産業医の役割の一つであるメンタルヘルスケアは、近年より重要視される傾向にあります。
メンタルヘルスケア領域を強化するには、「精神科医に産業医をしてもらった方がよいのでは」と考える人もいるかもしれません。
しかし、産業医と精神科医のメンタルヘルスケアでの役割は異なるため、病院に勤める精神科医と一括りに考えてしまうと、期待する対応をしてもらえない場合があります。
当記事では、産業医と精神科医のそれぞれの役割、メンタルヘルスケア対応での連携について解説します。
産業医の役割の一つであるメンタルヘルスケアは、近年より重要視される傾向にあります。
メンタルヘルスケア領域を強化するには、「精神科医に産業医をしてもらった方がよいのでは」と考える人もいるかもしれません。
しかし、産業医と精神科医のメンタルヘルスケアでの役割は異なるため、病院に勤める精神科医と一括りに考えてしまうと、期待する対応をしてもらえない場合があります。
当記事では、産業医と精神科医のそれぞれの役割、メンタルヘルスケア対応での連携について解説します。
産業医と精神科医という2種類の医師は、「メンタルヘルスケア」という共通点があるため、一見して役割が似ていると感じるかもしれません。
しかし、実態としては異なる部分があることをご存知でしょうか。
それぞれの役割に焦点を当て、産業医と精神科医の違いについて見てみましょう。
※本記事でいう精神科医とは、「病院等で勤務する」精神科を専門とした医師を指します。
産業医が、産業医としての勤務日以外に病院等で精神科医として勤務している場合もあり、ここでいう産業医とは、企業で産業医業務に従事する立場・役割の医師を指します。
産業医とは、労働者の健康問題や労働災害の予防、職場環境の改善などについて専門的な立場から指導・助言を行う医師です。
病院やクリニックなどに身を置く医師(主治医)とは異なり、企業との契約によって事業場へ訪問・常駐しながら、事業主にかわって労働者が健康で快適に働けるようにさまざまな業務を担当します。
産業医の役割は、あくまで事業場への指導・助言であって、診断・治療といった医療行為は含まれません。
精神科医とは、精神障害や精神的健康問題を専門とする医師です。
病院、診療所、精神保健福祉センターなどの医療機関で働き、うつ病や統合失調症、不安障害などの精神疾患を診断・治療するのが主な役割になります。
このように、産業医と精神科医はそれぞれ異なる役割を担い、異なる領域で活動しています。
結論から言うと、メンタルヘルス対策のために、精神科医の知見が役に立つことは多いでしょうが、必ずしも精神科医である必要はありません。
もちろん、企業におけるメンタルヘルスへの対応は重要です。
改めてその背景を理解したうえで、理由について解説していきます。
まず、SNSの普及やテクノロジーの発展による情報過多、コロナ禍をきっかけとした社会的孤立など、現代社会そのものにストレス要因が増えています。
これに加え、労働者は働くことによるストレスも抱えることになります。
厚生労働省の調査によると、仕事や職業生活でストレスを感じている労働者の割合は82.2%(2022年)にも上ることが判明しました。
不安やストレスはメンタルヘルス不調の引き金となるため、企業は産業医と連携して従業員のメンタルヘルスへの対応に注力する必要があるのです。
▼参考資料はこちら
厚生労働省「令和4年『労働安全衛生調査(実態調査)』の概況」
精神科医は精神疾患の専門家ではありますが、メンタルヘルス対策に力を入れるために、必ず精神科医の産業医を選任しなくてはならないというわけではありません。
そもそも、精神科医を専門としながら産業医を担当する医師の割合は少ないのです。
まず、産業医の資格をもつ医師は実働推計約3.5万人とされています。次に、医師の割合を診療科別に見た場合、精神科医の割合は5%前後です。
この割合を産業医の実働数に単純に当てはめた場合、産業医かつ精神科医の医師は約1,750人という計算になります。
産業医は精神科医のように投薬などによる治療は行いません。しかし、従業員がメンタル不調に陥りにくい環境づくりや、メンタル不調の兆候が見られる方をスムーズに受診に繋げること、メンタル不調により休職してしまった方が復職する際の判断やフォローアップなどについて、助言や指導などの支援を行えます。
メンタルヘルスに関する支援としては、ストレスチェック実施後の高ストレス者との面談、メンタルヘルス不調を理由とした休職・復職面談などがあります。
一方で精神科医にとってのメンタルヘルスケアは、疾病から回復し、支障なく日常生活を送れるように投薬や治療を行います。
産業医と精神科医ではメンタルヘルスケア時の目的や手段、立場が異なるため、それぞれ対応する段階や領域が異なります。
産業医と精神科医の役割や立場については以下の表をご覧ください。
産業医 |
精神科医 |
|
対象者 |
特定の企業や職場に勤務する従業員 |
一般の患者や精神疾患を抱える人々 |
ケアの目的 |
安全かつ健康に就労できるようにするため |
精神疾病から回復し、支障なく日常生活を営めるようにするため |
手段 |
面談による助言・指導 |
検査・診断・投薬などの医療行為 |
立場 |
事業場と従業員の中立 |
対患者のみで、患者優先 |
産業医と精神科医は別種の医師だと説明してきましたが、メンタルヘルスケアにおいて両者の連携は重要です。
対象者に治療の必要があるケースでは、産業医が精神科医、主治医と連携を取るケースもあります。
連携は基本的に書面で行われ、精神科医の診断が先にある場合は産業医へ連携され、休職の判断などが下されます。
産業医による療養の判断が先に下された場合は、従業員本人を通じて精神科医に診断書を作成してもらう流れです。
復職判断や復帰支援の際には、復職後の業務内容や配慮内容を精神科医へ連携し、各判断・支援が適切かどうかを確認することも大切になります。この点について、産業医には精神疾患等に関する直接的な治療経験などよりも、主治医の意見を適切に読み取り、企業や業務の状況に照らして判断する知見や、スムーズに精神科医と連携するためのコミュニケーションが求められるでしょう。
メンタルヘルス不調の従業員増加や、精神科医との連携・調整が思うようにいかないといった懸念がある場合は、産業医の体制を増やす選択肢も検討しましょう。
たとえば、内科の専属産業医とすでに契約している場合、嘱託で精神科医やメンタルヘルスケアに強い医師を産業医として追加採用するなどが考えられます。
嘱託産業医は非常勤のため、必要に応じて協力を要請する方法も選択できます。
産業医資格をもつ精神科医の数は少ないですが、メンタルヘルスケアの対応経験豊富な産業医をメインで探してみると良いでしょう。
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産業医は産業医学や労働安全衛生に関わる法規、行政制度の専門家であって、精神医学の専門家とは限りません。
産業医と精神科医の役割は異なり、ケースによって両者の役割は反する場合もあります。
そのため無理に精神科医を産業医として招き入れるのではなく、産業医を複数名体制にするなどして、メンタルヘルスケアの体制強化が望ましいでしょう。
ワーカーズドクターズでは嘱託産業医の追加採用など、ニーズに合わせた産業医の採用対応も行っています。
産業医の体制についてお困りの際は、是非一度ご相談ください。