近年、女性特有の身体の悩みを解決する「フェムテック」の浸透により、その男性版にあたる「メイルテック」への関心が高まると言われています。
では、男性特有の身体の悩みとはどのようなものでしょうか。メイルテックを理解する上で、性別について考慮した性差医療を理解しなければなりません。
当記事では、メイルテックと性差医療の基礎知識や、男性特有の健康課題、それに関するハラスメントへの注意事項について解説します。
近年、女性特有の身体の悩みを解決する「フェムテック」の浸透により、その男性版にあたる「メイルテック」への関心が高まると言われています。
では、男性特有の身体の悩みとはどのようなものでしょうか。メイルテックを理解する上で、性別について考慮した性差医療を理解しなければなりません。
当記事では、メイルテックと性差医療の基礎知識や、男性特有の健康課題、それに関するハラスメントへの注意事項について解説します。
メイルテック(MaleTech)とは、「Male(男性)」と「Technology(テクノロジー)」をかけ合わせた造語です。
同じ意味としてメンテック(ManTech)とも呼ばれます。
メイルテックは、男性特有の身体の悩みを改善・治療するための技術やイノベーション、製品、サービス全般です。
金融とITを掛け合わせた「フィンテック(FinTech)」のように、ひとつのテクノロジー分野と捉えられるでしょう。
性とテクノロジーの掛け合わせについては、2012年にドイツの生理管理アプリを提供する女性起業家が、女性特有の身体の悩みを解決する「フェムテック(FemTech)」という言葉を編み出したのがきっかけとされています。
男性特有の悩みに関連したテクノロジー自体は、最近では急速に進歩しており、主に薄毛やED(勃起不全)、男性不妊などの問題に対する新しい治療法や製品が次々に開発されています。
それに伴い、これらの問題に対するテクノロジーを指す用語として「メイルテック」という言葉が広まったと考えられます。
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メイルテックやフェムテックの根底には、「性差医療」という概念があります。
性差医療とは、病気の起こり方や症状、重症度、診断や治療の難易度、予防について性差を配慮した医療です。
代表例を挙げると、痛風は男性の方が女性の21倍も発症しやすく、骨粗しょう症は女性の方が男性の13倍も発症しやすいというデータがあります。
受療率が男女で2倍近くの差がある疾患は多数存在しており、以下の表のようになっています。
【男性に多い疾患の男女比率(人口10万人対)】
男性に多い疾患 | 男性 | 女性 | 比 |
---|---|---|---|
痛風 | 21 | 1 | 21倍 |
食道の悪性新生物 | 10 | 2 | 5倍 |
尿路感染症 | 30 | 14 | 2.1倍 |
急性心筋梗塞 | 13 | 7 | 1.9倍 |
B型肝炎 | 11 | 6 | 1.8倍 |
【女性に多い疾患の男女比率(人口10万人対)】
女性に多い疾患 | 男性 | 女性 | 比 |
---|---|---|---|
骨粗鬆症 | 7 | 92 | 13.1倍 |
膀胱炎 | 2 | 20 | 10倍 |
鉄欠乏性貧血 | 3 | 18 | 6倍 |
関節リウマチ | 14 | 55 | 3.9倍 |
アルツハイマー病 | 6 | 15 | 2.5倍 |
性別によって病態が圧倒的にどちらかに傾いている状態には、それを考慮した医療を提供する必要があるのです。
続いて、メイルテックの対象となる代表的な男性特有の健康課題について、代表的な「男性不妊」「ED」「薄毛」の3項目を解説します。
各健康課題の概要と、それぞれの課題に対するメイルテックの事例についてもご紹介していきます。
男性不妊とは、主に精子を正常に作れないために、男性が受精能力を持たない状態です。
WHO(世界保健機関)によると、不妊の原因の40〜50%は男性側にあるといわれており、睾丸や性器の機能、精子の数や運動性など要因は複合的とされます。
一般的に男性不妊の診断は、精液検査や血液検査、超音波検査などによって行われ、治療方法には、薬物療法、手術療法、人工授精、体外受精などがあります。
男性不妊の診断と治療の分野におけるメイルテックは現在研究や開発が進んでおり、代表的な製品や技術は以下の通りです。
これらの技術の多くはまだ実験的な段階にありますが、精子の分析や保存がメイルテックによって高度化される将来が期待できます。
ED(勃起不全)は、性的な刺激に応じて陰茎が長期的に勃起しない状態です。
EDの原因は、糖尿病、高血圧、運動不足、喫煙などの生活習慣に関することであったり、加齢やストレス、性行為への不安であったりとさまざまです。
ED治療の領域でもメイルテックが使われており、真空勃起装置(VED)や陰茎注射、ペニスリングなどの製品が該当するでしょう。
最近では、高周波の音波を使ったショックウェーブ治療や、低周波の電気刺激を使った治療も効果が実証されています。
また、前立腺がんの切開手術によってEDを発症してしまうケースでは、低侵襲手術の観点でロボット支援手術の採用が注目されています。
薄毛の原因には、さまざまな生活習慣や、男性ホルモンと遺伝が関連した男性型脱毛症(AGA)が挙げられます。
男性の薄毛は、進行状況によって現状の評価とメンテナンス程度に収まる場合もあれば、本格的な治療や対策が必要となる場合もあります。
メンテナンスの観点におけるメイルテックは、AGA外来と連携して頭皮の状態を管理できるメディカルアプリや、LED光線を利用した頭皮マッサージャー、超音波を利用したヘアブラシなどのヘアケア製品が挙げられるでしょう。
治療・対策の観点におけるメイルテックとしては、熟練の職人と同等の植毛が可能なロボットによる自動技術や、3Dプリントで作成するウィッグなどが注目されています。
男性特有の悩みに対するハラスメントは、女性と比較して社会的に認知度が低いため、被害者が抱える苦痛や悩みを深刻化させる可能性があります。
男性不妊やEDは本人が公にしないケースが多いですが、薄毛や肥満、低身長、女性経験などに関するハラスメントは比較的発生しやすいでしょう。
薄毛については、2021年に株式会社毛髪クリニック リーブ21(以下「リーブ21」)が「薄毛男性に対する髪ハラスメント調査」を実施しました。
薄毛の悩みを持つ全国の会社員男性1000人を対象にした同調査では、「薄毛を指摘されて嫌な気持ちになった」と回答したのは全体の70.5%であり、薄毛を指摘された時の対応は「笑ってごまかした」が64.54%という結果が出ています。
この結果を受け、リーブ21は「髪ハラ」の社会認知が進んでいない現状を確認し、自社サービスのさらなる普及に取り組む姿勢を示しました。
重要なのは、「男性特有の悩みに対するハラスメントの存在」そのものを周囲が認識し、問題意識を持つことと言えるでしょう。
会社のような組織内では、労働環境に関する研修やセミナーにテーマとして取り入れたり、専用の相談窓口やハラスメントに関する匿名通報ホットラインを設けたりする取り組みが有効です。
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今後、男性特有の健康の悩みについて社会認知が進むに連れ、メイルテックはより注目されるでしょう。
同時に男性に向けたハラスメントの存在も、「髪ハラ」といった名前付けで顕在化していく流れが予想されます。
人事・総務労務担当者は、全ての社員が健康に働き続けられる持続可能な労働環境の整備のために、「健康課題には性差が存在すること」について十分に理解しておく必要があるでしょう。
性差医療をカバーしつつ、従業員の健康状態を把握するためにも、産業医学の専門家である産業医を導入してみてはいかがでしょうか。
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