産業医から退職勧奨はできない

業務遂行能力低下の原因が体調不良やメンタル不調であっても、産業医から退職勧奨はできません。退職勧奨ができない理由と、だれが担うべきなのかを解説します。
退職勧奨は人事部門の役割
一般的に社員への退職勧奨は、労務管理の一環として位置づけられています。
組織の労務管理と人材マネジメントの中心的な責任を担うのは企業の人事部門です。
退職勧奨は「雇用契約の終了に関する管理」の範囲に含まれ、その役割は人事部門が担います。
参考:日本の人事部「労務管理とは|意味、主な業務と知っておきたい法律ルールについて」
産業医は中立的な立場として関わる
産業医は会社・社員双方に偏らず中立であることが前提です。したがって、企業の依頼により産業医が直接退職勧奨を行うことはありません。
また、産業医は労働安全衛生法により、一定規模以上の事業場に選任が義務づけられています。
労働安全衛生法とは社員の安全と健康を守り、快適な労働環境を実現するために制定された法律です。目的実現のため産業医には、産業医学の専門家として独立性と中立性をもって職務にあたることが求められます。
参考:厚生労働省「産業医・産業保健機能と長時間労働者に対する面接指導等が強化されます」
参考: e-Gov 法令検索「労働安全衛生法」
社員とのトラブルや社内の不信感につながる
産業医面談で直接退職勧奨をした場合、強い精神的ストレスを受けた社員がメンタル不調を訴える可能性があります。「産業医に退職を強要され、精神的苦痛を受けた」と社員に訴訟を起こされるかもしれません。
また、退職勧奨に産業医が関与したことが社内に知られれば、他の社員が不信感を抱くでしょう。
産業医の職務内容とは?

産業医面談が安心して話せる場として機能せず、産業医は社員の健康を守るという本来の職務が果たせなくなる可能性もあります。産業医が退職勧奨することで社員に精神的負荷を与えることは控えることが望ましいでしょう。
産業医は社員の健康管理や労働環境改善の専門家であり、その職務は法律上次の9つに分けられます。
- ・健康診断の実施とその結果に基づく措置
- ・長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
- ・ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
- ・作業環境の維持管理
- ・作業管理
- ・上記以外の労働者の健康管理
- ・健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
- ・衛生教育
- ・労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
働く人々が健康で安全に働けるようサポートする役割を担っているのが産業医です
職務のなかに退職勧奨にかかわるものは含まれません。
参考: 独立行政法人労働者健康安全機構「産業医ができること」
産業医面談の目的とは?

産業医面談は産業医の重要な職務の一つであり、問診などにより社員の健康問題を把握し状況に応じて適切な措置を講じるのが目的です。すでに健康問題を抱えている社員や健康障害発症のリスクの高い社員が、産業医面談の対象者です。
たとえば、健康診断の有所見者や長時間労働者、ストレスチェックの高ストレス者、復職判定を希望する休職者などが含まれます。産業医面談はあくまで医学的な専門知識を提供し、社員の健康を守る支援の一環です。
退職の決定や交渉は、企業の人事部門が主体となって対応します。
参考:厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
勤務継続が難しい社員に企業ができる5つの対策

体調不良により、勤務継続が難しい社員に対し企業が支援する場合、以下のような取り組みが有効です。その多くはメンタルヘルス対策と重複します。
- ・柔軟な勤務体制の整備
- ・健康状態の把握
- ・産業医への相談
- ・主治医との面談
- ・職場復帰支援
柔軟な勤務体制の整備
働く時間や場所を自由に選べる勤務体制を整えましょう。リモートワークやフレックスタイム制度、時短勤務などさまざまな選択肢を用意します。
その日の健康状態に応じて社員が最適な働き方が選べるよう、企業は労働環境の整備を検討してみてください。
健康状態の把握
ストレスチェックや健康管理アプリなどで社員の健康状態を把握しましょう
また、産業医や保健師、カウンセラーなどの専門家と定期的に面談し健康状態をチェックする方法もあります。
従業員が不調の兆候に自ら気づけるよう促すことで、症状の悪化を防ぎます。
産業医への相談
体調不良の社員がいる場合は産業医へ相談しましょう。現在の健康状態や勤務継続の可否、復職の可否などについて産業医に意見や助言を求めます。
職場環境の改善や業務負荷の軽減、休職、再休職についても相談しましょう。
産業医のアドバイスにより、社員の健康状態や業務遂行能力が改善する可能性があります。
主治医との面談
主治医に対して、産業医と企業担当者、社員の四者での面談を依頼しましょう。
主治医が職場での社員の様子をすべて把握できているとは限りません。社員の様子が主治医に伝わっておらず、休養が必要なレベルでも復職可能の判断が下されるケースがあります。そのため、社員の情報提供を密に行うことで、主治医が実情を踏まえた判断がしやすくなるでしょう。
企業担当者は社員の業務内容のほか、体調不良が理由の遅刻や欠勤、職場での体調、業務遂行能力の程度について主治医へ情報提供します。
復職可否や就業継続、再休職についての判断をあおぎましょう。企業担当者と主治医の二者面談も可能ですが、不信感を抱かせないためにも社員を交えた面談が理想です。
職場が考える健康面での課題を主治医に伝えることで、同席している社員が自分の健康状態に気づけるという利点もあります。
参考:こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「復職時の主治医との連携のコツは?:専門家が事例と共に回答~職場のメンタルヘルス対策Q&A~」
職場復帰支援
休職者が復職する際、リハビリ出勤の期間を十分に設けましょう。本格的に職場復帰する前の段階で、通勤の練習や軽いオフィスワークに取り組みます。
正しい生活リズムを取り戻し職場環境に少しずつ慣れることで、復職時の心身の負担軽減や再休職の予防につながるでしょう。
復職マニュアルを作成し企業内でリハビリ出勤できれば理想ですが、難しければ社外リワーク施設の利用もおすすめです。
参考:産業医学振興財団委託研究「復職支援マニュアル」
参考:こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「パンフレット・リーフレット/マニュアル・報告書等」
参考: 日本うつ病リワーク協会「リワークプログラムとは」
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体調不良で勤務継続が難しい社員への対策は産業医と相談しながら慎重に
産業医は中立の立場で社員の健康や安全を守るのが職務であり、体調不良で勤務継続が難しい社員への支援は、メンタルヘルス対策として産業医と相談しながら行うのが基本です。
ストレスチェックや健康管理アプリを活用して日常的な健康管理を行いながら、体調不良の兆候がみられた場合は産業医と連携しましょう。勤務できる健康状態かの判断や、必要な配慮について助言を受けて、実効性の高い対処を行うことが大切です。
勤務継続が難しい社員を支援するためには、多様な健康課題に対応できる産業医が必要です。
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