常時使用する従業員数が50人以上の事業場では、産業医を選任する義務があります。従業員数が増えて産業医の選任義務が生じ、探し方に悩んでいる人事・労務担当者も多いのではないでしょうか。
産業医を選任する際には、契約形態に注意することが大切です。産業医紹介の一形態として「派遣」という言葉が使われますが、実際には紹介や業務委託という形で産業医と契約する必要があります。
本記事では、産業医の派遣について、紹介や業務委託との違いや産業医の探し方、報酬相場について解説します。産業医の探し方にお悩みの場合に役立つ内容となっていますので、参考にしてみてください。
産業医の派遣とは?
医療機関などと契約し、所属している産業医を派遣してもらう方法を、産業医の「派遣」と呼びます。
常時使用する従業員が50人以上の事業場では、産業医の選任が義務づけられています。従業員数が1,000人(有害業務は500人)以上になると、事業場専属の産業医が必要です。従業員数が50〜999人の場合、嘱託産業医を選任します。
そのため、医療機関で医師として勤務しながら、企業に派遣されて産業医を兼務するという形態でも選任条件を満たせます。
▼参考
厚生労働省「労働安全衛生法に規定する産業医制度」
「紹介」との違い
外部に委託して産業医に来てもらう方法として「紹介」があります。医師会や紹介会社を仲介して産業医を紹介してもらうことです。
「派遣」の場合、所属している医療機関や専門機関から産業医が派遣されます。一方で、「紹介」は、紹介者を通じて産業医と直接契約を結んで従事してもらう点が異なります。
「業務委託」との違い
混同されやすい言葉として「業務委託」があります。産業医との契約形態の一つである業務委託は、依頼された産業医業務の対価として報酬を支払います。事業主とは対等な契約関係であり、基本的には依頼された範囲の業務のみを行います。
嘱託産業医は他の機関で臨床業務を兼務するため、業務委託が一般的な契約形態です。
産業医の派遣は違法になる?契約上の注意点
産業医の派遣を直接禁止する法律は存在しませんが、医師の派遣は原則的に禁止されています(労働者派遣法施行令第2条)。そのため、「派遣」ではなく「紹介」として、企業は産業医と業務委託契約を結ばなければなりません。
産業医の「派遣」と呼ばれるケースに多いのが、健康診断を依頼している医療機関から医師が派遣される場合です。この場合、派遣される産業医と業務委託契約を締結し、報酬や業務範囲について明確に決めておく必要があります。
▼参考
e-Gov 法令検索「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令」
代表的な産業医の紹介方法4つ
どのように産業医を探せばいいのでしょうか。代表的な4つの紹介方法と、それぞれのメリット、デメリットを紹介します。
1.医師会
地域の医師会から産業医の紹介を受ける方法です。医師会から企業に推薦する場合や、医師会のウェブサイトに公表された名簿から直接問い合わせを行うなど、紹介方法は異なります。
地域によっては紹介を行っていない医師会もあるため、事業場が所在する地域の医師会に問い合わせてみましょう。
メリット
- ・地域の産業特性や労働環境に理解がある医師を紹介してもらえる
- ・無料で紹介を受けられる
- ・都心部でなくても探しやすい
デメリット
- ・産業医との契約や選定、条件交渉は自社で行うため手間がかかる
- ・産業医を交代したい場合は一から新たな産業医を探す必要がある
- ・担当者が慣れていないと対応が難しい
2.健康診断を依頼している医療機関
定期健康診断を依頼している医療機関や専門機関に所属する医師を紹介してもらう方法です。健診機関でも、産業医をはじめとした専門スタッフが所属している場合は契約することが可能です。
メリット
- ・健康診断の事後対応に関して連携が取りやすい
- ・自社の健康課題を理解してもらいやすい
- ・複数の医療機関から選ぶ手間が省ける
デメリット
- ・医療機関に産業医がいない場合は紹介できない
- ・紹介可能な医師の数が限られており、自社に適した医師ではない可能性がある
- ・交代を依頼しようとしても、すでに健康診断の契約関係にあるので断りづらい
3.産業医とつながる人脈
すでに産業医を選任している企業や知人から、自社のニーズに合致する産業医を紹介してもらう方法です。すでに産業医を選任しており、別の事業場で選任義務が生じた場合に、産業医から紹介してもらうこともあるでしょう。
メリット
- ・契約や交渉、必要な手続きなどを具体的に聞ける
- ・選任がスムーズに進む
デメリット
- ・ニーズに沿った人材を紹介してもらえるとは限らない
- ・自社に合わない産業医だった場合に断りづらい
4.紹介会社
近年、紹介会社を利用して産業医を探すことも一般的になってきています。登録している産業医の中から、事業場に適した人材を紹介できます。
メリット
- ・他企業のケースを熟知しているため、自社のニーズに合った産業医を紹介してもらえる
- ・契約手続きや行政機関への届出などを代行してくれる場合がある
- ・契約について産業医と直接やりとりをする必要がない
デメリット
- ・紹介手数料などの費用がかかる
- ・紹介会社の選定に迷う可能性がある
ワーカーズドクターズでは、嘱託産業医の紹介サービスを提供しております。医師求人サイトを運営する弊社のネットワークを生かし、全国規模で産業医の紹介が可能です。また、貴社のニーズに合った産業医のご紹介も可能です。ぜひご相談ください。
嘱託産業医サービス | 産業医の紹介ならワーカーズドクターズ
従業員50人未満の企業は地域産業保健センターへ
常時使用する従業員が50人未満の事業場では、産業医選任の義務はありません。しかし、産業医が関わることで、従業員の休職・復職の判断をしやすくなったり、積極的な保健指導が実施できたりします。企業と従業員双方が納得した対応を取りやすくなるでしょう。
従業員50人未満での産業医選任を検討する場合、地域産業保健センターへの相談が一つの方法です。全国350箇所にあり、無料で相談対応が可能です。
そのほかにも、産業医の紹介会社を利用する方法もあります。ワーカーズドクターズでは、従業員数50人未満の企業様向けに、顧問産業医紹介サービスを提供しております。ぜひご相談ください。
顧問産業医紹介サービス | 産業医の紹介ならワーカーズドクターズ
▼参考
さんぽセンター「Webひろば」
産業医に依頼できる業務
産業医は、労働者の健康管理や職場環境の改善など、幅広い業務を担っています。主な業務内容は以下のとおりです。
- ・健康診断結果にもとづく就業上の措置
- ・ストレスチェック実施
- ・高ストレス者への面接指導
- ・長時間労働者への面接指導
- ・衛生委員会への参加
- ・定期的な職場巡視
- ・職場環境改善の提案
- ・従業員からの健康相談
産業医の業務は、近年ニーズが多様化していることから多岐にわたります。契約の際に、依頼する業務やその割合、頻度など、業務範囲について具体的に決めておくとよいでしょう。
産業医の詳しい役割については、以下の記事もご覧ください。
▼関連記事はコチラ
産業医とは?3つの役割と7つの職務内容、選任義務、選び方を解説
産業医紹介の報酬相場
産業医の報酬は専属、嘱託などの契約形態により異なります。
公益社団法人日本橋医師会が嘱託産業医に行った調査では、以下の額が報酬の目安とされています。報酬の目安を参考にして、産業医との契約や交渉を行うとよいでしょう。
規模
|
基本報酬月額(円)
|
50人未満
|
75,000~
|
50~199人
|
100,000~
|
200~399人
|
150,000~
|
400~599人
|
200,000~
|
600~999人
|
250,000~
|
▼出典
公益社団法人日本橋医師会「産業医報酬基準額について」
▼関連記事はコチラ
産業医の年収や報酬の相場はどれくらい?嘱託産業医・専属産業医別に解説
産業医選びに困ったら「紹介」がおすすめ
産業医を非常勤の形態で選任する場合には、「派遣」ではなく「紹介」により「業務委託契約」を結ぶ必要があります。紹介会社を利用すれば、自社に合った産業医の紹介や選任後の手続きなど手厚いサポートを受けられます。
産業医選びにお困りの場合は、ぜひ利用を検討してみてください。
ワーカーズドクターズでは、メンタルヘルスに関する対応経験が豊富な産業医や、女性産業医が多数登録しています。企業様に合わせた提案を重視しておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。
産業医の紹介、依頼、サポートならワーカーズドクターズ