「心理的安全性」は、アメリカのGoogle社が生産性の高いチームに必要な要素として挙げて以降、世界中の企業から注目を集めている概念です。
では、心理的安全性とは何を表すのでしょうか。
当記事では、心理的安全性の概要や注目されている背景、もたらす効果・メリットを踏まえ、心理的安全性をより良いチーム作りに活かすアプローチについて解説します。
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「心理的安全性とチームマネジメント」
株式会社メディカルリソース 顧問産業医 平野井啓一先生講演
(「ココロの未病対策?メンタルヘルスも予防が重要?」第一部より)
心理的安全性とは?
心理的安全性とは、組織やチームの中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言・行動できる状態を指します。
これはハーバード大学教授であるエイミー・エドモンドソン氏によって提唱された概念で、「チームにおいて、他のメンバーが自分の発言を恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」と定義されます。
心理的安全性が低い場合には、次の「4つの不安」が生じると言われています。
- ・無知だと思われる不安
- ・無能だと思われる不安
- ・邪魔をしていると思われる不安
- ・ネガティブだと思われる不安
反対に、これらの不安がなく安心して行動・発言できるのが、心理的安全性の高い環境と言えるのです。
なぜ心理的安全性が注目されているのか?
心理的安全性が注目を浴びた背景として、Google社のピープル・アナリティクス(人材データの活用と分析)チームが行った「効果的なチームを可能とする条件は何か」をテーマにした研究があります。
この研究は「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれ、そのなかで心理的安全性は生産性の高いチーム作りにとって圧倒的に重要な要素であると結論づけられたのです。
心理的安全性のほかには、「チームメンバーの仕事への信頼」や「チームの役割・構造・目的の明確さ」、「メンバーが自分の仕事に意味を感じている状態」などが良いチームの条件に挙げられています。
こうした条件のなか、「誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる状態」、つまり心理的安全性が最上位となる点には注目すべきでしょう。
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Google「『効果的なチームとは何か』を知る」
心理的安全性がもたらす効果・メリットは?
では、心理的安全性を高めると、メンバーやチームにどういった効果・メリットがあるのでしょうか。
3つのポイントに分けて具体的に掘り下げてみましょう。
パフォーマンスが向上する
Google社によると、心理的安全性は「メンバーが仕事に完全に没頭し集中できる心理的状態(フロー状態)」を作る要因の1つとされています。
意図的にフロー状態を作り出せれば、チーム全体のパフォーマンスが向上し、生産性や業績の向上が見込めるでしょう。
コミュニケーションが活発化する
心理的安全性が高いチームは、ふとした疑問や小さな不安も気軽に聞ける環境だと言えます。
こうした風通しの良さはコミュニケーションを活発化し、個々の仕事やチーム・プロジェクト全体の方針などについて情報やアイデアが集まりやすくなります。
ポジティブな情報は業務を有利に進め、ネガティブな情報は課題をあぶり出し、アイデアはイノベーションを促進するなど、多くのメリットが期待できるでしょう。
企業へのエンゲージメントが高まる
メンバーが安心して働ける環境では、仕事や職場の人間関係によるストレスは大幅に軽減されます。
そのためストレスを原因とした離職は起こりにくくなり、職場に一体感が生まれるでしょう。
結果として、従業員の企業へのエンゲージメントが高まり、社会的な評判や人材定着率の向上が期待できます。
心理的安全性はどう測る?計測するための「7つの質問」
では、チームにおける心理的安全性はどのように測ればよいのでしょうか?
提唱者であるエイミー・エドモンドソン氏は、心理的安全性を計測する方法として7つの質問を挙げています。
- 1. チームの中でミスをすると、たいてい非難される
- 2. チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
- 3. チームのメンバーは、自分と異なることを理由に他者を拒絶する場合がある
- 4. チームに対してリスクのある行動をしても安全である
- 5. チームの他メンバーに助けを求めることは難しい
- 6. チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
- 7. チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる
上記それぞれの質問に対して、「強くそう思う」「そう思う」「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」で回答し、その結果から心理的安全性を計測します。
質問1、3、5に関してはネガティブな項目となっており、「そう思わない」に近い回答が多いほど心理的安全性が高いと判断されます。
一方で質問2、4、6、7はポジティブな項目であり、「強くそう思う」に近い回答が多いほど心理的安全性が高いと判断されます。
心理的安全性の作り方・高める方法6選
上記7つの質問を用いた計測によって、仮にチームの心理的安全性が低いと判明した場合、どのように高めていけば良いのでしょうか。
ここでは、心理的安全性の高め方について5つの方法をご紹介します。
1. チームメンバーが発言できる機会を平等に設ける
チーム内の会議などで毎回固定のメンバーが発言している状態や、一部のメンバーが会話に参加できていない状態はあまり好ましくありません。
チームメンバーが全員会議に参加していたとしても、実質的な参加メンバーが偏っていると心理的安全性が低くなるおそれがあります。
主にリーダーや進行役が全体を見ながら、新しく入ったメンバーや役職のないメンバーへ意識的に働きかけて、発言の機会を平等に設けるよう努めましょう。
2. お互いへの理解・尊重を示す
チームメンバーは同じ目標に向かって仕事を進めますが、人それぞれ異なるバックグラウンドや考えを持っています。
特定の考えにだけ排他的な風土があると、誰かが肩身の狭い思いをしたり、本来出てくるはずの意見やアイデアが黙殺されたりするかもしれません。
チーム内の一人ひとりがお互いの個性を尊重し合い、認め合う関係を築きましょう。
3. 評価制度を見直す
ミスや評価の低下を恐れて行動や発言を控えてしまわないように、必要に応じて評価制度を見直す取り組みも大切です。
ミスをしたらすぐに評価が下がるようなシステムではなく、結果に至った過程やチャレンジも適切に評価される組織を目指しましょう。
4. ポジティブな表現・受け止め方を意識する
愚痴や不満などのネガティブな発言や、攻撃的な表現が飛び交うチームは心理的安全性が低くなります。
ポジティブな表現や建設的なアドバイスを心がけ、チーム全体の士気を上げましょう。
相手を尊重しながら対等に自分の要望や感情を伝える「アサーティブ・コミュニケーション」の研修を実施するのも有効です。
5. チームメンバーが交流できる機会を設ける
時には職場以外のリラックスできる環境で交流の場を設けるのも、心理的安全性の確立に有効です。
大勢での会食の開催が難しかったり、終業後の会食を好ましく思わないメンバーがいたりする場合は、昼休みに2?3人などの少人数で食事するだけでも実践の価値はあります。
6. 相談窓口を設置する
心理的安全性の低さに、マネジメント層が気付けない場合もあるでしょう。そんな時は、社内に相談窓口を設置することで、社員の心理的安全性を確保しましょう。
その際には、産業医の活用も有効です。メンタルヘルスに関する相談もできるので、産業医の役割を改めて確認し、従業員の健康管理に活かしましょう。産業医を設置していない企業は、導入について検討しましょう。
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まとめ
心理的安全性は、生産性の高いチームづくりに不可欠な要素です。
心理的安全性の計測とその結果を受けての取り組みは、PDCAサイクルとして継続的に実施するのが理想的です。
職場での問題解決やイノベーションのための手段として、企業や企業のマネジメント層は心理的安全性の向上に積極的に取り組みましょう。
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