ストレスは従業員の生産性を下げる要因のひとつです。一人ひとりへの影響は少ないかもしれませんが、塵も積もれば山となり、企業の経営指標にヒットします。
もちろん、ストレスは従業員に悪い影響を与えるだけではありません。適度なストレスにより生産性が向上する可能性もあります。しかし、従業員全員のストレスを企業が把握するのは困難です。
したがって、従業員が個人、またはその関係者間でストレスと向き合い、解消していく必要があります。その中の考え方のひとつが「コーピング」です。
今回はコーピングの概要から、その種類、企業が取り組めるコーピングのサポート施策・方法などを解説します。
コーピングとは?
コーピング(coping)とは、ストレス反応への対応・対処方法です。アメリカの心理学者・リチャード.S.ラザルスが提唱しました。「(困難なことに)対応する、対処する」という意味の英語「cope」が由来で、「ストレスコーピング」とも呼ばれます。
厚生労働省による定義では、ストレスとは「外部から刺激を受けたときに生じる緊張状態」です。外部からの刺激には以下のような要因が挙げられます。
- ・身体的要因……病気、睡眠不足など
- ・環境的要因……天候、温度など
- ・心理的要因……不安、悩み
ラザルスは外部からの刺激をストレスだと認知するまでに、以下の2つの認知的評価が存在すると提唱しました。
一次的評価
一次的評価とは、外部からの刺激が自分にとって脅威なのか否か判断をするフェーズです。例えば、「花形部署から新規事業の部署への移動」を「新規事業を任されるほど期待されている」と捉えるか、「期待されていないので、左遷された」と捉えるかによって考え方は異なります。
この段階では「無関係」「無害・肯定的」「ストレスフル」という3つで評価し、「ストレスフル」という評価を下すと、次の二次的評価へ移ります。
二次的評価
二次的評価とは、一次的評価で「ストレスフル」だという認識の刺激に対して、どう対処するのか判断するフェーズです。
上記の例で考えると、「花形部署から新規事業の部署への移動」が決まり、「左遷された」と評価した人は、同僚への相談、退職の検討、などの対処方法を考えます。
これら2つの評価を「認知的評価」と言い、二次的評価の段階で意図的にストレスの改善へと向かおうとする行動・プロセスがコーピングだと言えます。
企業がコーピングに関心を持つべき理由
コーピングは個人による実施が主となっています。しかし近年、従業員のメンタルヘルスケアの重要性が注目されているため、様々な企業がコーピングの体制構築に取り組んでいます。
厚生労働省の調査によると、現在の仕事や職業生活に関して、強い不安やストレスだと感じる事柄がある労働者の割合は54.2%。2人に1人は仕事上のストレスを抱えているのです。
そのため、従業員のコーピングをサポートする体制の構築が必要になってきていると言えるでしょう。
▼参考資料はコチラ
ストレスって何?|セルフケアでこころを元気に|メンタルヘルスへのとびら|メンタルヘルス|厚生労働省
令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況|厚生労働省
コーピングは「問題焦点型」と「情動焦点型」の2種類
コーピングは「問題焦点型」と「情動焦点型」の2つに分類できます。それぞれについて解説します。
問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングとは、ストレスの原因となっている問題を解決し、ストレスフルな状態から脱する方法です。
たとえば、「あまりプレゼンが得意ではないが、重要な顧客へのプレゼンを担当することになった」場合、以下の方法が問題焦点型コーピングとして考えられます。
- ・プレゼン担当者を変更してもらう
- ・プレゼンの練習をたくさんする
- ・プレゼンのサポートを依頼する
問題焦点型コーピングの特徴は、ストレスの原因を直接的に解決する行動に移すため、根本的なストレスの解消につながる点です。
情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングとは、ストレスの原因となる問題を捉える自分自身の感情に焦点を当て、コントロールする方法です。
たとえば、上記同様「あまりプレゼンが得意ではないが、重要な顧客へのプレゼンを担当することになった」場合、以下の方法が情動焦点型コーピングとして考えられます。
- ・同僚や友人などに話を聞いてもらう
- ・「重要な顧客へのプレゼンを任せられるくらい期待されている」と考えるようにする
- ・趣味に没頭する
情動焦点型コーピングの特徴は、問題焦点型コーピングと比較して、行動に移すのが容易な点です。
企業におけるコーピングの実践方法・制度
それでは、企業はどのように従業員のコーピングをサポートすれば良いのでしょうか。具体的な実践方法・制度を紹介します。
メンター制度
メンター制度とは、所属するチームや部署以外で、年齢が近い、または社歴が近い先輩の従業員(メンター)が新入・若手従業員(メンティー)をサポートする制度です。
業務上の関わりがあまりない従業員が相談者になるため、心理的安全性が比較的高く、直接の上司や同じ部署の従業員には伝えづらい悩みや相談を話しやすくなり、ストレスの緩和・解決へつながります。
1on1
1on1は、上司と部下が1対1でコミュニケーションを取り、部下の成長の促進や、悩みや課題の解決をするための時間です。上司と部下の信頼関係を深める意味もあるため「1ヵ月に〇回」など定期的に開催し、場合によってはランチタイムに実施されることもあります。
1on1は上司が部下を評価する時間ではなく、部下が上司へ、悩みや課題、その他の話題を提供する点が特徴です。メンター制度では業務に直接関わらない従業員が相談者でしたが、1on1は普段から頻繁に関わる上司へ相談できるため、業務上の細かなストレスも含めて解決しやすくなります。
セミナーや研修、講座の実施
企業としてメンタルヘルスケアに取り組むのであれば、従業員全体にストレスとの関わり方を周知する必要があります。セルフケアやマネジメントなど、ストレスと関わりのあるテーマのセミナーや研修、講座の実施により、多くの従業員にストレスとの関わり方を伝えられます。また、参加する従業員にとって、コーピングを含めたストレスとの向き合い方を身につける機会となるでしょう。
まとめ
コーピングは従業員へ強制するものではありません。また、今回紹介した方法・制度を導入し、実践したとしても、中にはストレスをうまく解消できない従業員も存在するでしょう。その場合は産業医への面談(産業医面談)の検討も必要になります。
企業のサステナビリティ(持続可能性)が重視される世界へと変貌を遂げつつある今、経営層・人事担当者の方々は従業員のメンタルヘルスケア対策としてコーピングを念頭に置いておきましょう。
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