メンタルヘルスケアで気をつけたい3つのストレス
ストレスは、何らかの刺激を受けて生じる歪みのことです。たとえば、柔らかいボールを指で押してへこませたシーンに置き換えた場合、ボールは心身、指はストレス、指で押されてへこんだ部分がストレス反応です。
ストレス反応は、ストレスを受けたことで生じる反応の総称で、身体面(身体症状)・心理面(精神症状)・行動面(行動異常)に分類できます。
身体面への影響
体調不良として自覚しやすい症状が出現します。代表的なものとして、以下が知られています。
・肩こり
・目の疲れ
・疲労
・頭痛
・自律神経の乱れ
心理面への影響
いわゆる「心の不調」として出現する症状です。心理面でのストレス反応には、以下の症状があります。
・不安
・落ち込み
・イライラ
・不眠
・怒り
行動面への影響
ストレス反応は、行動面に影響を与えることもあります。代表的な行動の変化としては以下があります。
・生活の乱れ
・暴言暴力
・暴飲暴食
・飲酒喫煙
メンタルヘルスケアを実践することの大切さ
メンタルヘルスケアが重要な理由は複数あります。ここでは、企業が従業員のメンタルヘルスを重視すべき理由について、改めて確認しましょう。
職場全体の生産性低下を防ぐ
従業員のメンタルヘルスに不調が生じると業務遂行能力が低下し、ひいては職場全体の生産性が本来期待されているレベルで発揮できなくなります。
メンタルヘルスの不調は、判断力の低下、業務に根気強く取り組めなくなる、業務遂行に時間がかかるようになるなど、さまざまなかたちで現れます。勤務態度も、これまで問題がなかった従業員でも、遅刻などが目立つようになり、さらに進行すると休職に至るケースもあります。
メンタルヘルスの不調がさらに悪化すると、従業員の長期休業だけでなく、離職、自殺など最悪のケースに至る事例もあるため、企業がメンタルヘルスケアの重要性を理解し実践することは、ひいては従業員の心身の健康と働き方を守ることにもつながるのです。
従業員の生産性と仕事へのモチベーションアップ
従業員のメンタルヘルスケア改善に問題意識を持って意識を向けることは、職場環境の見直しと改善を図ることにもつながります。
従業員がより働きやすくなるよう組織の在り方を見つめ直し改善する組織改革の実践は、メンタルヘルスに問題を抱えている方もそうでない方も働きやすい環境づくりにつながります。つまり、より働きやすい労働環境の提供は、従業員一人ひとりの労働への意欲と生産性向上も期待できるのです。
従業員や顧客に対するリスクマネジメント
メンタルヘルスの不調が、集中力低下を招き思わぬ事故に繋がることもあります。とくに、重機などを使用する工事現場や電車やバスの運行に携わる公共交通機関では、少しの油断が思わぬ怪我や事故を招くことから、従業員本人のみならず、同僚、ひいては取引先の安全と健康を守るためにも、メンタルヘルスケアは重要な意味を持っています。
同時に、メンタルヘルスの不調を訴えた従業員に対して不適切な対応をとってしまうことは、企業のリスクとなります。健全な組織運営を実施し、従業員からの労働災害や民事訴訟を回避するためにも、企業にはメンタルヘルスケアへの理解と実施が求められています。
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セルフケアをはじめとした4つのケア
メンタルヘルスについて、厚生労働省は「4つのケア」を継続的かつ計画的に実施することを提唱しています。
セルフケア
今回ご紹介するセルフケアのなかでも、従業員本人が実施する内容です。ストレスはどのようなものか知り、自分に置き換えた上で自分にあったストレス予防や対策を講じてもらいます。
ラインによるケア
ラインによるケアとは、上司や管理職など従業員をまとめる立場にある管理監督者が実践するケアです。具体的には、職場環境を日常的に観察して、問題を見つければ改善などの対応や、気がかりな従業員に対する必要に応じた適宜サポートなどがあります。
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事業所内産業保健スタッフなどによるケア
人事労務管理に携わる従業員、企業と契約している産業医や保健師などのスタッフが実施するケアです。
事業所内産業保健スタッフによるケアでは、管理職がラインによるケアをより効率的に行えるよう、事業所内産業保健スタッフが指導や助言などを行います。
具体的には、社内で実施するメンタルヘルスケア対策の具体的な立案、対象となる従業員の健康情報の取り扱い、次に紹介する事業所外資源との連携、メンタルヘルスの問題で休職した従業員の職場復帰時支援など、内容は多岐にわたります。
事業場外資源によるケア
地域の医療機関、地域保健機関、従業員支援プログラム(EAP)などメンタルヘルスケアを取り扱う機関と専門職と協同し、企業が抱えている問題の解消に向けた支援です。
事業外支援資源を活用したケアは、メンタルヘルスについて相談したいが詳細は企業に知られたくないと考える従業員の相談に効果的です。
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メンタルヘルスケア、セルフケアの方法
メンタルヘルスをより健全に保つセルフケアとコツは、日常生活のいたるところにあります。ここでは、自身のメンタルヘルスケアを守るためにも、以下の内容を毎日の生活のなかで意識してみましょう。
適度な運動
1日約20分、意識的に体を動かしましょう。とくに軽いジョギング、サイクリングなど有酸素運動がよいでしょう。特別な運動でなくても、近所の散歩や公園で体を動かすのでも充分です。
体を動かすと、全身の血行が良くなるだけでなく、満足感や開放感なども得られやすく、心身のストレス発散にもつながります。また、不眠傾向がある方なら、適度な運動をすることで寝付きが良くなったり睡眠が深くなったりする効果も期待できます。
体を動かす目的で、ラジオ体操を就業前や就業中に実施する企業もあるそうです。また、従業員の運動機会を増やそうと、福利厚生の一環としてスポーツジムと契約するなどユニークな取り組みもあります。
食生活の見直し
毎食の食事内容と嗜好品などの摂り方を見直すことも、大切なメンタルヘルスケアです。
ストレスには、交感神経に働きかけて食欲を低下させるストレスと、ストレスホルモンの分泌に関係している慢性ストレスがあります。大切な商談の前は緊張しすぎて食欲がなかったのに終了した途端に空腹を自覚した経験、上司や同僚に対して腹が立ってやけ食いをしたり逆に食欲が落ちたりした経験がある方は多いと思います。
これらは、ストレスにより交感神経と副交感神経が刺激されて生じる現象です。
やけ食いをする機会が増えたり食欲が落ちたりしたと感じるような機会があれば、ぜひ一度生活上のストレス源を見直してみましょう。
睡眠と適度な休息
心も体も適度に休息を摂ること、とくに睡眠はストレスと上手に付き合うため重要なことです。日本人は睡眠不足の傾向があると言われています。
寝起きがスッキリしない方、日中に眠気を感じる方は、仕事などで忙しい平日でも最低6時間は睡眠を取れるよう生活を見直してみましょう。自分の睡眠を客観視したい方は、睡眠の状態を記録できるアプリもあります。
・毎朝決まった時間に起床する
・カーテンを開けて朝日を浴びる
・ベッドでダラダラ過ごさない
・夕方以降はコーヒーなどカフェインを含む食品を控える
・ぬるめの湯船に浸かる
・就寝前にスマートフォンなど電子機器はいじらない
・読書、音楽、ストレッチなど心身をリラックスさせて就寝しやすいモードを作る
▼出典
厚生労働省「ストレスと食生活e-ヘルスネット(厚生労働省)」
親しい人との交流や相談
ストレスを抱え込んでいると感じたら、家族や友人など気のおけない人たちに相談するのもよいでしょう。悩みを話すこと自体がストレス解消になりますし、人に話すことで頭の中が整理されて、解決策や対処方法が見えてくることもあるためです。似たような経験をした人がいれば、アドバイスも期待できるでしょう。
周囲に相談しにくいと感じるようなら、お住まいの地域の自治体が開設している相談所や精神保健福祉センターなどの公共機関を頼る方法もあります。
セルフケアに関する企業の取り組み
最後に、企業が実施したメンタルヘルスケアの事例をご紹介します。
メンタルヘルスケアに関する研修実施
北海道セキスイハイム株式会社(以降、北海道セキスイハイム)では、メンタルヘルスに対する従業員の理解を深めようと、産業保健看護職と産業医が連携し、管理職を対象に研修を実施しました。
地理的要因や業務内容を考慮し、受講者が都合のいいタイミングで受けられるよう研修動画を社内イントラネットで共有したとのことです。役員会や部署長の働きかけもあり受講率は100%を達成、受講生からは「とても勉強になった」「定期的に開催してほしい」など、メンタルヘルスケア研修に対して好意的な感想が寄せられていました。
▼出典
こころの耳「職場のメンタルヘルス対策の取組事例 北海道セキスイハイム株式会社(北海道札幌市)」
ストレスチェックの実施
ストレスチェックとは、潜在的なストレスを「見える化」するためのテストです。従業員がどの程度ストレスを溜め込んでいるのか把握するには、ストレスチェックを定期的に実施するのが望ましいです。また、ストレスチェックの実施は、従業員も自身のストレスを見つめるきっかけになります。
なお、ストレスチェックは2015年12月に労働者50名以上の事業所を対象に義務化(労働安全衛生法第66条の10)、労働者50名未満の事業所では努力義務です。
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まとめ|メンタルヘルスの重要性を理解してセルフケアがしやすい環境を整えよう
社会情勢や働き方の変化を受けて、職場環境など労働者を取り巻く環境は大きく変化しています。
従業員のメンタルヘルスを守るには、まずは従業員自身がストレスの存在を認識することと、企業側も正しい対処方法を身につけて適切に対応することが求められます。企業としてもメンタルヘルスを理解し適切な対策を取ることは、従業員の心身の健康を守り、かつ労働に対するモチベーションと生産性の維持にもつながります。
呼吸方法やストレッチなど手軽なセルフケアもありますので、まずは簡単なものから導入してみるとよいでしょう。
企業にとって、従業員のメンタルヘルスケアは避けて通ることのできない、重要な課題の1つです。メンタルヘルスの不調で悩む従業員を減らせるよう、産業医など専門知識をもつ医療職と連携して、自社により適したメンタルヘルスケア対策を推進しましょう。