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【人事労務が知っておきたい】メンタル失調の労災認定基準について

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更新日: 2024.05.22
【人事労務が知っておきたい】メンタル失調の労災認定基準について
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この記事を書いた人:ワーカーズドクターズ編集部

産業保健に関する情報を幅広く発信。産業医業界で10年以上、約1,250ヶ所の事業場の産業保健業務サポートをしているワーカーズドクターズだからこその基礎知識や最新の業界動向など、企業様の産業保健活動に役立つ情報をお届けします。

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正社員からアルバイトまで従業員の心身の健康管理は、企業活動において重要な課題と言えるでしょう。とくに近年はメンタルヘルスへの意識が社会的に高まっています。そのため、人事部門で労務や総務に携わる従業員ならびに経営陣は、社員のメンタルヘルスケアについて認識を深めておくことは必須です。

当記事では、メンタルヘルス失調の労災認定基準を解説します。メンタルヘルスの不調は、誰が抱えてもおかしくない問題です。労災認定基準について理解を深め、自社でできる予防策について確認しましょう。

メンタルヘルスケアのためにも精神障害の労災基準を知っておくことが大切

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2011年12月、厚生労働省は「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を公表しました。業務による心理的負荷(以降、ストレス)による、労働災害の発生件数と請求件数は増加の一途を辿っています。
こうした事態を受けて、企業担当者が適切な対応と労災補償をより迅速にできるよう基準を見直し、周知したかたちです。

同基準は内容が定期的に改定されています。2020年5月には「業務による心理的負荷評価表」の具体的な出来事として、パワーハラスメント(以降、パワハラ)を想定した類型が追記されました。

また直近では、2023年9月にカスタマーハラスメントを想定した項目として、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が追記されています。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省 「精神障害の労災認定」

精神障害が労災として認定される3つの要件を押さえよう

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従業員の精神障害による労災を防ぐには、発症原因を事前に把握したうえで、労災を起こさない環境づくりが大切です。精神障害が労災と認定される要件は下記の3つです

次の1、2及び3のいずれの要件も満たす対象疾病は、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。

  1. 対象疾病を発病していること。
  2. 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
  3. 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。

また、要件を満たす対象疾病に併発した疾病については、対象疾病に付随する疾病として認められるか否かを個別に判断し、これが認められる場合には当該対象疾病と一体のものとして、労働基準法施行規則別表第1の2第9号に該当する業務上の疾病として取り扱う。

引用:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」

とくに人事担当者には、次章でご紹介する2つの内容への理解が求められます。

【補足】精神障害には業務外の要因もある

精神障害の発症しやすさには、従業員個々人の対応力が少なからず関係しています。なぜなら、ストレス耐性には、個人差があるためです。
また、ここで注意が必要なのは、精神障害の原因は単一ではないという点です。なぜなら、精神障害の原因は多岐にわたります。具体的には、

  • ・仕事に起因するもの(業務による心理的負荷)
  • ・仕事以外に起因するもの(業務以外の心理的負荷)
  • ・個体側要因(既往歴・アルコール依存状況など)

があります。

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引用:厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について 業務以外の心理的負荷評価表 別表2」

たとえば、発生した精神障害が仕事に関連するストレスによるものなら、労災として認定される可能性があります。
そのため、精神障害による労災認定には、医学的な裏付けと判断が必要になることを覚えておきましょう。

労災認定基準1.認定基準となる精神障害を発病している

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引用:厚生労働省「精神障害の労災認定」

最初の条件は、認定基準の対象となる精神障害を発病していることです。
「ICD-10精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」では、対象となる10種類の障害を定めています。前述で指定されている障害のうち、とくにメンタルヘルスと関連が深い精神障害は、F3(気分障害)とF4(神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害)が該当するため、把握しておきましょう。
なお、同表のF0(症状性を含む器質性精神障害)ならびにF1(精神作用物質使用による精神及び行動の障害)は、心理的負荷による精神障害の労災からは除外されます。

労災認定基準2.精神障害に関わる業務による強い心的負荷があるか

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次の条件は、認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負担が認められることです。
心理的負荷評価は、程度によって

  • ・強(業務による強い心理的負荷が認められるもの)
  • ・中(「弱」よりは心理的負担があるものの強い心理的負荷は認められないもの)
  • ・弱(日常的に経験するものや一般的に想定されるもの など)

の3段階に評価されます。このうち、労災として認められるのは、業務による心理的負担が「強」と認められた場合です。
精神障害の発病前に関連した仕事上の出来事は、

  • ・特別な出来事
  • ・特別でない出来事

に分類されます。前者は精神障害発生の約6か月前にあった場合、心理的負担は「強」と判断されます。また、複数の出来事が確認された場合には、各出来事の内容と件数を総合的に鑑みて強度を判断します。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について 業務による心理的負荷評価表 別表1」

長時間労働の精神障害に関する労災評価基準

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長時間労働は、精神障害発病の原因にもなり得ます。そのため、精神障害の労災認定において心的負荷評価が行われる項目でもあるのです。

  1. 長時間労働があった場合の、精神障害の労災認定における評価視点は下記の通りです。
    「特別な出来事」としての「極度の長時間労働」…発病直前の極めて長い労働時間を評価。例えば、発病直前の1か月に約160時間以上の時間外労働が発生していた場合などが該当します。​​
  2. 「具体的​​出来事」としての長時間労働…「業務による心理的負荷評価表」の具体的出来事11と12に該当する場合、​​発病前の1か月〜3か月間の長時間労働を出来事として評価
  3. 恒常的長時間労働が認められる場合の他の出来事の総合評価…具体的出来事が発生した前後に恒常的な長時間労働(月100時間程度の時間外労働)があった場合、心理的負荷の強度を修正する要素として評価

それぞれの評価において心理的負荷の強度が「強」と評価される具体例については、次で紹介します。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「精神障害の労災認定」

【図解】精神障害の労災認定で心理的負荷の強度が「強」と評価される例

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精神障害の労災認定において、心理的負荷の強度が「強」と評価される長時間労働のケースを上記の図にまとめました。基準の1つに「ほかの出来事と関連した長時間労働」がありますが、これは何らかの出来事の前後に一定期間にわたる長時間労働がなかったか評価するものです。

精神障害に関わるような長時間労働の評価では、過労死ラインの残業時間を超えているのが一般的です。ただし、ほかの出来事と関連した場合は残業時間が短くても心的評価負荷が高いと判断される可能性もあります。転勤をしたり、配属が変わったりした社員は、高い心的負荷があると判断されるケースもあるのです。何らかの変化があった社員が長時間労働をしていないか、体調などに問題はないかということを気にかけることが大切です。

▼関連記事はコチラ
36協定の残業時間の上限は45時間?超えた場合も解説

パワハラが精神障害の労災認定基準で具体的出来事に追加

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2023年9月に公開された「心理的負荷による精神障害の認定基準」では、特別な出来事以外の事例でパワーハラスメントが追加されました。具体的には、上司などから心身への攻撃を受けた場合が対象となり、心理的負荷の強度も高めに設定され、具体例も詳細に記載されています。
とくに「強」の項目では、性的指向や性自認に関する精神的攻撃などを含むとの一文もあることから、性的マイノリティに対する配慮と情報の扱い方について再度確認しましょう。

【2023年9月改定】カスタマーハラスメントの追加や労災基準の具体例が拡充

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2023年の「心理的負荷による精神障害の認定基準」改正に伴う追加項目に関連して、カスタマーハラスメントの項目が新たに追加されたことにも注目です。
別表では「6.対人関係」に分類されており、顧客や取引先、施設利用者から著しい迷惑行為を受けた場合はパワハラに該当することと記載されています。なお、著しい迷惑行為とは、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求などが具体例として例示されています。

まとめ|メンタルヘルスに取り組み、メンタル失調による労災を防止しましょう

従業員の心身の健康を守るには、メンタルヘルスの維持を重視した取り組みが企業全体で求められています。厚生労働省では、ストレス状況を定期的に把握するための取り組みとしてストレスチェックの定期的な実施を2015年12月に制度化しました。
本記事でご紹介した精神障害による労災基準は、社会情勢の変化や法令の改正などを受けて定期的に内容が見直されています。社会と労働環境の変化に耐えうる職場環境を維持できるよう、経営陣と人事・総務労務担当者は、それぞれ労災認定基準を中心に諸制度の理解を進め、従業員の労災発生防止に努めましょう。

▼関連記事はコチラ
産業医に聞きました!産業保健はなぜ⼤事?企業担当者が押さえておきたいポイント

公開日: 2024.04.30
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