各企業で健康経営に対する関心が高まる中、産業保健師の導入が注目されています。なぜ企業は産業医だけでなく産業保健師も導入しようとしているのでしょうか?産業保健師の役割や企業での活用事例について紹介します。
産業医だけでは不十分かも?「産業保健師」を採用しませんか?
- 産業保健
産業保健師は年々増加傾向にある
企業での産業保健師の増加は就業保健師の人数増加からうかがえるでしょう。厚生労働省が調査した「令和4年度 衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」では、就業保健師の人数は60,299人と令和2年度から4,704人増加しています。
また、就業保健師のうち病院や保健所ではなく、事業所で働いている人数は以下のように年々増加しています。
平成30年 |
令和2年 |
令和4年 |
|
事業所で働く保健師の人数 |
3,349人 |
3,789人(13.1%増) |
4,201人(10.8%増) |
※()前調査年度からの増加率
事業所で働く保健師の全てが企業の産業保健師として就業しているとは限りませんが年々の増加数から、今後も事業所での保健師(産業保健師)の採用は増えると考えられるでしょう。
産業保健師は企業で働く医療従事者
産業保健師とは健康診断や保健指導、健康相談など、従業員の健康管理に関する業務を行う保健師です。同じ医療従事者である産業医をサポートする役割も担っています。
産業医は従業員が50名以上の事業場で選任義務がありますが、産業保健師には選任義務はありません。しかし、産業保健師は健康診断の準備や従業員への結果のフィードバック、日頃の従業員の健康観察を強化するうえで活躍が期待されています。
▼関連記事はコチラ
産業保健師とは?産業医との違いや仕事内容、導入のメリットを解説
産業保健師には企業と産業医をつなぐ役割がある
選任義務がない産業保健師を企業が自主的に採用する理由は、産業保健体制を強化したいからです。産業医だけでは、限られた時間の中では産業保健に一度に対応しきれない場合もあります。
産業医は嘱託であったり、複数の事業場を1人で対応していたりするため、月に1回の訪問といったケースも珍しくありません。
また、従業員と面談をするタイミングは「高ストレス者への面談」「健診結果で異常の所見があった人」「時間外労働が多い人」などと明らかに面談が必要な場合が優先されがちです。
そのため、産業医は一人一人の不調の把握がしにくかったり、従業員側も普段社内にあまりいない産業医に相談がしづらかったりと健康課題の早期発見、フォローアップがしにくい状況があります。
産業保健師の導入は健康管理強化が期待できる
産業保健師の導入は従業員と産業医の両者にメリットがあります。例えば、産業保健師を日頃の健康相談の窓口として導入することで従業員側は相談しやすくなります。また、産業医は従業員の健康状況を産業保健師から共有されるため状況把握がしやすく適切な対応がしやすくなるケースもあります。
産業保健師は各従業員の健診結果のデータ整理やメンタルヘルス対策、社員への保健指導業務、職場巡視の同行といった産業医の業務と重複する、補助する役割があります。
重症化する前に早期発見、対応が大切な産業保健において産業保健師の導入は産業医や企業の業務負担を和らげ、従業員の健康管理強化に役立つでしょう。
また、産業保健の窓口、健診結果の管理や巡視同行などについて、産業保健師のいない企業では人事・総務の担当者が役割を担うケースが多いですが、その負担軽減にも繋がります。
産業保健師の活用実例
産業保健師の導入が産業保健体制の強化につながる事例を2つ紹介します。
各事業場、産業医との連携役となる保健師の配置
まずは、事業場が多く嘱託産業医の配置が多い企業にとって参考になるような事例です。
事業場が多い場合、事業場ごとに産業保健活動の取り組みにばらつきが出てきやすく、会社全体での産業保健の水準を上げにくいという特徴があります。
A社は複数の事業場を持つ企業ですが、全体での活動方針がなく事業所ごとに独自の活動が行われていたため、活動の内容や水準にばらつきが出てしまっていました。
さらに、各事業所に配置されている産業医は、ほかの事業所の取り組みを知る機会がなく、担当する事業所の課題を把握できていないという課題がありました。
そこで、解決策の1つとして新たに統括部署を設け産業保健師を配置したのです。産業保健師が健康管理に関する各事業場からの問い合わせの窓口となるとともに、各事業場の産業医、衛生管理者等との情報共有などを担うようになりました。その結果、課題であった活動内容や水準の統一を図れるようになったのです。
産業保健師の導入によって情報共有、産業医へのエスカレーションの判断ができ、産業医や企業の人事労務担当の負担軽減にも役立った例ともいえるでしょう。
健診受診後の効果的な就業措置・保健指導
産業医面談までにはいかない従業員の潜在的な健康課題に対する取り組みは後手にまわってしまうという場合があるのではないでしょうか?産業保健師は健康診断実施後の有所見者以外に対する取り組みでも活用されています。
B社では、健診の有所見者全員に対し、産業医面談を実施できていませんでした。また、有所見者以外の健康上の相談に十分に対応できていないという課題がありました。
そこで、産業保健師を新たに配置することで、就業措置検討対象群以外の従業員との面談を可能にしたのです。これにより、所見がない方や、軽度の所見の方の健康相談に対応できる体制を築くことができました。産業保健師の活用によって、産業医面談の要否にかかわらず健康相談がしやすい体制を整えることに成功しました。この事例は産業医面談を要するレベルになる前のフォローとしても有効な取り組みといえるでしょう。
健康経営への活用が期待される産業保健師
企業では「健康相談・保健指導」「ストレスチェックの実施」「職場巡視や安全・衛生委員会への関わり」で活用されている産業保健師。
産業看護師を含むデータではありますが、独立行政法人労働者安全機構が実施した「令和2年度事業場における保健師・看護師の活動実態に関する調査報告書」によると、「保健師の活動が事業場の期待に応えているか」について「十分応えている(64.9%)」「まあまあ(29.1%)」と9割以上の事業場が肯定的な回答をしているようです。
また、「今後、産業保健師・看護師を活用していきたい業務」のなかで、保健師に対して「健康経営への取り組みへの関わり」と回答した割合は保健師・看護師を雇用している事業場では41.4%と健康経営に対する産業保健師への関心の高さがうかがえます。
健康経営への取り組みとして、従業員の健康意識を高めたり不調時に相談しやすい環境を作ったりすることが期待されます。また、産業医に健康啓蒙セミナーを依頼したい場合、選任でない場合は日程調整が難しいといった場合があります。産業保健師がいればセミナー実施を産業保健師にも依頼ができるため健康啓蒙の促進がより期待できます。
まとめ|健康管理や健康経営に有効な産業保健師の導入を
おすすめの資料