一般健康診断と特殊健康診断の違い
一般健康診断とは
一般健康診断は、労働者の一般的な健康状態を調べることを目的としています。主に雇入時健康診断と1年以内ごとに1回実施する定期健康診断があり、すべての従業員に対して実施義務があります。
特殊健康診断とは
特殊健康診断は、法令で定められた有害な業務に従事する労働者や特定の物質を取り扱う労働者に対して行われる健康診断で、それらの業務等に従事することで健康問題が発生していないかどうかをチェックする目的があります。
実施の頻度や検査項目は業務によって異なります。
特殊健康診断を実施しなければならない業務は以下になります。
- ・高気圧業務
- ・放射線業務
- ・除染等業務特定化学物質業務
- ・石綿業務
- ・鉛業務
- ・四アルキル鉛業務
- ・有機溶剤業務
基本的にはこれらの業務に常時従事する従業員が対象ですが、ベンジジンなどを扱う一定の特定化学物質業務や石綿業務に従事していた労働者には、その業務に従事しなくなった後でも事業者は健康診断の実施義務があります。
つまり、特殊健康診断に指定されているのは有害業務や有害物質を取り扱う業務であり、有害物の体内摂取状況を把握し、健康被害の有無を早期に把握する必要があります。そのため特殊健康診断は必ず一定の期間、頻度で実施しなくてはならないのです。
特殊健康診断を必要とする業務
特殊健康診断を行う8つの業務
- ・高気圧業務
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潜水など高気圧環境で作業する業務で、起こりえる労働災害としては減圧症、窒素酔い、酸素中毒などがあります。
- ・放射線業務
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X線装置や荷電粒子加速装置などを使用したり検査したりする業務で、放射線被曝の可能性があります。
- ・除染等業務
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土壌、特に放射線物質を含む汚染廃棄物などの収集、運搬、保管などの業務を指し、放射線被曝の可能性があります。
- ・特定化学物質業務
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製造禁止物質の5種類と第1類から第3類までの計75種類(2024年現在)の化学物質を取り扱う業務を指し、発がん性などの健康障害を起こす可能性があります。
- ・石綿業務
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アスベスト粉じんを吸入する可能性がある作業で、肺がんや石綿肺などの発生リスクがあります。
- ・鉛業務
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鉛や鉛化合物を直接触れたり、粉じん・蒸気を吸入したりする業務を指し、鉛中毒のリスクとともに、神経障害、貧血などの症状を起こす可能性があります。
- ・四アルキル鉛業務
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ガソリンに四アルキル鉛などを混入する業務などを指し、鉛中毒のリスクがあります。
- ・有機溶剤業務
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エチルベンゼンなどの有機溶剤を用いる作業で、有機溶剤による急性中毒、慢性中毒、火災などの労災事例のリスクがあります。印刷会社や塗装工、化学工場、自動車整備士など広い範囲の業務が含まれます。
その他の健康診断
一般健康診断のうち、特定業務従事者に対する健康診断というものがあります。労働安全衛生規則13条に詳しい業務が掲げられており、高熱物体、低温物体を取り扱う業務、ラジウム放射線、X線などの有害放射線に晒される業務、深夜業を含む業務などが含まれます。
また、海外に6か月以上派遣する労働者に対する健康診断は、海外に派遣するときと帰国後国内業務に就くときに健康診断が必要です。食堂や炊事場における給食の業務に従事する労働者に対する検便検査もあり、雇い入れ時と配置替え時に検査が必要となります。
常時粉じん作業に従事する従業員に対して行うじん肺健診、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄りんなどの有害物質を取り扱う業務に就く従業員に対しては歯科医師による健康診断があります。雇い入れ時と配置替え時に加えて、6か月以内に1回は実施する必要があります。
特殊健康診断を基にした対応
特殊健康診断の結果の保存期間
一般健康診断も特殊健康診断も、健康診断の結果を5年以上保管しなければなりません。その理由は、蓄積されたデータを使用することにより効果的・効率的な健診や保健指導を実施するためです。
特殊健康診断の結果の保存期間も5年と定めたものが多いですが、一部のものはより長期間の保存が義務となります。
具体的には、特定化学物質健康診断の特別管理物質、放射線業務の電離放射線健康診断、除染等業務の電離放射線健康診断は30年間、石綿業務従事者に対する健康診断は40年間、じん肺健康診断は7年間の保存義務があります。
【主な特殊診断の結果の保存期間】
高気圧業務 |
5年 |
放射線業務 |
30年 |
除染等業務 |
30年 |
特定化学物質業務 |
5年(特別管理物質は30年) |
石綿業務 |
40年 |
鉛業務 |
5年 |
四アルキル鉛業務 |
5年 |
有機溶剤業務 |
5年 |
保存期間の違いは、それぞれの業務により健康障害を起こしうる期間が異なるためです。石綿業務に従事した者の健康診断結果は業務に従事しなくなってから40年保存する必要がありますが、それは石綿により起こる石綿肺の潜伏期間が15~20年、肺がんは15~40年、悪性中皮腫は20~50年と長期間にわたって高リスクであることがわかっており、業務終了後も長期間にわたって業務記録を保管し健康状態をチェックする必要があるのです。
特殊健康診断の結果によって対応すること
特殊健康診断の結果は従業員本人への通知はもちろんですが、その結果を元に働く現場を評価する必要があります。結果を元に労働者の勤務状態の実情などを考慮しつつ、就業場所や作業内容の変更、労働時間の調節などの措置を講ずる必要があるかを、産業医からのアドバイスを交えて事後措置を行う必要があります。
特殊健康診断で所見があった場合には、医師や保健師による健康指導により早期に健康問題を発見し、医療につなげることが大切です。
また作業内容だけではなく、作業環境が安全な状態にあるかどうかを評価するための作業環境測定の実施と、その結果に応じて施設・設備の設置や新設を行う必要もあります。
特殊健康診断をしないと法令違反になる
特殊健康診断の実施は労働安全衛生法で定められているため、定めのある作業を扱っている場合には必ず特殊健康診断を行いましょう。特殊健康診断が必要な業種にもかかわらず実施を怠ると、労働安全衛生法違反として労働基準監督署からの指導が入ります。指導を受けたにもかかわらず未実施でいる場合には50万円以下の罰金刑が課されることがあります。
2023年4月から、特殊健康診断の対象となる7つの業務のなかでも、特別管理物質などを除く特定化学物質や鉛・四アルキル鉛・有機溶剤を扱う業務については、要件を満たすことで年2回の健康診断を年1回に緩和できるようになりました。以下の緩和要件をいずれも満たすことが必要です。
- ①当該労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分されたこと。(※四アルキル鉛を除く)
- ②直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見がないこと。
- ③直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更がないこと。
四アルキル鉛は作業環境測定の実施が義務はなく健康診断項目として生物学的モニタリングを行っているため、①を除く②、③の要件を満たす場合には、特殊健康診断の回数を年1回に減らすことができます。
まとめ:特殊健康診断を適切に実施して従業員の健康を守る
特殊健康診断の対象となっている業種は、有害物質を扱ったり作業環境自体が健康障害を起こす可能性があったりするものが含まれています。特殊健康診断を適切なタイミングで行うことで、健康障害が生じた場合でも早期発見し、予防策を講じることが可能となります。
一般健康診断同様に、いやそれ以上に特殊健康診断を適切に実施すことは、従業員の健康を守ることにつながるのです。ぜひ特殊健康診断の正しい対象者や項目、実施頻度などを把握しておきましょう。