近年、企業の健康経営を考えるうえで話題に上がることの多い「アブセンティイーズム」という概念をご存じでしょうか?
アブセンティーイズムは企業の生産性に影響を与えうる重要な指標であり、注目が高まっています。
当記事では、アブセンティーイズムの概要や原因、測定方法、企業にもたらす損失、対策などを、事例も交えつつ解説します。
近年、企業の健康経営を考えるうえで話題に上がることの多い「アブセンティイーズム」という概念をご存じでしょうか?
アブセンティーイズムは企業の生産性に影響を与えうる重要な指標であり、注目が高まっています。
当記事では、アブセンティーイズムの概要や原因、測定方法、企業にもたらす損失、対策などを、事例も交えつつ解説します。
アブセンティーイズム(absenteeism:長期欠席)とは、心身の不調を原因とした遅刻や早退、欠勤や休職などで勤務が困難になっている状態です。
アブセンティーイズムに陥った従業員は出勤をストップしてしまうため、当人が関わるチームや組織に影響し、業務生産や業務効率の低下を引き起こすと考えられています。
アブセンティーイズムの原因は、大きく分けて病気や怪我など身体の不調と、不眠や鬱などの精神的な不調の2つです。
また、女性特有の月経や月経前症候群(PMS)も、不調の程度によっては欠勤の要因になります。
従業員の自己判断や産業医による就業制限など、休む根拠にかかわらず、不調が原因で仕事をしていない状態はアブセンティーイズムと見なされます。
アブセンティーイズムとよく一緒に議論されるのが、「プレゼンティーイズム(presenteeism:疾病就業)」です。
プレゼンティーイズムとは、出勤しているものの何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状態です。
アブセンティーイズムは従業員の不調が「休み」という形で見えますが、プレゼンティーイズムの場合は生産性への影響が見えにくい点が問題となっています。
プレゼンティーイズムについての詳しい内容は関連記事をご覧ください。
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プレゼンティーイズムとは?働き方改革を推進する上で重要な生産性指標
アブセンティーイズムを数値として捉える場合、従業員が心身の不調により欠勤・休職した日数とイコールになります。
経済産業省が公表している「健康投資管理会計ガイドライン」では、アブセンティーイズムの代表的な測定方法として、次の3つの方法が推奨されています。
1. 従業員へのアンケート調査
2. 欠勤・休職日数(代替指標)
3. 疾病休業者数・日数
3つの測定方法の中で最もアブセンティーイズムを正確に計測できるのは、従業員へのアンケート調査です。
アンケート内容は「昨年1年間に、自分の病気で何日仕事を休みましたか」といった質問項目で構成され、アブセンティーイズムを自己申告してもらいます。
通常の労務管理では、欠勤・休職日数を把握できてもその休暇理由までは知ることができません。
そこで、アンケート調査を採用することで、有給休暇を含む休暇取得のうち病気によって休んだ日数を把握できます。
何らかの理由でアンケート調査が難しい場合は、勤怠データから測定することになります。
データのみではアブセンティーイズムが過小評価される可能性があるため、可能な限りはアンケートによって実情を測定しましょう。
アブセンティーイズムは従業員が働けていない日数を指すため、その損失はシンプルに以下の計算式で求められます。
「労働生産性損失額(円)= アブセンティーイズム(日数)× 賃金(円)」
つまり、アブセンティーイズムの測定結果は、企業の労働生産性をどれだけ損失したかを算出する計算に用いられます。
ただし、これはあくまでアブセンティーイズムによる労働生産性の損失のみを算出する方法です。従業員の健康問題による損失の全体を把握するためには、その他従業員の健康関連総コストとして医療費や傷病手当金、労災補償費、プレゼンティーイズムによる損失も総合して計算します。
アブセンティーイズムが改善されると、休職していた従業員が勤務可能になることで企業の生産性が向上します。休職中だった従業員が復職することで、その他の従業員のモチベーションアップにつながることもあるでしょう。また、医療費や傷病手当金などのコストを削減できると同時に、退職のリスクが軽減されることで新しい従業員を雇用することによる負担も削減できます。
アブセンティーイズムの改善に向けた取り組みは、プレゼンティーイズムを含む健康問題全般の改善にもつながります。対策を行うことで健康関連の総コストを削減でき、限りあるリソースを有効に活用できるようになるでしょう。アブセンティーイズム対策は、従業員の生産性と経営効率を向上させるために必要不可欠なのです。
まずは、従業員の健康問題が与える影響について損失額を計算することで現状を把握し、その後必要に応じた効果的な対策を行っていきましょう。
アブセンティーイズムを防止するために、企業には何ができるのでしょうか。健康経営の取り組みの事例を3つご紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
大和証券グループでは、女性活躍推進の取り組みの一環として、2018年に「女性特有の健康課題」をサポートする「Daiwa ELLE Plan」が導入されました。
具体的には、エル休暇(月経・更年期の体調不良、不妊治療の際に取得)の新設、女性の更年期への対策支援、社員の健康リテラシーの向上、仕事と不妊治療の両立支援等を拡充するなどの対策を実施しています。
乳がん・子宮頸がんの検診も行なっており、健康リスクが急に高まることを抑止できるためアブセンティーイズムにも効果的な取り組みだといえます。仕事とがん治療の両立支援も行なっており、病気が発覚したあとでも適切な治療を受けながら働き続けられる制度が整備されています。
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大和証券ビジネスセンター「女性活躍推進の取り組み」
株式会社大和証券グループ本社「『Daiwa ELLE Plan』の導入について 」
プラスチック・ゴム製品の製造業である株式会社ヤシマでは、従業員の半数近くが60歳以上の高齢者となっており、安全な環境で元気に長く働いてもらうべく、作業環境の見直しや健康経営に取り組んでいます。その一例として、外部の健康コンサルタントと契約し、月に一回の講話と相談会を実施しています。
講話のテーマは「コロナ禍の健康管理」や「人間ドッグの結果の見方」など、その時のニーズに合わせた内容に設定しています。相談会では、個人的な健康上の悩みについて専門家からアドバイスをもらえるため、病気の早期発見にもつながるでしょう。
製造業ならではの取り組みとしては、5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)を徹底した作業環境の安全対策を通して、高齢従業員にとっても働きやすい環境づくりを実施しています。健康リスクの高い高齢者が安全に無理なく働けるような環境を実現することは、従業員全体の健康を促進し、生産性の向上にも直結するでしょう。
▼参考資料はコチラ
東京都産業労働局「『高齢者活躍職場改善モデル事業』成果発信事例集 シニアが輝く職場をめざして」
道路貨物運送業・倉庫業の株式会社新鮮便では、2016年から、安全と健康に向けた取り組みとして、ドライバー全員を対象に睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査を実施しています。検査は5年ごとに実施し、費用は助成金を利用して会社で負担しています。
結果に応じて精密検査や治療まで実施しており、従業員からは「朝の目覚めが違ってきた」「早期発見につながってよかった」といった声もあがっています。睡眠時無呼吸症候群は、放っておくと脳卒中や心不全などの疾患のリスクが高まると言われています。そのため、検査を通して早期発見することで様々な疾患のリスクを抑えることができます。
アブセンティーイズムは心身の不調により生じる状態のため、企業として個々の従業員に直接働きかけるのは困難です。そのため、企業にできる対策は組織的な健康経営の推進と心得ましょう。
健康経営は、従業員の健康管理について経営の視点から見る考え方です。
アプローチは多種多様で、適切な勤怠管理や職場環境の整備、健康診断結果を受けた施策(社食のヘルシーメニューやヘルスケアアプリの導入)など、課題に応じたものを多角的に採用します。
調査によると、アブセンティーイズムを引き起こす可能性の高い健康リスク項目として、血圧、血糖、健康問題既往症、喫煙習慣、ストレス、不定愁訴があげられています。アブセンティーイズムは健康リスクがある限界点を超えたところで一気に上昇する傾向があるため、これらの項目で高いリスクを抱えている従業員の健康状態がさらに悪化しないよう、きめ細かなサポートが求められます。
▼参考資料はコチラ
古井祐司、村松賢治、井出博生「中小企業における労働生産性の損失とその影響要因」
いずれにおいても、経営層と労務・人事担当者や安全衛生委員会との連携、決定事項の従業員への周知など、組織的な動きが重要です。
産業医と契約し、健康相談窓口を設置する方法はとくに有効です。少しでも不調を感じた時に相談できる窓口を設けることで、アブセンティーイズムやプレゼンティーイズムに陥るリスクを軽減できるでしょう。
産業医の導入について検討している企業は、以下の記事も参考にしてみてください。
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産業医とは?役割や業務内容をわかりやすく解説
アブセンティーイズムは心身の不調により勤務が困難になっている状態です。
健康経営を目指すうえで欠かせない指標になるため、可能な限り正確に測定しましょう。
従業員の健康問題を直接コントロールするのは困難ですが、中長期的に健康のための事業施策を策定し、PDCAサイクルを回していくことが重要です。
産業医などとも連携をしながら健康経営を目指し、アブセンティーイズムの対策に取り組みましょう。