2021年、育児・介護休業法が大幅に改正され、改正内容は2022年4月から段階的に施行されています。
本改正では、育児休暇に関する新しい制度や義務化された事項が多いため、企業の人事・労務担当者に求められる対応は複雑多岐にわたると予想されます。
そこで当記事では、改正育児・介護休業法に関する主な内容や施行スケジュール、企業側の実務対応、企業が活用できる助成金について解説します。
2021年、育児・介護休業法が大幅に改正され、改正内容は2022年4月から段階的に施行されています。
本改正では、育児休暇に関する新しい制度や義務化された事項が多いため、企業の人事・労務担当者に求められる対応は複雑多岐にわたると予想されます。
そこで当記事では、改正育児・介護休業法に関する主な内容や施行スケジュール、企業側の実務対応、企業が活用できる助成金について解説します。
育児・介護休業法(※)とは、労働者が育児や介護をしながら働き続けられるように、企業ができるサポートについて定めた法律です。
同法は1992年に「育児休業法」として施行されて以降、変化する時代や社会情勢とともに改正されてきました。
直近では2021年6月に大規模な改正が行われ、2022年4月から段階的に施行が始まっています。
ここでは、2021年改正の主な内容や改正に至った背景について順に解説していきます。
※正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
2021年6月の改正は、「育児休業の取得しやすさ」に特化した内容となっています。
そのため企業の雇用環境整備や、制度の周知・取得意向の確認が義務化されました。
また、男性の育休取得率を高めるための「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設や、仕事の忙しさや妻の育休復帰などが考慮される「育児休業の分割取得」など、これまでにない新しい仕組みも出てきます。
ほかにも、育児休業の取得状況を公表するよう義務付けられるなど、企業としては法改正に対応すべき事項が多く含まれています。
厚生労働省が公表した資料「育児・介護休業法の改正について」によれば、出産・育児により退職する女性が依然として一定割合存在する点や、男性の育児・家事参加の時間が長いほど妻の継続就業割合が高い点が主に指摘されています。
こうした点から、女性が育児休業を申請しやすい環境づくりや、男性の育児休業取得を促進する内容が盛り込まれる改正となりました。
今回の法改正のように育児休業取得に関する課題を解決することで、労働者の福利向上、ひいては少子化問題の改善が期待されます。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「育児・介護休業法について」
改正後の育児・介護休業法は、2022年4月、2022年10月、2023年4月の3回に分けて段階的に施行されるスケジュールとなっています。
各段階の施行内容について、ひとつずつ見ていきましょう。
2022年4月施行の改正内容は、次の通りです。
1の「雇用環境整備」では、育児休業と出生時育児休業(産後パパ育休)に関して、具体的に次の4つからいずれかの措置を講じる必要があります。
2で周知すべき事項は次の通りです。
周知の方法は面談や書面交付、また労働者が希望した場合はFAX、電子メールなどによる通達も可能です。
3の要件緩和では、雇用されて間もない従業員についても育児休業が取得できるようになりました。
2022年10月施行の改正内容は、次の通りです。
この2つの改正は、主に夫婦が協同して育児に当たれるようにする目的があります。
1の産後パパ育休は、男性従業員が子の出生後「8週間以内」に「4週間まで」取れる、育休とは別の制度です。配偶者の負担や育児負担に備え、状況に応じて取得できるため、出産後のフォローがしやすくなるとみられます。
2の分割取得については、従来の連続取得の原則が変わり、2回に分割して育休を取得できるようになります。子が1歳以降の場合における育休開始日の要件が緩和される点も含めて、夫婦で育休を交代しながら柔軟に育児が可能です。
2023年4月施行の改正内容は、次の通りです。
具体的には、常時雇用する従業員が1,000人を超える会社は、「男性の育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」を年1回公表しなければなりません。
取得率の算定期間は、公表を行う日が含まれる事業年度(会計年度)の直前の事業年度です。
公表の際は自社ホームページや、厚生労働省運営のWEBサイト「両立支援のひろば」など、誰もが閲覧できる形式にする点も義務化されます。
今回の育児・介護休業法改正は、働く子育て世代の福祉を大きく向上させる内容です。
制度運用のなかで実際に労働者がこのメリットを享受できるよう、企業の人事・労務担当者が実務上求められる対応について把握しておきましょう。
今回改正される内容のうち、「育児休業取得状況の公表の義務化」以外は全企業が対象です。
そのため、企業は施行スケジュールに合わせて随時就業規則を改定していく必要があります。
改定する際の観点や規定例、様式例は厚生労働省のWebサイトに掲載されているため、参考にしてみてください。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」
改正内容のひとつ「育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務付け」に関連して、制度や就業規則の改正に関して全社的に周知を行いましょう。
産後パパ育休や育休の分割取得といった新しい制度の存在や、そうした制度が「自分の会社でも取得できる」という事実を労働者に知ってもらわなければ意味がありません。
特に管理職クラスの人材には十分に研修を施し、育休取得への理解不足によるマタニティ・ハラスメントやパタニティ・ハラスメントの防止にも務める必要があります。
育児休業の分割取得が可能になった点や、開始時期が柔軟になった点は労働者にはメリットですが、労務管理の観点では管理を複雑化しています。
どの従業員が、「いつから」「いつまで」「あと何回」育児休業を取得できるかどうかは、労務管理システムなどで正確に管理できるように一定の仕組みを導入しておきましょう。
2022年10月施行における「産後パパ育休の創設」に伴って、雇用保険の制度として「出生時育児休業給付金」の運用が開始されます。
この給付金は、産後パパ育休を取得した際、休業1日あたり「休業開始時の賃金日額の67%」が支給される制度です (雇用保険法第61条の8第4項)。
休業期間中の生活を保障する重要な目的があるため、休業取得の申出をしてきた従業員には必ず給付金の案内を行いましょう。
「育児休業を取得しやすい雇用環境整備」のためには、相談体制の整備が法的要件の一部となっています。
この点を差し引いたとしても、相談窓口の設置は実務上とても有効で、とりわけ産業医の活用が効果的です。
産業医学の専門家の視点から育児・出産に臨む従業員の体調やメンタルヘルスをウォッチングしつつ、適切な休業取得に導けるでしょう。
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産業医とは?役割や業務内容をわかりやすく解説
最後に、育児・介護休業に関連して、中小企業のみを対象に受け取れる2つの助成金について解説します。
企業が新しい育休制度に対して協力的なほど助成金を受け取りやすいため、取得要件を把握し、活用してみましょう。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)は、男性労働者の育児休業取得に関する要件を満たせば受け取れます。
主な支給要件は、男性労働者の育休取得と育児休業取得率上昇となります。
育休期間中の代替要員を確保した場合に加算支給される要件にも注目です。
育児休業等支援コースは、助成金の区分は次の3つに分かれています。
各区分でそれぞれ要件を満たせば、それぞれに定められた支給額を受け取ることができます。
出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)とあわせて、要件や支給額の詳細は厚生労働省が公表する資料に記載されているため、参照してみてください。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「2022年度 両立支援等助成金のご案内」
今回の育児・介護休業法改正は、仕事と出産・育児の両立に不安を感じる子育て世代には大きな変化となります。
改正に伴う企業の実務対応をしっかりと行えば、人材流出防止につながり、従業員のエンゲージメントも高く保てるかもしれません。
企業としては助成金を活用しながら、改正法の施行スケジュールに合わせた対応を随時実施しましょう。