従業員の健康を守るために活動するのが産業医です。その活動の中でも、健康上のアドバイスや処遇決定を行う産業医面談は、従業員に直接的に関与する重要な職務です。
しかし、産業医面談の内容は全て会社側に伝わるわけではないため、何を話しているかわかりにくいでしょう。
本記事では、産業医面談で話す内容や面談の効果について解説します。産業医選任を検討中の人や産業医の活用に課題を抱えている人事労務担当者に向けて説明していますので、参考にしてみてください。
従業員の健康を守るために活動するのが産業医です。その活動の中でも、健康上のアドバイスや処遇決定を行う産業医面談は、従業員に直接的に関与する重要な職務です。
しかし、産業医面談の内容は全て会社側に伝わるわけではないため、何を話しているかわかりにくいでしょう。
本記事では、産業医面談で話す内容や面談の効果について解説します。産業医選任を検討中の人や産業医の活用に課題を抱えている人事労務担当者に向けて説明していますので、参考にしてみてください。
産業医面談とは、会社に選任されている産業医が従業員と1対1で行う面談のことです。従業員の心身の健康状態の確認や、健康指導のために行われます。具体的には、以下の目的で実施されます。
産業医は、医学的な知見をもつ専門家として、中立的な立場からアドバイスを行います。従業員のメンタルヘルスケアや健康増進、さらには生産性の向上にもつながる取り組みといえます。
産業医面談では、実際に何を話すのでしょうか。産業医面談は、全従業員が対象となりますが、主に以下の5つの対象者に向けて行います。大きく分けると労働安全衛生法により義務化されているものと、そうでないものに分けられます。
【労働安全衛生法に義務づけられている産業医面談】
【労働安全衛生法の義務ではない産業医面談】
産業医面談で話す内容について、対象者別に解説します。
慢性化した長時間労働は、脳・心臓疾患、精神疾患の発症につながっているとされ、健康課題として対処する必要があります。月80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる従業員(※)に対しては、面接指導の実施が義務づけられています。
従業員から面談の希望があれば、速やかに応じられるようにしておく必要があるでしょう。具体的には、産業医として、長時間労働が続いている従業員と面談し、健康上の措置を行います。従業員から聴取するのは、以下のような内容です。
以上の内容を聴取し、次のように従業員の健康面に配慮した助言を行います。
また、会社に対しても、時間外労働の削減や業務体制の見直しなど、適切な措置を伝えます。面談をもとに、従業員本人だけでなく組織的な面からも、健康保持増進対策を推進します。
※高度プロフェッショナル制度対象の従業員は1週間当たり40時間を超えた時間について、月100時間超行った場合が面接指導の対象。また、研究開発業務従事者は月80時間超の時間外・休日労働を行った労働者が対象となっている。
参考:厚生労働省「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」(PDF)
ストレスチェック実施後、高ストレス者と判定された従業員に対しては、面接指導の実施が義務づけられています。高ストレスによるメンタルヘルス不調や脳・心疾患を予防することを目的に、産業医面談を行います。
高ストレス者の面接指導では、以下のような項目について問診し、業務上のストレス要因について明確化するのが主な流れです。ストレスチェックの結果を振り返り、原因や心身のストレス反応について説明を受けます。
話し合った内容をもとに、報告書や意見書が作成され、会社に共有されます。従業員と相談しながら必要な支援策を明確化するため、会社としての対応が具体化されます。
また、ストレス対処を話し合ったり、性格要因を振り返ったりするなど、適切なセルフケアの指導も行うことが特徴です。
参考:厚生労働省「医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル」(PDF)
関連記事:ストレスチェックで高ストレス者が発覚したらどうすればいい?判定の基準や面談について解説
健康診断で異常所見がみられた従業員に対しては、面談を行い、健康情報を聴取する必要があります。就業上の配慮の判定や保健指導を目的とした産業医面談です。
健康診断を実施したのち、異常所見がある社員に対して事業者は3カ月以内に医師に意見を聴取しなければなりません。
そして、就業上の措置が必要かどうか産業医が判断します。就業上の措置について従業員の了解を円滑に得ることを目的に、従業員の意見を聴取することがあります。
具体的に話す内容としては、生活状況や習慣、ストレスの有無などです。そのほか他にも、異常所見がみられた従業員に保健指導を行う場合もあります。
参考:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(PDF)
休職を希望する従業員に対して相談や必要性の判断を目的として産業医面談が実施されます。主治医の診断書にもとづき、休業に至る理由や健康状態、業務能力の評価を聴取し、会社に対して意見書を作成します。
また、業務過多やストレスを理由に退職を希望している従業員に対しても、産業医面談を行うケースがあるでしょう。産業医が従業員から聴取した意見をもとに、会社に助言を行います。
休職や退職を考えている従業員と産業医が面談することで、事業主は妥当な就業上の措置を実施できます。また、従業員が抱えている問題を丁寧に聞き取ることで、改善点が明確になるため、職場環境の改善にもつながるでしょう。
関連記事:産業医面談による休職命令・指示について判例とともに解説
復職を希望する従業員には、復職可否の判定や復帰後の制限・や配慮の決定を目的として復職面談を行う場合があります。
主治医から復職可能の診断書が出ている場合でも、職務を十分に行える水準に回復していない恐れがあります。職場の実情を知る産業医が現在の状態などを情報収集し、復職判定を行うことが大切です。具体的には、以下のような点を確認し、復職の可否を判断します。
産業医面談は、会社全体にどのような効果をもたらすのでしょうか。3つの主なメリットを解説します。
長時間労働者や高ストレス者など、心身の健康リスクの高い従業員に面談を行うことで、メンタルヘルス不調の予防につながります。とくに、従業員が健康リスクについて適切に理解し、改善のためのアクションを起こしやすくなります。
また、上司や同僚などの社内の人間よりも、中立的な産業医からアドバイスされた方が、従業員は問題意識をもちやすいでしょう。健康リスクを減らせれば、メンタルヘルス不調による離職や休職を防止でき、人材の定着にもつながるでしょう。
不調を訴える従業員がいても、専門的知識がなければ、何らかの措置が必要かどうか判断が難しいでしょう。また、明らかに健康を損ねているのに休まない従業員がいた場合、何を根拠として休ませるのかわからない場合があります。
就業上必要とされる措置を判断するのが産業医の役割です。産業医面談を行えば、健康上の問題が疑われる従業員や休職中の従業員に対し、医学的見地から望ましい措置が明確になります。施策の妥当性を担保することにつながり、関係者の安心感を高められるでしょう。
従業員から聴取した内容をもとに、職場環境の改善に活用できます。従業員としては、職場での不満や改善点は、直属の上司には伝えづらい可能性があります。産業医という中立的な立場であれば、守秘義務も遵守されるため、率直に課題を伝えやすいでしょう。
産業医面談を行う際には、どのようなポイントに気をつけると、会社全体に対して効果をもたらすのでしょうか。
産業医面談では、従業員が安心して相談できるような配慮が大切です。そのために最も重要なのが、相談内容の秘密を遵守することです。相談内容は従業員の同意なく会社に共有されないことや情報共有の範囲など、従業員が安心して相談できるよう周知しましょう。
また、産業医面談には、原則的に上司や人事担当者は同席せず、産業医と1対1で話せるようなルール設定も重要です。さらに、産業医面談のお知らせを従業員に通知する場合は封書にするなど、個人情報に配慮した対応を意識しましょう。
産業医面談で話す内容は、デリケートな悩みを含むため、従業員は率直に話せないことがあります。面談の効果を最大限にするためにも、安心して相談できる細やかな配慮が求められます。
産業医面談を行った後のアフターフォローを重視することが大切です。面談結果や意見書をもとに、社内での処遇や職場環境の改善につなげましょう。具体的には、処遇や職場環境が改善されているか、定期的な調査を実施することが有効です。
従業員個人に対しても、定期的にアフターフォローのための面談をセッティングし、継続的に支援を行いましょう。
また、産業医が常駐していない事業場では、日常業務の中でフォローできるよう仕組み化しておくことが重要です。上司や事業場内産業保健スタッフに情報共有をしておき、不調の兆候がみられないかチェックする体制を整えておくとよいでしょう。
産業医面談の義務や従業員に拒否されたときの対応など、実施する際に抱えがちな疑問について解説します。
従業員は面談を必ず受ける義務はありませんが、事業者には該当する従業員への実施義務があります(労働安全衛生法第66条の8)。従業員からの希望があった場合に速やかに実施しなければなりません(労働安全衛生規則第52条の3・16)。
産業医面談を拒否する従業員に対して、会社側は面談の勧奨はできますが、強制はできません。しかし、放置すると健康状態が悪化し、安全配慮義務を問われる可能性があります。
明らかに健康を害する可能性がある場合、業務命令としての勧奨も検討しましょう。具体的には、以下のような基準を設け、一定以上の数値であれば面接指導を必ず受けるように明示しておきます。
関連記事:産業医による面談・面接指導を拒否された場合の対処法
産業医には基本的には守秘義務が課せられており、面談で知りえた情報を漏らさないよう配慮することが求められています(労働安全衛生法第105条)。
そのため、産業医面談で話された内容は、面談記録や意見書という形で共有されますが、全ては把握できません。基本的には従業員の同意なしでは共有されることはないのです。
しかし、健康問題が深刻で、会社に報告しないと不利益を被る可能性が高い場合は、報告義務を優先させるケースもあります。たとえば、自傷の恐れが強い場合や、一刻も早く病院を受診しないと重篤化する可能性があるときです。
情報共有の範囲や例外について、産業医と話し合って決めておくことが大切です。従業員にも周知し、緊急性の高い情報だけは会社に共有されるようにしておきましょう。
長時間労働者および高ストレス者面接指導は、面談記録や意見書を5年間保管する必要があります(労働安全衛生規則第52条の6・18)。高ストレス者面接指導においては、記録に以下の内容を記載することが求められます(労働安全衛生規則第52条の18)。
産業医は、健康診断を依頼している提携の医療機関や、地元の医師会からの紹介から選任されるケースがあります。常時使用する従業員が50人名未満の事業場については、地域産業保健センターにて顧問医の紹介を受けられます。
ただ、自社が抱える健康課題や従業員のニーズに応じて、最適な産業医を見つけるには、紹介サービスの利用も一つの方法です。
弊社の産業医紹介サービスのワーカーズドクターズでは、産業医を紹介するサービスを提供しております。精神科や婦人科など多様な診療科経験を生かし、従業員の相談に対応できる産業医を紹介可能です。
嘱託、専属、顧問医など、ご希望に合わせた契約形態での提案も行っております。初めて産業医を探される方も、ぜひお気軽にご相談ください。
従業員数50~1,000人程度の企業様向け
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産業医面談は、従業員の健康保持増進に産業医が直接的に関与するものです。会社にとっては、就業上の措置について判断する根拠となり、施策の方針決定に役立つでしょう。
また、産業医面談を安心して相談できる場として機能させていくことで、メンタルヘルスケアをきめ細やかなものにすることができます。従業員が安心して面談を受けられるよう、守秘義務や相談体制などの情報発信を図っていきましょう。
さらに、効果的な産業医面談を行うためには、相談対応の経験が豊富な産業医を選任することも大切です。
ワーカーズドクターズでは、メンタルヘルスに関する対応経験が豊富な産業医や、女性産業医が多数登録しています。企業様の課題に合わせた提案を大切にしておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。