近年では「健康経営」の観点から、従業員の健康増進に取り組む企業が増えています。
その中で、集団の健康増進を行う際に役立つ「ポピュレーションアプローチ」をご存知でしょうか?
この記事では、ポピュレーションアプローチの概要やハイリスクアプローチとの違い、取り組み方や効果などについて、具体例を交えながら解説します。
近年では「健康経営」の観点から、従業員の健康増進に取り組む企業が増えています。
その中で、集団の健康増進を行う際に役立つ「ポピュレーションアプローチ」をご存知でしょうか?
この記事では、ポピュレーションアプローチの概要やハイリスクアプローチとの違い、取り組み方や効果などについて、具体例を交えながら解説します。
ポピュレーションアプローチとは、集団全体に対して健康リスクを下げるための取り組みです。 対象を限定しないため、誰もが抱えているような共通のリスクを特定し、そこへアプローチします。
たとえば、ウイルス感染は誰にでも起こり得るため、「室内ではマスクの着用を」「手指のアルコール消毒にご協力を」と全体に向けて呼びかける必要があるでしょう。
このように、予防活動や公衆衛生活動などを通じて、主に一次予防に用いられるのがポピュレーションアプローチです。
ハイリスクアプローチとは、健康リスクが高い特定層に対する取り組みです。 誰でも当てはまるようなリスクではなく、特定の健康障害や発生しやすいリスクを限定し、個別もしくは集団での生活指導や治療などを通じて二次予防に用いられます。
大前提として、2つのアプローチは二者択一ではない点に留意が必要です。対象集団や健康課題に応じて、適切なアプローチを選択、組み合わせて実践・展開することが必要とされています。
ポピュレーションアプローチで全体の健康リスクを下げ、個々の健康への意識が変われば、ハイリスクアプローチの効果も向上するかもしれません。 互いのアプローチが相乗効果を生み出すような運用が望ましいでしょう。
ここからはポピュレーションアプローチに焦点を絞っていきます。まずはメリットや期待できる効果について詳しく見ていきましょう。
ポピュレーションアプローチは集団全体を対象にするため、とくに低リスク群への健康意識向上や疾病予防といった影響が大きくなります。
基本的には、集団における低リスク群の占める割合は高いため、集団全体としての発症者の減少効果が期待できます。
ポピュレーションアプローチは集団全体に対して無差別に行われます。
そのため、決定するのは取り組みの内容だけであり、集団の中でどの層を対象とするのか、ハイリスク群は誰が該当するのか、といった選定のプロセスを省略可能です。
続いて、ポピュレーションアプローチのデメリットにも着目してみます。採用する際の注意点として留意しておきましょう。
集団全体に一括でアプローチを行う以上、一人ひとりに合った柔軟な健康施策は困難です。
全体という塊を無機的に捉えるため、個人へのインパクトが小さくなるのは避けられないでしょう。
集団に属する個人には性別・年齢・職域・生活圏などさまざまな区分があるため、アプローチの仕方を誤ると、一部の層が対象から漏れてしまう可能性があります。
その場合は健康格差が拡大してしまい、健康経営に支障が出るリスクがあるため、取り組みのテーマは慎重に検討しましょう。
ポピュレーションアプローチは戦略的かつ大規模に行う必要があり、まとまった費用がかかります。 そのため、ただ実施すれば良いというものではなく、しっかりとKPIを設定して計画的に遂行しましょう。
あくまで経営戦略として実施すべきであり、費用対効果の観点は忘れてはいけません。
ポピュレーションアプローチを効果的に実施するには、実施期間や目標を定め、計画的な遂行が不可欠となります。 また、計画の実施後はフィードバックを得て再度計画を洗練させていくPDCAサイクルの循環が重要です。
ここでは、ポピュレーションアプローチの効果的な取り入れ方を4つのプロセスに分けて解説します。
まず、各従業員の健康状態を把握し、組織全体として統計をとる必要があります。 そのためには、定期的な健康診断やストレスチェック、就業状況などの定量的なデータが有用です。パルスサーベイや健康施策実施の参加者アンケートも、従業員の生の声として活用できます。
ポピュレーションアプローチの計画立案に必須となるため、この段階での調査を充実させましょう。
組織の健康に関するデータを収集・分析できたら、そこから課題を洗い出します。「20代従業員の健康への意識が低い」「30代従業員に生活習慣病の傾向がある者が多い」などが一例です。
課題の根拠になっている部分が改善するよう、具体的な数値で目標を設定しましょう。そうすることにより、次回の健康診断結果やアンケート調査などを通じて、目標を達成したか否かを検証できます。
続いて、達成すべき目標に優先順位を設けます。優先順位を決めるにあたっては、以下の要素を考慮しましょう。
洗い出した課題に対して上記の要素を五段階評価などで重みづけして、点数の高い順に優先して取り組みましょう。
アプローチの終了後は、その取り組みを評価し、フィードバックを取得しましょう。評価対象は、主に次の4つです。
評価に必要なデータの選択や収集方法、使用する予算、報告プロセスなどは計画立案の段階で決めておくとスムーズに進められます。
ポピュレーションアプローチの実施方法は、各企業の従業員の健康状態によってさまざまです。ここでは、参考として実施例を5つご紹介します。
定期的な身体活動はプレゼンティーズムの予防にも効果が期待できます。
具体的には、マラソン大会など運動イベントの実施、運動系の部活やサークル活動といった課外活動の運営、ジムやスポーツクラブ入会への補助金の給付など、運動を促進する取り組みは効果的と言えます。
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食生活の改善のためには、社食での健康志向メニューの提供、社食での栄養素・カロリー等の情報掲示、健康志向の食品・飲料の提供や補助などが有効です。
健康的な食事に関する情報発信は比較的簡単に始められるアプローチであり、従業員のヘルスリテラシー向上にも繋がります。
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従業員のメンタルヘルスのケアも健康経営にとって重要です。 実施策としては、相談窓口の設置、メンタルヘルスに関する研修やセミナーの実施などが挙げられます。
相談窓口には産業医など専門知識のある人物を配置しましょう。産業医の導入を検討されている方は、下記の記事もご参考にしてください。
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長時間労働は健康被害に直結する問題であるため、勤怠状況によっては働き方を見直す必要があります。
たとえば、ノー残業デーの導入、PCの強制シャットダウン、有給休暇取得目標の設定、在宅勤務制度の導入、フレックスタイム制の導入など、従業員が働きやすい環境を整えましょう。
喫煙が原因で発症する疾病は、がんをはじめ、脳卒中や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、2型糖尿病、歯周病など多岐にわたるとされます。
とくにCOPDは長期喫煙歴のある中高年に発症しやすく、人口の高齢化傾向もあり、世界的に発症者が多い疾病です。こうした健康被害の対策は、第一に禁煙です。
喫煙者が一定数以上いる職場では、受動喫煙に関する教育、禁煙インセンティブの導入、喫煙所の廃止などを取り入れましょう。
ポピュレーションアプローチの実施で高い効果を得るためには、何点か意識すべきポイントがあります。ここでは、以下の3点についてご紹介します。
ポピュレーションアプローチは集団全体へのアプローチとはいえ、従業員によって健康状態や興味関心の度合いは異なるため、一括での呼びかけでは効果が限られてしまいます。 そのため、集団をいくつかに分類し、呼びかけ方を工夫する必要があります。
まず、組織にどういった属性のグループが分布しているのかを調査しましょう。
健康無関心層とは、食習慣や運動習慣の改善に「関心がない」、または「関心はあるが改善するつもりはない」といった考えを持つ層です。
厚生労働省の調査によれば、20歳以上の男女の3~4割が健康無関心層に該当することもわかっています。
こういった層は、行動を変容させるのがそもそも難しいため、アプローチとしては健康改善を前面に押し出すよりも、娯楽的な要素を強調したり参加インセンティブを設けたりなどの工夫が必要です。
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厚生労働省「国民健康・栄養調査」
部署単位で参加できるイベントや部署間で競う仕組みなどを整えることで、「周りがやっているから自分もやらなきゃ」という心理を利用できます。
周囲環境を含めた健康意識が高まり、優秀だった部署へインセンティブを与えるなどすることで効果がより見込めると考えられます。
ポピュレーションアプローチは、ハイリスクアプローチとあわせて取り入れると効果のある取り組みです。
主に企業の人事労務担当者が、各々のメリット・デメリットや導入事例を理解し、費用対効果の期待できる運用を考える必要があります。
健康経営を目指すうえで、まずは企業を構成する従業員の健康状態や健康意識を把握し、適切な導入方法を検討しましょう。