕事の負担度、自覚症状、睡眠・休養の状況など |
3.その他心身の状況 |
現病歴、生活状況など |
また、面接指導の実施の事実や内容が漏れることがないよう、プライバシーの保護を徹底しましょう。
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意見の聴取と事後措置の策定・実施
企業は、面接指導を実施した従業員の健康を維持するために、必要な措置を産業医から聴取します。その意見を考慮して企業は事後措置を実施する判断をします。具体的には配置転換や労働時間の短縮、就業場所の変更などがあげられます。
なお、面接指導の結果は5年間保存しなければなりません。また、労働者からこの結果の開示が求められた際は原則としてそれに応じなければならない点に注意しましょう。
長時間労働に関する面接指導の様式やチェックリスト
月80時間超の時間外・休日労働を行った労働者など、労働安全衛生法第66条や労働安全衛生規則第52条によって、対象となった労働者には面接指導を行わなければなりません。
面接指導の実施者は事業場に専任されている産業医が望ましく、産業医が選任されていない場合などは地域産業保健センターの登録医やその他医師、産業看護職が行います。
面接は、プライバシーが確保できる面談室や会議室などで実施しましょう。また、産業医が表情やしぐさなどを確認できるなどの一定の条件を満たせば、テレビ電話などのオンラインで面接指導を行うこともできます。
長時間労働者に対する面接指導では以下のことについて確認します。
・事前問診票の確認
・検診結果等の確認
・勤務状況(部署・役職、業務内容、勤怠状況等)
・業務過重性(長時間労働の発生理由、今後の見通し、仕事の負担度等)
・心身及び生活の状況(既往歴、自覚症状、睡眠の詳細、嗜好など)
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厚生労働省「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」
長時間労働者に面接指導を受けてもらうために
実際に長時間労働をしている場合でも面接指導の制度があることを知らなかったり、不利益が生じるのではないかと考え拒否したりするケースもあります。そのため、面接指導を受けてもらうための対策を取る必要があります。
面談の申出がしやすい体制を作る
面接指導を受けてもらうためには主に2つのポイントがあります。
・申出様式の作成や窓口の設定のような、申出手続きをしやすい環境を作る
・面接指導やその方法についての周知徹底を行う
まず、簡単に面接指導の申出を行える環境を作り、面接指導の方法やその内容について周知をすることによって、申出がしやすい環境づくりをしましょう。
改善の事例を共有する
面接指導を行ったことによって実際に労働環境が改善した例を共有することも効果的です。
事例①
自動車製造業の職場で、繁忙期に時間外労働が増加する傾向があり、慢性的に人員が足りず社員の多くが過重労働となっており、面接指導でも疲労が蓄積している社員が確認できていた。
→人事及び上司に対して産業医が社員の疲労蓄積の実態を伝えることによって、人員増員につながった。
事例②
システム開発職場の管理監督者の前月の時間外・休日労働時間が91時間であったため、面談指導を実施した。その結果、めまい、吐き気、 頭痛、全身倦怠感が生じていることが確認され、業務負荷増大により身体症状の悪化したと考えられた。
→産業医から会社へ業務量低減について意見を述べ、会社措置として時間外・休日労働時間月60時間未満、業務割り当て変更、在宅勤務(月2回)、増員が検討された。
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厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
厚生労働省「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」
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まとめ
従業員の過重労働を把握する際に有効なのが「疲労蓄積度チェックリスト」の活用です。疲労蓄積度チェックリストは疲労の蓄積度合いを確認するためのツールになります。従業員本人が疲労を自覚することで、面接指導へ申し出やすくしたり、健康管理意識が強くなったりします。
過重労働による弊害は従業員の健康を脅かすだけでなく、作業の生産性にも直結します。企業にとって重要なのは目先の利益だけでなく、従業員の健康も含まれている、という点を十分考慮しましょう。