休職者が多い職場でよくみられる特徴
休職理由としては病気や怪我などの傷病休職が最も多く、ほかにはボランティアや仕事とは関係のない資格取得を理由とする自己都合や留学などの事由があります。近年は傷病休職のなかでも、メンタルヘルス不調から休職するケースが増えてきています。厚生労働省による令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」ではメンタルヘルス不調により連続1か月以上休職もしくは退職した人がいた事業所の割合は13.5%で、この割合は年々上昇しています。
休職者が多い職場の特徴として考えられることには、職場の人間関係が円滑でないことと長時間労働などの労働環境が考えられます。
休職者が多い企業では、休職理由にメンタルヘルス不調をあげる人が多いという特徴があります。ただし、休職理由は一つではなく、仕事の重圧、仕事量の多さ、長時間労働、やりがいが感じられない、相談できる上司・同僚がいない、業務のサポート体制がないなど、実に多くの要因が複雑に関連しています。
・人間関係:職場の人間関係がうまくいかないことでメンタルヘルスに悪影響が及ぶことがあります。この人間関係というのは、単に性格が合わないというものから、仕事に対する方向性や価値観の違いなど多岐にわたります。社内に相談できる人がいない場合、孤立感を味わい、悩みも深くなることが想定されます。
・仕事量が多い:仕事の量が多く長時間労働になると、余暇はなくなり、睡眠時間も削られることになりがちです。睡眠不足はメンタルヘルスに大きく影響します。
・仕事の重圧:職場で責任ある立場になったり、重要なプロジェクトを任されたりすることはキャリアアップにもつながる喜ばしいことですが、大きなストレスが圧しかかってきます。
・上司との関係がよくない:上司からの威圧的な言動でメンタルヘルス不調となる人も少なくありません。良好なコミュニケーションが築けていないと、上司は部下の成長を願って叱咤激励した場合でもパワハラと受け止められることはあります。
「休職したい」といわれたら
休職希望の従業員の思い、考えをどう聞くか
休職希望の申し出があったときには、まずその人の直属の上司または人事担当者による面談を行いましょう。上司との人間関係が休職理由になっているような場合には、人事担当者が面談を行うか、管理職を交えた複数人の立ち会いのもと面談を実施します。面談は1回で終わらせるのではなく、何度かに分けて行なうのもよいかもしれません。ただし、その場合も休職希望者の体調をみながら行います。人事担当者が同席することで休職理由や休職希望者の状況を把握できるため、その後の手続きなどもスムーズにいくケースが多いと思います。
すでに休職診断書などの書類を提出済の場合には、面談者として人事担当者が適任ですが、休職するかどうか悩んでいる人、出社できず休みがちな人、休職理由が長時間労働などの労働環境と関連がある人に対しては、産業医面談を事前に行なっておくとよいでしょう。産業医が状況を把握しておくことで、休職中の支援に関わりやすくなります。さらには復職後のサポートも細やかに行うことができるでしょう。
面談で話すべきこと・やってはならないこと
面談では、休職の理由や病気の状態や通院状況などを確認し、休職が必要かを判断する必要があります。本人の希望に加えて、医学的な視点から健康状態や業務遂行能力などを適正に判断することが重要になるため、産業医面談を活用しましょう。
休職理由となった病気や怪我が、労災にあたるかどうかの認定要件を確認する必要もあります。労災として認定される条件には、その病気や怪我が仕事に起因していることが挙げられます。メンタルヘルス不調をはじめとする精神障害(精神疾患)の労災認定については、仕事による強いストレスが原因の場合に限られます。その要件を満たすかどうかは、勤務記録や職務内容、上司・同僚との関係性などを詳細に確認する必要があります。
面談でやってはならないことには、会社側の都合で「大丈夫そう」と安易に判断して休職を許可しないことです。本人も「周りに迷惑をかける」と思い、これまで通り働こうと無理をした結果、抑うつ状態になり休職期間が長引くことも考えられます。また、面談内容を面談者以外に広めてしまったりすることは絶対あってはなりません。面談の内容は病名や病状などを含んでおり、個人情報保護の観点から、会社内とはいえ他者に漏れたりしないように配慮する義務があります。
休職することのメリットとデメリット
休職で守られるもの、失うもの
休職することでじっくり病気の治療や療養ができるというメリットがあります。平日に休めることで心療内科をはじめとする病院に通院しやすくなります。また、労働環境や仕事が原因でメンタルヘルス不調になった場合、休職によりそれらのストレスから距離を置くことで、症状が改善することがあります。
なにより、一定期間休んで症状が改善すれば、復職が可能というのは休職のメリットの一つでしょう。ここが退職とは大きく異なる点です。
デメリットとしては、やはり収入が減少するため経済的に不安定となることです。休職期間中に得られる支援もありますが、就業時に比べると確実に収入は減少します。さらに、休職によってビジネスパーソンとしてのキャリアに影響が出る可能性は否定できません。
休職をしないという選択へのサポート
このように休職にはメリットとデメリットの両面がありますが、病気の種類、病状、治療内容や治療期間によっては、休職をしないという選択もあります。医学の進歩により、病気の治療をしながら仕事を継続することが可能なケースは増えてきました。例えば、薬によるがんの治療ならば、外来化学療法といって通院で行うことも可能です。通院するための時間や副作用が出ている期間の働き方などについて、会社からサポートが得られれば、仕事と治療を両立することが可能な人は少なくありません。配置転換や勤務時間の変更、短時間勤務などの配慮が有効な場合もあります。夜間勤務がある人に対しては、治療期間中はシフトを外すなどの配慮が必要でしょう。
休職せず、働きながら療養する従業員に対しては、上司や同僚がその人の病気や病状を理解し、より柔軟なサポートを行うことが必要になります。病気になっても働きやすい職場環境を整える取り組みを両立支援といい、あらかじめ企業は両立支援について明文化や制度化しておくと、いざというときにも混乱せずに対応することができます。
休職者が多い職場で取り組むべき対策
独立行政法人労働政策研究・研修機構『職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査』によると、メンタルヘルス不調から休職に至る割合が高い業種に、「医療・福祉」「情報・通信」「製造業」が挙げられています。「医療・福祉」の不調の原因には、職場の人間関係、仕事の責任の増大などの割合が多く、「情報・通信」では上司・部下のコミュニケーション不足や上司が部下を育成する余裕がない、長時間労働などの割合が多くなることがわかっています。すべての医療・福祉系業界、情報・通信系業界で同様の問題を抱えているわけではありませんが、一定の傾向はあるようです。業種独自の企業風土があるのは仕方がないことかもしれませんが、業界独自の特徴や傾向を知り、そこから職場を見直し、改善すべき箇所は改善していくことで休職者が多い企業体質から脱却できるかもしれません。職場内のコミュニケーション不足を打開するための具体的な方法をいくつか紹介します。
- ・1on1ミーティング
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1on1ミーティングは上司と部下が一対一で行います。ミーティングのテーマは雑談から仕事上の相談、業務の提案まで多岐にわたりますが、一対一ということで、多くの人が出席するミーティングでは発言機会の少ない部下の意見が聞けたり、部下の悩みを早めに気づくことで、適切な対応ができたりするというメリットがあります。また、このようなミーティングを設けることで、従業員のエンゲージメントも高まるといわれています。
- ・メンター制度
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メンター制度は、業界独自の常識や知識も実践的な経験も豊かな先輩社員が、後輩社員をサポートする制度です。業務を通じて具体的な学びができ、疑問や不安もタイムリーに相談することが可能です。コミュニケーションの構築とともに従業員の育成の一環としても必要な制度といえるでしょう
- ・コミュニケーション研修
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人に対してものおじしない、誰に対してもフレンドリーという生まれつきコミュニケーション能力の高い人はいます。しかし、人見知りの人であってもコミュニケーションスキルを取得することで、良好な人間関係が築けるようになります。そのための研修を実施することは有意義なことと考えられます。
- ・社内イベント
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社内旅行や社内運動会、昭和時代のものと思われていたものが、最近復活してきているそうです。オフィスとは違った環境で同じ時間を過ごすことで、上司へ親近感を抱いたり、苦手だと思っていた人とも打ち解けられたりするかもしれません。
働き方改革が叫ばれる昨今、長時間労働や労働環境の改善は急務となっています。
長時間労働となる原因には、慢性的な人員不足・繁忙期の人員の確保ができていない、管理職のマネジメントが徹底されていない、長時間労働が評価される企業風土があるなどさまざまありますが、長時間労働により休職者が増えれば、ますます人員不足は加速し、さらなる休職者を生むことにもなりかねません。
管理職の立場にある人は、業務が1人の従業員に集中していないか、テレワークを導入している企業では、在宅時の労働時間が超過していないかなどを把握するとともに、長時間勤務の従業員の仕事の進め方にも目を配り、指導することも大切です。
休職者が多い企業では、職場の問題を多くの人で共有し、職場環境の見直しを図る必要があります。その際には産業保健職である産業医や産業保健師の、労働者の健康を第一とした意見にも耳を傾けましょう。
休職すること自体は悪いわけではありませんので、会社内での規定や制度、サポート体制を事前に決めておけば、いざ休職希望者がでたときにも適切に対応できるようになります。また、社内の体制づくりと共に、職場において休職や両立支援取り組みを周知させ、理解を得ることも重要です。社内研修や産業医からの衛生講話などで取り上げていくとよいでしょう。
まとめ:メンタル不調の休職者を増やさないために
どの企業でも休職者がでることはあります。したがって、事前に休職者への対応を社内の制度として決めておくことは大切です。同時に、メンタルヘルスの問題による休職の増加については、不調の原因に社内の人間関係や長時間労働などの影響が考えられるため、企業にはそれらのストレスを減らす努力が求められます。休職者を増やさないために社内でできることは何かを話し合い、職場環境をチェックし、働きやすい環境に整えることが大切です。また、がんなど治療期間が長い病気にかかった従業員に対しては、どのようなサポートをするのがよいのかを考え、両立支援の強化も図りましょう。