育児や介護といった家庭の事情と仕事の両立は、国や企業からの支援が重要になります。
近年では、育児や介護以外にも「不妊治療と仕事の両立」について企業の対応が求められています。
そこで当記事では、企業に不妊治療と仕事の両立支援が求められる背景、企業が支援のために検討すべき内容、活用できる助成金について解説します。
育児や介護といった家庭の事情と仕事の両立は、国や企業からの支援が重要になります。
近年では、育児や介護以外にも「不妊治療と仕事の両立」について企業の対応が求められています。
そこで当記事では、企業に不妊治療と仕事の両立支援が求められる背景、企業が支援のために検討すべき内容、活用できる助成金について解説します。
まず、なぜ企業に不妊治療と仕事の両立支援が求められているのでしょうか。
その背景にある、国の制度の変化や不妊治療と離職の関連性について解説します。
2022年(令和4年)4月から、不妊治療が公的医療保険の適用対象になりました。
これによって、タイミング法や人工授精などの「一般不妊治療」、ならびに体外受精・顕微授精などの「生殖補助医療」と呼ばれる基本治療はすべて保険適用となります。
従来の自由診療による高額な治療費が改善されるため、今後不妊治療について積極的に検討する層が増加するでしょう。
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厚生労働省「不妊治療に関する取組」
平成29年度の厚生労働省の調査では、「不妊治療をしたことがある」と答えた人のうち、不妊治療と仕事の両立ができずに退職した方は16%という結果が出ています。
この結果は不妊治療と仕事を両立する難しさを体現しており、労働者アンケートの調査結果では、次のようなことを困難に感じるという回答が出ています。
男性も女性も、検査によって不妊の原因となる疾患があると分かった場合は、原因に応じて薬による治療や手術を行います。
治療が心身に影響して仕事に支障が出たり、仕事の負担が影響して治療に支障が出たりと、働き続けることが困難になってしまうようです。
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厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査事業」
一般事業主行動計画とは、労働者の雇用環境や多様な労働条件を整備するための取り組みについて、特定の事業主(※)が定めなければならない計画です。
この一般事業主行動計画が2021年(令和3年)に改正され、計画に盛り込むことが望ましい事項として「不妊治療を受ける労働者に配慮した措置」が追加されました。
つまり、これまで以上に企業は、不妊治療と仕事の両立支援に対する取り組みが求められているのです。
※常時101人以上の労働者を雇用する事業主
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厚生労働省「不妊治療と仕事の両立のための職場環境の整備について」
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101人以上従業員を抱える企業が知っておきたい一般事業主行動計画
では、企業が労働者の不妊治療と仕事の両立を支援するために、どのような取り組みができるのでしょうか。
4つのポイントに分けて解説していきます。
まず、不妊治療のために休める環境を整備しましょう。
具体的には、有給もしくは無給での特別休暇の創設や、休職制度の適用などが考えられます。
特別休暇の場合、無給であっても人事考課での評価に影響が及ばないなどの条件を設け、従業員が安心して休めるよう考慮が必要です。
すでに休職制度を導入している企業は、不妊治療を休職する際の正当な理由として追加しましょう。
いずれも就業規則の変更といった労務対応は必要になりますが、コストの観点では企業が導入しやすい制度です。
上記のような休暇・休職制度だけでなく、時間単位で取得できる有給休暇制度の導入も有効です。
通常、法定の年次有給休暇は一日単位の取得が原則ですが、企業の裁量で半日単位や時間単位による休暇も付与できます。
時間単位の年次有給休暇制度を導入する場合は、労使協定の策定と就業規則の改定が必要です。
既存の枠組みを拡張する程度の改定のため、こちらも比較的少ない負担での導入が可能となります。
「休ませる」以外の観点では、フレックスタイム制度やリモートワークなどの多様な働き方を促進する制度も、不妊治療の両立支援につながります。
フレックスタイム制度では、月の総労働時間内であれば、日によって従業員自身が働く時間を決められます。
そのため、不妊治療で通院の予定がある日には労働時間を短くして、そうでない日には長く働くといった調整が可能です。
リモートワーク制度は通勤時間の短縮になるため、通院のしやすさにつながるでしょう。
各種制度を導入するほかにも、従業員が不妊治療についての悩みを相談できる窓口の設置が重要です。
そこでのヒアリングを通して、社内のニーズに適した制度の検討や、導入した制度の実施状況などの情報を収集できるメリットがあります。
相談窓口は人事労務担当者を中心に、産業医など専門家の活用も有効です。産業医をまだ導入していない企業は、導入を検討しましょう。
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企業が新しく制度を導入するためには、一定の経済的コストを負担する必要があります。
制度導入をコストの問題で断念してしまわないよう、不妊治療の両立支援関連で国が用意する助成金を活用しましょう。
ここでは、助成金の詳細や対象となる事業主、受け取り可能な助成額について解説します。
両立支援等助成金とは、仕事と家庭が両立できる職場環境づくりを支援するための厚生労働省の助成金です。
この助成金には、育児・出産・介護などの両立支援に加えて、「不妊治療両立支援コース」が用意されています。
不妊治療両立支援コースは、不妊治療と仕事との両立がしやすい職場環境の整備に取り組む企業が助成金を受け取れる制度です。
まず、助成金の対象となる事業主は中小企業に限られます。
さらに、不妊治療のために利用可能な休暇制度・両立支援制度を導入し、労働者が実際にその制度を利用している必要があります。
制度の例としては、以下の通りです。
【不妊治療のための休暇制度(特定目的・多目的とも可)】
企業のトップが制度の目的や方針を労働者に周知し、積極的に利用を促しましょう。
条件を満たした場合に受け取れる助成額には2つのパターンがあります。
1つ目が「環境整備、休暇の取得等」で、労働者が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用している場合、28.5万円が支給されます。
2つ目が「長期休暇の加算」です。こちらは1つ目のパターンで助成金を受給した上で、労働者が不妊治療休暇を20日以上連続して取得した場合に28.5万円が支給されます。
助成額についてまとめると、次の通りです。
1.環境整備、休暇の取得等 | 2.長期休暇の加算 |
---|---|
※<>内は、生産性要件を満たした場合の支給額
生産性要件は専用の算定シートを用いて計算するため、詳細は厚生労働省の公開する情報を参考にしてみてください。
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厚生労働省「2022年度の両立支援等助成金の概要」
不妊治療が保険適用となり、企業にはこれまで以上に不妊治療両立支援が求められています。
不妊治療中の社員が働きやすい環境の整備や休暇制度を導入するなど、企業の人事労務担当者は助成金などを活用しながら社内制度の検討を進めていきましょう。
まずは両立支援に関する社内のニーズを把握し、自社に必要な制度から導入することが重要です。