長時間労働は従業員の心身の健康へ悪影響を及ぼしたり、労働生産性の低下を招いたりと、多くの問題を引き起こします。
長時間労働の是正・防止は「働き方改革」の一角となっており、今後も取り組むべき重要な社会的な要請です。
当記事では、長時間労働問題について簡単におさらいしつつ、企業が行うべき対策や参考となる他社事例について解説します。
長時間労働は従業員の心身の健康へ悪影響を及ぼしたり、労働生産性の低下を招いたりと、多くの問題を引き起こします。
長時間労働の是正・防止は「働き方改革」の一角となっており、今後も取り組むべき重要な社会的な要請です。
当記事では、長時間労働問題について簡単におさらいしつつ、企業が行うべき対策や参考となる他社事例について解説します。
従業員の長時間労働問題について対策を考える前に、何が問題なのかを本質的に理解する必要があります。
まずは、どれだけ働くと「長時間労働」に該当するのか、また、日本における長時間労働の実態について把握しておきましょう。
長時間労働における「長時間」の部分がどれだけの時間を指すのかについて、絶対的な基準は存在しません。
そこで、いくつか相対的な基準となる法律や官公庁の情報を以下に列挙します。
労働者を守るための法律が定める時間や、医学的見地から設定される時間を超える場合、長時間労働と見なされる可能性があります。
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長時間労働の基準とは?あなたの会社は大丈夫?法律や対策を解説
日本における労働時間の実態は、厚生労働省が公表する近年のデータによって、次の3点にまとめられます。
※1:月末1週間の就業時間が60時間を超える労働者
残業時間に着目すると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により一時的に減少した時期があったものの、元の残業時間に戻りつつあることが確認できます。
長時間労働については一定の減少傾向があるものの、昨今のテレワーク普及が進む影響で、企業や管理職から見えず、データにもあらわれない「隠れ残業」が増えてしまう懸念も指摘されています。
この点については働き方が大きく変わった影響による新たな課題です。
過労死対策や働き方改革などの取り組みが効果を発揮する一方、積年の課題は残っている状況と言えるでしょう。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「人口構造、労働時間等について」
長時間労働を是正・防止するためには、組織的かつ包括的に対策を打つのが効果的です。
ここでは、企業の経営層や人事・労務担当が検討すべき長時間労働対策について5つご紹介します。
長時間労働を含む労働の実態は、現場の業務内容と各従業員の労働時間で構成されます。
大前提として、これら構成要素を正確に把握できなければ対策の打ちようがありません。
チーム内のタスク・スケジュールを把握できるツールや、日々の出退勤時間を記録する勤怠管理ツールを導入し、業務内容と労働時間を管理しましょう。
人事評価制度において、従業員の評価軸が「成果」だけになってしまうと危険です。
「成果さえ出せれば長時間労働を厭わない」という価値観や組織風土が生まれかねません。
一方で評価軸に労働時間を加えると、「時間当たりの成果」を定量的に評価できるようになります。
その場合、従業員は生産性を重視した働き方を選びやすくなり、時間外労働の抑制が期待できます。
時間外労働抑制のきっかけとして、残業の事前申請制度というアイデアもあります。
残業の事前申請は法定の義務ではありませんが、社内独自の制度として取り入れることで、不必要な残業が軽減される可能性があります。
突発的な残業も現実として考えられるため、事後申請も認める必要はあるでしょう。
それでも、「自分は残業をする(した)」という意識付けが可能になります。
決まった日に強制的に業務を定時終了とする「ノー残業デー」や、福利厚生の一環で全社一斉休暇日などの休暇制度を設けるのも効果的です。
たとえば、ノー残業デーを週に1度設けることで、定時終了を前提とした業務改善が組織内で必要になります。
また、有給とは別の休暇を設定すれば、定期的なリフレッシュにもなりますし、年間の総実労働時間削減の効果が期待できます。
テレワークやWeb会議は、無駄な業務を省くのに効果を発揮する場合があります。
とりわけ会議体はリモートで実施することで、資料を紙で印刷する手間を省いたり、会議の内容によっては議論や発言をする人以外は手元で作業を継続できたり、といったメリットがあります。
ただし、テレワークそのものに前述した「隠れ残業」という課題が潜在するため、従業員の労働時間の管理を徹底する必要があるでしょう。
業務が忙しくて残業しなければならないという状況をなくすためには、DX化が効果的です。DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、企業がデジタル技術を活用して、業務プロセスやビジネスモデル、企業文化を改革することです。
デジタル技術を活用することで、今まで人の手で行っていた煩雑な業務などが自動化され、作業時間の短縮や生産性の向上を実現できます。
ルーティンワークなどはデジタル技術に代行させることで、よりクリエイティブな業務に時間を使えるようになり、従業員のモチベーションアップも期待できるでしょう。
続いて、長時間労働を削減するため、企業はどのような取り組みを実施しているかを見てみましょう。
実例を4つに厳選して紹介するので、自社でも取り入れられる要素がないか検討してみてください。
H社のとある営業所では、月曜日がほかの曜日に比べて業務が忙しくなる傾向があり、時間外労働が集中しがちでした。
そこで、抜本的に業務効率化を図るため、繁忙である月曜日をあえてノー残業デーに設定するというアイデアが産まれます。
月曜日の朝礼でノー残業デーを周知徹底し、ノー残業という目標から逆算した業務効率化を実施する考えが根付くようになったそうです。
結果として、ノー残業の達成率は高まっており、ほかの曜日の残業も減少するという効果も得られました。
M社では、取引先からの受注量にバラつきがあり、業務の平準化が困難という課題がありました。
そこで、人事評価制度と連動した時間外労働の抑制策を採用することになります。
まず導入したのは、残業を「自己申告表」により事前申請を行う制度です。
これによって、管理職が部下の業務量、業務内容、労働時間を管理しながら、売上とコストの観点から時間外労働が適切かを確認します。
加えて、部下の時間外労働を管理職の評価に組み入れ、ただ管理するだけでなく、積極的に改善措置を取るよう働きかける仕組みが導入されました。
結果として、安易な残業が減少した分、時間外労働の削減効果があったようです。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省受託事業 中小企業における長時間労働見直し支援事業検討委員会「時間外労働削減の好事例集」
計画変更や納期対応のため常に柔軟な対応が求められる情報サービス業(IT業)は、一般的に休みが取りづらい業種と言われています。
その中でもN社は、1994年の段階で「全社員が1年に1週間(5営業日)連続で特別休暇を取得できる制度」を導入しました。
制度の導入後は、管理職の責任をもって特別休暇の取得を推進し、役員も率先して取得することで、休みが取りやすい社風を実現しています。
H社は、感染症拡大でテレワークが普及する以前から在宅勤務を積極的に活用しています。
同時期に、移動時間や関連費用削減のためにWeb会議を導入し、勤務時間の効率的な活用と柔軟な働き方を実現しました。
この施策の実施後、実施前と比べて時間外労働が13%減少し、月間の時間外労働が45時間以上の社員が34%減少しています。
長時間労働の対策は、会社の規模や、導入する制度あるいはツールの内容によって取り組みの難易度が異なります。
まずは、業務を効率化して労働時間の短縮を図るのか、抜本的に長時間労働を防止できる仕組みを作るのか、どの方向性で対策を練るべきかを検討しましょう。
残業時間や休暇取得率などのデータから自社の現状を把握し、目標を達成できる適切な手段を選択するのが理想です。
今回ご紹介したような他社の改善事例を社内で共有したり、稟議を回す前に産業医へ相談したりして、改善を図れるとなお良いでしょう。