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【人事労務担当者向け】産業医と目指す働き方改革 ウェルビーイング経営とは?

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更新日: 2025.03.07
【人事労務担当者向け】産業医と目指す働き方改革 ウェルビーイング経営とは?
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この記事を書いた人:ワーカーズドクターズ編集部

【監修】新井久美子(産業医) 研修終了後10年以上救急医として従事、自身のライフスタイルの変化があり産業医資格を取得。現在は嘱託産業医として複数社契約し、産業保健分野を中心に活動している。オンライン面談などを活用しつつ、メンタルヘルス対策や健康相談を重視している。

【監修】新井久美子(産業医) 研修終了後10年以上救急医として従事、自身のライフスタイルの変化があり産業医資格を取得。現在は嘱託産業医として複数社契約し、産業保健分野を中心に活動している。オンライン面談などを活用しつつ、メンタルヘルス対策や健康相談を重視している。

ウェルビーイングという言葉をご存知でしょうか? 医療の現場では比較的よく知られた言葉ですが、近年ビジネスシーンにおいても、従業員のウェルビーイングを重視した経営手法が注目されてきています。今回は、ウェルビーイング経営とは一体どのようなものなのかを解説していきます。

ウェルビーイング経営とは?

ウェルビーイング経営とは_01.jpg

ウェルビーイングの意味と定義

ウェルビーイングとは、心身ともに健康で、社会的な側面においても満たされた状態のことをいいます。世界保健機関(WHO)憲章では、「健康とは完全な肉体的、精神的及び社会的福祉(Well-being)の状態であり、単に疾病または病弱の存在しないことではない」と定義されています。

その考え方を、ビジネスに応用したものが、ウェルビーイング経営です。ウェルビーイング経営では、従業員一人ひとりが心身ともに健康で、幸福度が高い状態で安定して働けるよう、経営全体で働きやすい職場環境を目指していきます。

▼参考資料はコチラ
外務省:「世界保健機関憲章」

ウェルビーイングの2つの側面

ウェルビーイングには以下の2つの側面があるといわれています。

・客観的ウェルビーイング

客観的ウェルビーイングは、平均寿命やGDP(国内総生産)、失業率など、統計データとして評価可能なもののことを指します。これらは、例えば国別や県別などでウェルビーイングについて比較するときなどに用いられます。

・主観的ウェルビーイング

主観的ウェルビーイングは、個人の認知や感情に基づいたものです。例えば、幸福感や満足度といった指標がこれにあたります。幸福感などの指標は、たとえ同じ環境に身を置いていたとしても、それぞれ感じ方が違うため、主観的ウェルビーイングは異なります。そのため、ウェルビーイング経営では従業員一人ひとりの主観的ウェルビーイングを重要視しています。

ウェルビーイング経営と健康経営の違い

ウェルビーイング経営とよく比較される言葉に健康経営があります。
健康経営とは、「従業員等の健康保持・増進の取り組みが将来的に収益性等を高める投資である」との考えのもと、健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践することで、業績向上や組織としての価値向上へつながることが期待されるというものです。

働くうえでの健康保持・健康増進を行うという点では、ウェルビーイング経営と同じですが、ウェルビーイング経営は単に健康であること以上に、精神的、社会福祉的により安定した状態であることを目指しており、健康経営よりも、より包括的で発展的な概念であるといえます。

健康経営が経営者・企業側の自覚によって健康問題に対する施策を実施するものに対して、ウェルビーイング経営は従業員、経営者を含むすべての「働く人」がよりよい状態を目指すことを重視しており、施策の視点は働く個人に近いものになっています。また、働く現場にいる従業員一人ひとりが、ウェルビーイングを向上させることを目指し、現場から問題提起を行い改善していくボトムアップ方式であることも、健康経営との大きな違いです。

  ウェルビーイング経営 健康経営
施策の視点 従業員 企業
施策のきっかけ 現場からのボトムアップ 経営者からのトップダウン
施策によって目指す状態 身体的・精神的・社会的に満たされた状態 身体的・精神的な健康

ウェルビーイング経営が求められる背景

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なぜウェルビーイング経営が注目されているのか?

ウェルビーイング経営が注目されている理由としては、以下の社会的な背景が影響しています。

働き方改革によるワークライフバランスの推奨

働き方改革が進むなかで、仕事と私生活のバランスを取ることの重要性が認識されるようになりました。過重労働の削減やフレックスタイム制度の導入、リモートワークの普及により、従業員の心身の健康や生活の質を向上させることが企業の競争力にもつながり経営への好影響があると理解されるようになりました。

日本の労働人口の減少による人材不足

日本では少子高齢化が進行し、労働人口が減少しています。これにより、企業は優秀な人材の確保と長期雇用がますます難しくなっており、従業員の定着率向上が急務となっています。ウェルビーイング経営により従業員が健康で充実した社会生活を送ることを実現することで、仕事へのモチベーションを高め、離職率を抑える効果が期待されています。結果として、企業は安定した労働力を維持することができます。

SDGsに対する意識の高まり

企業の社会的責任が増すなか、SDGs(持続可能な開発目標)への対応が重要なテーマとなっています。ウェルビーイング経営は、環境や社会、経済の持続可能性を追求するなかで、従業員の健康や福祉を向上させることが求められています。企業が従業員のウェルビーイングに配慮することは、SDGsの目標に貢献し、企業の社会的責任を果たす一環として注目されています。

働き方に対する価値観の多様化

近年、従来の画一的な働き方から、個々の価値観やライフスタイルに合わせた柔軟な働き方へのニーズが高まっています。とくに、年齢や性別に関係なく、自分らしく働ける環境が求められています。このような変化に対応するため、企業は従業員一人ひとりが満足できる働き方を提供することが求められています。

ウェルビーイング経営のメリット

・従業員の健康とモチベーションの向上

ウェルビーイング経営では、従業員の心身の健康を重視し、ストレスの軽減やメンタルヘルスのサポートを行います。これにより、従業員は健康的でかつ生産性が向上し、仕事へのモチベーションが高まります。

・生産性の向上

従業員が心身ともにバランスの取れた生活を送ることを意識することで、過労や健康問題による欠勤が減少し、全体的な労働生産性が向上します。また、リモートワークやフレックスタイム制度など、柔軟な働き方を取り入れることで、効率的な時間管理が可能となります。

・従業員の定着率を向上

従業員の働きやすさや生活の質が改善することで、満足度が高まり、企業への忠誠心や愛着が強まります。そのため、離職率が低下し、人材の定着が促進されることが期待されます。

・企業のブランド価値を向上

従業員の健康や幸福に配慮する企業は、社会的責任を果たしていると評価され、企業のブランドイメージが向上します。とくに、SDGs(持続可能な開発目標)に関連した企業活動を進めることで、外部からの信頼や支持を得やすくなります。企業のブランド価値が高まることで、ここで働きたいといった高いモチベーションを持った、よりよい人材確保につながることが期待されます。結果として、企業の競争優位性を高め、取引先や顧客との関係強化にもつながります。

ウェルビーイング経営への取り組み方と注意点

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ウェルビーイング経営を行う上でのポイント

ウェルビーイング経営を実現するための具体例について以下で解説していきます。

・労働環境・待遇の改善

労働環境や待遇の改善は、従業員の働きやすさを向上させるための基本的な施策です。例えば、長時間労働の削減や柔軟な勤務時間の実現、快適なオフィス環境の提供などがこれに含まれます。これにより、従業員の心身の健康が守られ、ストレスの軽減や仕事への満足度が向上します。

・職場内のコミュニケーションの活性化

職場内のコミュニケーションが活発であると、チームワークが強化され、情報の共有や問題解決がスムーズになります。ウェルビーイング経営においては、上司と部下、または同僚同士でのオープンな対話が重視されます。定期的なミーティングやカジュアルなコミュニケーションの場を設けることで、従業員同士の信頼関係が築かれ、職場の雰囲気が良くなります。これが、仕事への意欲や職場全体の活性化に繋がります。とくにオフィスワークとテレワークを組み合わせるハイブリッドワークの普及に伴い、効率的なコミュニケーションツールやシステムの導入が重要になっています。コミュニケーションツールを活用することで、物理的な距離を超えて従業員間の円滑な情報共有が可能となります。コミュニケーションを円滑に行うことで従業員の孤立感を防ぎ、柔軟な働き方を支援するとともに、業務の効率化にも寄与し、従業員のストレスを軽減する助けにもなります。

・メンタルヘルスケアの充実

メンタルヘルスケアは、従業員が健康的に働くために欠かせない要素です。ウェルビーイングとメンタルヘルスは大きく関連していて、ストレスや不安、過労などが原因で心の健康が損なわれると、仕事の効率が低下し、離職の原因にもなります。産業医によるカウンセリングサービスやメンタルヘルス研修、心理的サポートの体制を整えることで、従業員が精神的にも健康に働ける環境を提供することが可能となります。

・定期的な従業員満足度調査の実施

従業員満足度調査を定期的に実施することで、従業員のニーズや不満を早期に把握し、改善策を講じることができます。この調査は、職場の環境や待遇、上司との関係、ワークライフバランスなど、さまざまな要素についてフィードバックを得るための重要な手段です。調査は主観的ウェルビーイングの把握と向上につながります。結果をもとに改善策を実行することで、さらに従業員の仕事への意欲が高まるといった効果も期待できます。

ウェルビーイング経営における産業医の関わり

産業医の職務は、以下のように定められています。

  • 健康診断の実施とその結果に基づく措置
  • 長時間労働者に対する面談指導・その結果に基づく措置
  • ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
  • 作業環境の維持管理
  • 作業管理
  • 上記以外の労働者の健康管理
  • 健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
  • 衛生教育
  • 労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

参考:厚生労働省「中小企業事業者のために産業医ができること」より

産業医は、従業員が働くうえで健康上の問題が出ていないかどうかを健康診断等でチェックし、面談を通じて労働問題の早期発見に努めます。また、職場環境を把握するために、実際の現場に赴き、問題の有無の確認と評価を実施します。

産業医は企業がウェルビーイング経営を行おうとしたとき、産業保健活動とウェルビーイング経営双方の架け橋として共に目標設定や施策について話し合うことができる強力なパートナーです。ウェルビーイング経営を実現するためには、企業は従業員に対し、「肉体的」「精神的」「社会的」な満足感を提供する必要があります。取り組みを実施するにあたり、産業医は身体的、精神的、社会的な障害が生じていないかなどを健康診断やストレスチェック、産業医面談等を通じて、今改善すべきことは何かを現場から抽出し、健康増進や職場環境の改善などについて必要なアドバイスを行います。

ウェルビーイング経営の注意点

ウェルビーイング経営は、すぐに結果が出るものではありません。それゆえ、初期投資や施策にかかるコストが短期的には利益に直結しないことが多いため、企業は長期的な視点で取り組む必要があります。従業員の幸福を追求することで健康やモチベーションが向上し、結果的に生産性や企業のブランド価値が高まり、長期的な企業成長が得られるのだということを企業全体で理解しておく必要があります。

長期戦略としてウェルビーイング施策を実施する際は、従業員満足度調査や健康状態のモニタリングを定期的に実施して施策の効果を評価し、必要に応じて調整を加えていくことが重要です。短絡的な結果を求めるのではなく、長期的に修正を加え、企業の目指すウェルビーイング経営を実践していく必要があります。
また、ウェルビーイングを定義する際には従業員一人ひとり、個々の価値観やニーズに配慮することも重要です。

全員に一律の施策を適用するのではなく、多様な価値観に対応する柔軟な取り組みが求められます。例えば、ある従業員はワークライフバランスを重視し、別の従業員はキャリアアップや専門スキルの習得を重要視するかもしれません。そのため、個々のニーズに合わせてフレキシブルな対応が求められることも多いでしょう。
企業側がこのような多様性を認めて対応していくことで、「自分が大切にされている」と実感することができ、会社とともに成長し、幸せになるために仕事をするという思いが生まれるのです。

まとめ:ウェルビーイング経営で、従業員が心身ともに健康で幸福感を持って働ける職場へ

ウェルビーイング経営は、従業員の心身の健康を重視し、仕事の満足度や幸福感を高める取り組みです。
フレキシブルな働き方やストレス管理、キャリア支援を通じて、健全で生産性の高い職場環境を作り出します。

ウェルビーイング経営を実践するにあたり、産業医は、従業員の健康管理やメンタルヘルス支援を担当し、健康診断や職場環境の改善提案を通じて心身の健康維持をサポートします。実務的なこと以外にも、現場で働く人と会社役員の架け橋、および総合定期なアドバイザー的な役割も果たすことが可能です。
産業医とともにウェルビーイング経営を実践し、従業員が心身ともに健康で幸福感を持って働ける職場を目指しましょう。

公開日: 2025.03.07
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