「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
国連で2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも深く関連するため、企業も意識しなければならない考え方です。
この記事では、SRHRの概要や注目されている背景、実現のために企業にできる施策などについて解説します。
「SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
国連で2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも深く関連するため、企業も意識しなければならない考え方です。
この記事では、SRHRの概要や注目されている背景、実現のために企業にできる施策などについて解説します。
「SRHR」はSexual and Reproductive Health and Rights(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の頭文字をとったものであり、日本語に訳すと「性と生殖に関する健康と権利」です。
性と生殖の観点で「自分の体のことを自分で決める権利」として、国際的には基本的人権のひとつと考えられています。
SRHRに含まれる4つの言葉は互いに組み合わさっているので、それぞれについて下記で解説します。
セクシュアル・ヘルスは、自分の「性」に関する心身の健康です。
心身ともに満たされて幸せを感じられ、社会的にも認められている状態が理想とされます。
リプロダクティブ・ヘルスは、自分の妊娠や出産、性愛といった「生殖」に関する心身の状態です。
生殖についてその人がどのような立場をとっていたとしても、心身ともに満たされている状態が理想とされます。
セクシュアル・ライツは、自分の「性」を自分で決められる権利です。
性意識や性的指向には多様性があり、愛する人の性、性的プライバシー、性的快楽、自分の性のあり方(男か女かそのどちらでもないか)を保証する理念でもあります。
リプロダクティブ ・ライツは、妊娠、出産、中絶について十分な情報を得られ、「生殖」に関するすべてのことを自分で決められる権利です。
子どもを産むか産まないか、いつ・何人子どもを持つか、どう産むか(たとえば無痛分娩をするか否かなど)といったあらゆる考え方を尊重する理念でもあります。
SRHRが世界規模で認知されるようになったのは、1994年、エジプト・カイロで行われた国際人口開発会議(ICPD)が発端です。
ICPDでは、当時行われていた途上国の人口爆発を抑制するための強制避妊や、宗教的な理由による中絶の禁止などが問題視されました。
その結果、生殖に関する教育と健康や、ジェンダー平等の実現による女性の地位向上が喫緊の課題であると国際的に合意され、「リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」が提唱されます。
2002年には、世界保健機関(WHO)がセクシュアルヘルスという言葉を定義し、リプロダクティブ・ヘルス&ライツと非常に密接に関わることから、SRHRとひとまとめにされるようになりました。
SRHRの理念は、2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)にも明記されています。
目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」および目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の具体的な実現手段(ターゲット)から、以下の2点を引用します。
ターゲット3.7
『2030年までに、家族計画、情報、教育を含む性とリプロダクティブ・ヘルスケア・サービスへの普遍的なアクセスを確保し、リプロダクティブ・ヘルスを国家戦略とプログラムに統合する。』
ターゲット5.6
『国際人口開発会議(ICPD)の行動計画及び(世界女性会議)の北京行動綱領、ならびにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康及び権利(SRHR)への普遍的アクセスを確保する』
1994年のICPDでの合意は現在でも引き継がれており、SRHRは国際目標として正式に掲げられているのです。
▼参考資料はコチラ
JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
日本におけるSRHRの社会的な浸透状況は、世界的にみても遅れていると言われています。
日本では戦後早くから人工妊娠中絶が合法化され、また特に大きな政策を動かさずともコンドームが広く流通したことにより、SRHRへの機運が高まりませんでした。
いまでもSRHRという言葉さえ広く知られておらず、課題は多数ありますが、ここでは2点ご紹介します。
日本の「男女共同参画基本計画」では、SRHRを「女性の人権の重要な一つ」と定めていますが、同時に「中絶の自由を認めるものではない」という解釈を含めています。
まず前提として、日本では明治時代(1907年)から続く堕胎罪(刑法212~216条)によって堕胎は禁止されています。母体保護法における、一定の条件を満たした場合に配偶者の同意のうえで認められる人工妊娠中絶は、あくまでその例外という位置付けなのです。
この配偶者同意要件を設けているのは、現在世界203か国のうち、日本を含む11か国・地域のみとなっています。
ただし2021年以降、DVなどで婚姻関係が事実上破綻している場合に同意要件を不要とする方針が、各都道府県の産婦人科医会に通知されました。近年になってある程度動きは見られるものの、法改正にまでは至っていないのが現状です。
中絶手段の選択肢も少なく、現状日本では吸引法や掻爬(そうは)法※の手術に限られており、世界保健機関(WHO)が推奨する経口中絶薬は国内で承認されていません。
※WHOが安全でない方法としている_き出す形の手術
日本で最も一般的な避妊手段はコンドームであり、より避妊効果の高い低用量ピルや子宮内避妊具(IUD)の浸透があまり進んでいません。
それだけでなく、避妊注射、避妊インプラント、避妊シールといった様々な種類のホルモン的避妊薬が存在しますが、そのほとんどが日本で認可されていないのです。
また現在の日本の学習指導要項では、歯止め規定により「人の受精に至る過程(性交)は取り扱わない」ことになっており、避妊についても教育が不十分ではないかとされています。
日本の法整備や学校教育方針などが要因となり、SRHRは社会的に十分に浸透していません。
だからこそ、「企業がSRHR実現のためにできることは何か?」という観点が重要になってきます。
ここでは、2つのテーマに絞った施策例について解説します。
自分の「性」とその「生き方」について自由に選択できる社会の実現のために、女性の経済的自立は不可欠です。
すなわち、男女賃金格差是正への取り組みが、ジェンダー平等にとって大きな一歩となります。
一企業内で性別により賃金を区別しないのは当然として、女性の職域拡大や管理職登用の割合を高めるなど、性別にかかわらず労働者が能力を十分に発揮できる雇用環境を整備しましょう。
SRHRが普及するためには、男女問わずお互いの性について、または心身の健康について理解を深めることが重要です。
そのためにはSRHRという考え方の啓発や、性に関する多様性・公平性・包括性(DEI)へのリテラシー向上が必須となります。
企業では、新入社員研修や社員への必須研修にDEIトレーニングを盛り込んだり、アンコンシャスバイアス(無意識化での偏見)の排除に取り組んだりといった施策が挙げられます。
福利厚生に日本国内では保証されていない同性カップルを含めるなど、多様性を盛り込んだ制度を用意するのも有効です。
SRHRは、人々が自分の「性」や「生殖」について他者から認められ、その「生き方」について自由に選択できるような社会の実現のために重要な考えです。
同時に、国際的な流れに日本が付いていけていない現状も知っておく必要があります。
企業の人事・総務労務担当者は、SRHR実現のために社員の経済的自立やリテラシー向上など、自社でできることから推進していきましょう。